📂file3
突如あらわれたそれは声こそダフネのものだったが、それ以外は何から何