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その後も謎の2人組の茶化し合いは続いた。こちらに対しては消極的な黒い奴も三日月頭に対してはそこそこ話が出来るらしい。ずっと妙な道具で姿を隠しながら此方を観察していた件について、そろそろそれなりの弁明が欲しい所ではあるのだが、奴らは会話に夢中のようだ。とうとう痺れを切らして俺は奴らの話に割って入ることにした。
「話が盛り上がっているのは結構だが何故ここに居るのかくらいは俺に分かるように話してほし…」
「そもそもあんた逆側にいたなら何かサイン出しなさいよ~!」
「さ、サイン出しても、このマントかぶってたらなにも、み、見えないよ。それにむこうが、気配看破できるかもって、僕は前もって伝えたよ…」
「はぁーん?いいんだ?そんな強気なこと言って?今夜いっぱい"啼かす"わよ…」
「そろそろ貴様らが誰なのかくらいは申してもらいたいのだが。」
少し語気を強める。ふたりはやっと喋るのを止めてこちらを向いた。片方は、喉からひり出すように「ひっ」と声をあげ、もう片方は不満げに肩をすくめた。
「今のあんたにあたしらが誰かなんてそう重要じゃないと思うんだけど?」
「ね、ねぇ、でも自己紹介したほうがいいんじゃないかな、ね?」
「はいはい分かったってば。はぁ…」
三日月頭はまたもや大きなため息をつく。それから急に手をこちらへ向けてきたと思うと先ほどの態度が嘘のように思えるほどキラキラした声でこう言った。
「はろはろー☆ぽまえらいい夢みてるぅ?きゅあきゅあどりーみぃアイドル♡みんなの夢天使、種族はクレセリアなタルトちゃんだよぉ~☆,゜.:。+゜もう夢から覚めたくないキミも大丈夫!もうなにも怖くないから…」
「…。」
「こんな現実抜けだしてッ!!ふたりで夢を見に行くぞッ!!夢天使がキミを護ってあげるよ♡よろしくね♡」
空気が凍り付くとはこのようなことを言うんだと思った。
タルトちゃん(狂)の自己紹介を聞いて俺は猛烈に引き、黒い奴はこの世の終わりかのような顔を浮かべ、ダフネは当然の如く興味を失いかわりにタルトが脱ぎ捨てた透明になれるマントをかぶって遊んでいた。やたら夢というワードが強調され、ご丁寧に節々にウインクまで仕込まれた自己紹介は冗談であっても痛々しいレベルに出来上がっていた。
「…そうか。」
俺は力なくうなだれた。思ったよりやべぇのが来た。そう確信した。
「あ、え、えと、僕は…サントノーレ、です。種族は…ダークライ…」
あのヤバい自己紹介のあとなら大抵のものはまともに聞こえるだろうと確信したのか、黒い奴は自らすんなり名乗ってくれた。とりあえず俺も名乗ろうとしたがタルトに止められた。
「俺は…」
「あー、いいの。そっちのことは知ってるから。」
「知っている、とは?」
「名前呼んでるとこ見てたから。ゼルクと…あー…ダフネでしょ。」
「いつから見ていた?」
「鎖探してる時から。そっちこそ、いつから気づいてたの。」
俺はダフネに目配せする。ダフネは視線に気がついたらしく首から下を覆っていたマントを取った。
「俺はまったく。ダフネ、お前はいつからこいつらに気付いていたんだ?」
「時計が壊れた時だ。おまえのとは違う、息を呑むような声が聞こえたから、誰かいるのかもしれないと思って。」
「ああ…部品がばらけた時だな。」
「じゃあ、あの、僕かも。びっくりしたから…つい。」
「この恐がりさんめ♡えいえい♡」
「や、やめてよタルトちゃん…♡」
ダフネの前で見せつけるんじゃない…。そう一喝しようかと思ったが、あまりしつこく言ったらあえて不毛なやり取りを見せつけてきそうだったのでやめた。あとこれではっきりしたことがある。タルトのおかげでまともに見えているだけでサントノーレとやらも相当あれだ。俺たちの前でいちゃつくことに抵抗感なんてものはなくむしろ満更でもないような顔をしている。
相変わらずの騒がしさと不躾さに俺が頭を抱えているとダフネが俺の手を握っていることに気がついた。そういえば先ほどタルトに攻撃したが結局彼女の変身は解かれていないままだ。
「どうした?ダフネ…」
「なんだか体力がすごい勢いで消耗されている気がする。」
普段より抑揚のない声だった。心なしか握る手の平も冷たく感じる。彼女の形態変化には副作用のようなものがあるのかもしれない。一刻も早く変身を解く必要がある。もう一度ペンダントの破壊を試みるべきか、別の方向からアプローチを仕掛けてみるべきか。そう思案していると異変に気がついたらしい三日月頭がこちらに話しかけてきた。
「あっれ-?何話してんの~?」
「…」
「ちょっと~?いくらあたし達が信用ならなくてもいい加減ちゃんと話したらどうなの~?」
「あ、あの、タルトちゃん、ダフネちゃんの姿が、変わっちゃったの見てたでしょ?僕たちいまその…たぶん元に戻る方法を探すジャマしちゃってる…」
そこでやっとタルトは納得したような顔をして、オーバーにうなずいて見せた。
「あ~はいはいそゆことね。そういやあんたらそんなこと話してたっけ。でも何もかも察してちゃんなのは正直いただけないって言うかぁ~?」
勝手に入ってきたくせに何だその言い草は。お前らの肉をつなげて物理的にずっと一緒にしてやろうかこのバカップルめ。2000年後くらいにあっけなく掃除されてしまえ。罵詈雑言が喉の下までせり上がってくる。でもまだ大丈夫。あの小動物もどきが乗り込んできたときも平気だった。だからきっと大丈夫だ。こいつらもある程度の距離を保つことが出来れば…。外で強い風が吹いているのか、磨りガラスがはまった窓がカタカタと音を立てる。その程度の雑音がひどく大きく感じる。
それにしてもだ。ダフネも、あのふたりも、先ほどから止まない窓の揺れる音を気にする様子はない。もしかしたらこれは俺の幻聴なのだろうか。不快になる音階の電子音、その和音が脳内で反復されている気もする。ひどく耳障りだが、今はダフネを元に戻すことに集中せねば。そうだ。俺の手なら嵌め込まれた石を砕けるかもしれない。ペンダントの異常な挙動を鑑みるに望みは薄いが、試す価値はあるだろう。
「ダフネ、ペンダントを此方に…」
「タルト、だったか?もしこの現象について何か知ってたら教えてほしい。」
時同じくして、ダフネも現状を打開するため協力を求めた。…あろうことか俺ではなく、出会ったばかりの侵入者に。
なぜ?
俺の中で何か重く冷たいものが音を立てながら落ちる。そんな気がした。重いものが自分の中の何かを遮断する。遮断された何かはひどく熱く、爛れている。それは無数の手のようにうねり、せり上がり、明瞭だったはずの思考を次々と塗りつぶしてゆく。
この感情は何だ?
「ほわー、あんたはちゃんと頼めるんだ。」
「…ダフネ、そいつが何か知っている訳がない。」
この感情が何かは知らない。
ただ、今は…息を整えるように、壊れないように、俺は否定せねばならない。目の前に居る者が持っているかもしれない解を。
…痛いほど理解している。今、俺はダフネの邪魔をしている。このままではダフネが危なくて、それなら誰でも構わないから頼るべきで、だというのにその誰かにダフネが頼るなんて考えたくなくて。
「仮に何も知らなくても、一緒に考えてくれる奴は多いに越したことはないだろ。」
「そいつは侵入者だ、ダフネ。聞く耳を持つ必要は無い。」
気持ちの悪い自己矛盾が俺を内側から食い荒らしてゆく。夜よりもおぞましい色をした何かが重りを乗り上げようとしている。冷静にならなければ。そうすればこの恐怖も少しはマシになるはずだ。そう信じて答えを探すものの頭が回らない。嫌だ。嫌だ。なぜ嫌なんだ?何に対して俺は怯えている?ダフネが他人に頼ることが怖い?なぜ?
………
……俺が何も出来ない事がダフネにばれるから?
「分からないだろ。今ここにいるってことは意味があるかも。多分。」
「ダフネ…っ!」
引き裂くような、叩きつけるような、怒号にも似た声が俺の喉奥から駆け出した。あたりが水を打ったように静まり返る。ああまで語気を強めたことは今まで一度たりともなかった。臆病な俺にこんなことが出来るわけ無かったのに。
怯えたように顔を覆うサントノーレ、一瞬驚くような顔をしたもののサントノーレの方を見てすぐ俺に刺すような視線を向けたタルト。いや、これらはどうでもいい。ダフネはどういう顔をしている?確認するのが怖い。もし今視線を向けた先に待つ彼女の表情が驚愕でも緊張でもなく恐怖だったら。あるいは軽蔑だったら。
窓がカタカタと鳴る音がよりいっそう強まったように感じる。うるさい。頭が割れそうだ。
おそるおそる彼女の方へ頭を向ける俺より先に、彼女の声が聴覚に流れ込んだ。
「ちゃんと聞こえてる。何か気になることがあるんだろ。言ってみろ。」
「違…ちがう…その、今のは…」
「ゼルク…」
ダフネはやはり何も感じていないような目で、なにも映していないような目で、なにも興味がないようなこえで、おれと接している。それともおれが彼女のすべてをよみとれないだけなんだろうか。ずっとこうしていっしょにいるのに、
「声に出してんのに違うも何もないっしょ。君さ。」
ぞっとするほど冷たい声に、頬を叩かれたような心地がした。正直俺はこれが誰から発されたものなのか理解するのに少し時間がかかった。声の質はあの三日月頭…タルトのもので間違いない。
困惑しながら奴の方を見たが、奴はすでに何事もなかったかのように底抜けに明るい声でダフネと話を続けていた。不気味な程明るく大げさな身振り手振りで。
「誰かさんと違って素直じゃ~ん?まぁなんとなくこれかなって方法は思い浮かんでるよ。ある地方で起きる現象を小耳に挟んだことがあるから。」
俺が一生かけても身につけられないような、自信に満ちた口振りだった。
「話が盛り上がっているのは結構だが何故ここに居るのかくらいは俺に分かるように話してほし…」
「そもそもあんた逆側にいたなら何かサイン出しなさいよ~!」
「さ、サイン出しても、このマントかぶってたらなにも、み、見えないよ。それにむこうが、気配看破できるかもって、僕は前もって伝えたよ…」
「はぁーん?いいんだ?そんな強気なこと言って?今夜いっぱい"啼かす"わよ…」
「そろそろ貴様らが誰なのかくらいは申してもらいたいのだが。」
少し語気を強める。ふたりはやっと喋るのを止めてこちらを向いた。片方は、喉からひり出すように「ひっ」と声をあげ、もう片方は不満げに肩をすくめた。
「今のあんたにあたしらが誰かなんてそう重要じゃないと思うんだけど?」
「ね、ねぇ、でも自己紹介したほうがいいんじゃないかな、ね?」
「はいはい分かったってば。はぁ…」
三日月頭はまたもや大きなため息をつく。それから急に手をこちらへ向けてきたと思うと先ほどの態度が嘘のように思えるほどキラキラした声でこう言った。
「はろはろー☆ぽまえらいい夢みてるぅ?きゅあきゅあどりーみぃアイドル♡みんなの夢天使、種族はクレセリアなタルトちゃんだよぉ~☆,゜.:。+゜もう夢から覚めたくないキミも大丈夫!もうなにも怖くないから…」
「…。」
「こんな現実抜けだしてッ!!ふたりで夢を見に行くぞッ!!夢天使がキミを護ってあげるよ♡よろしくね♡」
空気が凍り付くとはこのようなことを言うんだと思った。
タルトちゃん(狂)の自己紹介を聞いて俺は猛烈に引き、黒い奴はこの世の終わりかのような顔を浮かべ、ダフネは当然の如く興味を失いかわりにタルトが脱ぎ捨てた透明になれるマントをかぶって遊んでいた。やたら夢というワードが強調され、ご丁寧に節々にウインクまで仕込まれた自己紹介は冗談であっても痛々しいレベルに出来上がっていた。
「…そうか。」
俺は力なくうなだれた。思ったよりやべぇのが来た。そう確信した。
「あ、え、えと、僕は…サントノーレ、です。種族は…ダークライ…」
あのヤバい自己紹介のあとなら大抵のものはまともに聞こえるだろうと確信したのか、黒い奴は自らすんなり名乗ってくれた。とりあえず俺も名乗ろうとしたがタルトに止められた。
「俺は…」
「あー、いいの。そっちのことは知ってるから。」
「知っている、とは?」
「名前呼んでるとこ見てたから。ゼルクと…あー…ダフネでしょ。」
「いつから見ていた?」
「鎖探してる時から。そっちこそ、いつから気づいてたの。」
俺はダフネに目配せする。ダフネは視線に気がついたらしく首から下を覆っていたマントを取った。
「俺はまったく。ダフネ、お前はいつからこいつらに気付いていたんだ?」
「時計が壊れた時だ。おまえのとは違う、息を呑むような声が聞こえたから、誰かいるのかもしれないと思って。」
「ああ…部品がばらけた時だな。」
「じゃあ、あの、僕かも。びっくりしたから…つい。」
「この恐がりさんめ♡えいえい♡」
「や、やめてよタルトちゃん…♡」
ダフネの前で見せつけるんじゃない…。そう一喝しようかと思ったが、あまりしつこく言ったらあえて不毛なやり取りを見せつけてきそうだったのでやめた。あとこれではっきりしたことがある。タルトのおかげでまともに見えているだけでサントノーレとやらも相当あれだ。俺たちの前でいちゃつくことに抵抗感なんてものはなくむしろ満更でもないような顔をしている。
相変わらずの騒がしさと不躾さに俺が頭を抱えているとダフネが俺の手を握っていることに気がついた。そういえば先ほどタルトに攻撃したが結局彼女の変身は解かれていないままだ。
「どうした?ダフネ…」
「なんだか体力がすごい勢いで消耗されている気がする。」
普段より抑揚のない声だった。心なしか握る手の平も冷たく感じる。彼女の形態変化には副作用のようなものがあるのかもしれない。一刻も早く変身を解く必要がある。もう一度ペンダントの破壊を試みるべきか、別の方向からアプローチを仕掛けてみるべきか。そう思案していると異変に気がついたらしい三日月頭がこちらに話しかけてきた。
「あっれ-?何話してんの~?」
「…」
「ちょっと~?いくらあたし達が信用ならなくてもいい加減ちゃんと話したらどうなの~?」
「あ、あの、タルトちゃん、ダフネちゃんの姿が、変わっちゃったの見てたでしょ?僕たちいまその…たぶん元に戻る方法を探すジャマしちゃってる…」
そこでやっとタルトは納得したような顔をして、オーバーにうなずいて見せた。
「あ~はいはいそゆことね。そういやあんたらそんなこと話してたっけ。でも何もかも察してちゃんなのは正直いただけないって言うかぁ~?」
勝手に入ってきたくせに何だその言い草は。お前らの肉をつなげて物理的にずっと一緒にしてやろうかこのバカップルめ。2000年後くらいにあっけなく掃除されてしまえ。罵詈雑言が喉の下までせり上がってくる。でもまだ大丈夫。あの小動物もどきが乗り込んできたときも平気だった。だからきっと大丈夫だ。こいつらもある程度の距離を保つことが出来れば…。外で強い風が吹いているのか、磨りガラスがはまった窓がカタカタと音を立てる。その程度の雑音がひどく大きく感じる。
それにしてもだ。ダフネも、あのふたりも、先ほどから止まない窓の揺れる音を気にする様子はない。もしかしたらこれは俺の幻聴なのだろうか。不快になる音階の電子音、その和音が脳内で反復されている気もする。ひどく耳障りだが、今はダフネを元に戻すことに集中せねば。そうだ。俺の手なら嵌め込まれた石を砕けるかもしれない。ペンダントの異常な挙動を鑑みるに望みは薄いが、試す価値はあるだろう。
「ダフネ、ペンダントを此方に…」
「タルト、だったか?もしこの現象について何か知ってたら教えてほしい。」
時同じくして、ダフネも現状を打開するため協力を求めた。…あろうことか俺ではなく、出会ったばかりの侵入者に。
なぜ?
俺の中で何か重く冷たいものが音を立てながら落ちる。そんな気がした。重いものが自分の中の何かを遮断する。遮断された何かはひどく熱く、爛れている。それは無数の手のようにうねり、せり上がり、明瞭だったはずの思考を次々と塗りつぶしてゆく。
この感情は何だ?
「ほわー、あんたはちゃんと頼めるんだ。」
「…ダフネ、そいつが何か知っている訳がない。」
この感情が何かは知らない。
ただ、今は…息を整えるように、壊れないように、俺は否定せねばならない。目の前に居る者が持っているかもしれない解を。
…痛いほど理解している。今、俺はダフネの邪魔をしている。このままではダフネが危なくて、それなら誰でも構わないから頼るべきで、だというのにその誰かにダフネが頼るなんて考えたくなくて。
「仮に何も知らなくても、一緒に考えてくれる奴は多いに越したことはないだろ。」
「そいつは侵入者だ、ダフネ。聞く耳を持つ必要は無い。」
気持ちの悪い自己矛盾が俺を内側から食い荒らしてゆく。夜よりもおぞましい色をした何かが重りを乗り上げようとしている。冷静にならなければ。そうすればこの恐怖も少しはマシになるはずだ。そう信じて答えを探すものの頭が回らない。嫌だ。嫌だ。なぜ嫌なんだ?何に対して俺は怯えている?ダフネが他人に頼ることが怖い?なぜ?
………
……俺が何も出来ない事がダフネにばれるから?
「分からないだろ。今ここにいるってことは意味があるかも。多分。」
「ダフネ…っ!」
引き裂くような、叩きつけるような、怒号にも似た声が俺の喉奥から駆け出した。あたりが水を打ったように静まり返る。ああまで語気を強めたことは今まで一度たりともなかった。臆病な俺にこんなことが出来るわけ無かったのに。
怯えたように顔を覆うサントノーレ、一瞬驚くような顔をしたもののサントノーレの方を見てすぐ俺に刺すような視線を向けたタルト。いや、これらはどうでもいい。ダフネはどういう顔をしている?確認するのが怖い。もし今視線を向けた先に待つ彼女の表情が驚愕でも緊張でもなく恐怖だったら。あるいは軽蔑だったら。
窓がカタカタと鳴る音がよりいっそう強まったように感じる。うるさい。頭が割れそうだ。
おそるおそる彼女の方へ頭を向ける俺より先に、彼女の声が聴覚に流れ込んだ。
「ちゃんと聞こえてる。何か気になることがあるんだろ。言ってみろ。」
「違…ちがう…その、今のは…」
「ゼルク…」
ダフネはやはり何も感じていないような目で、なにも映していないような目で、なにも興味がないようなこえで、おれと接している。それともおれが彼女のすべてをよみとれないだけなんだろうか。ずっとこうしていっしょにいるのに、
「声に出してんのに違うも何もないっしょ。君さ。」
ぞっとするほど冷たい声に、頬を叩かれたような心地がした。正直俺はこれが誰から発されたものなのか理解するのに少し時間がかかった。声の質はあの三日月頭…タルトのもので間違いない。
困惑しながら奴の方を見たが、奴はすでに何事もなかったかのように底抜けに明るい声でダフネと話を続けていた。不気味な程明るく大げさな身振り手振りで。
「誰かさんと違って素直じゃ~ん?まぁなんとなくこれかなって方法は思い浮かんでるよ。ある地方で起きる現象を小耳に挟んだことがあるから。」
俺が一生かけても身につけられないような、自信に満ちた口振りだった。
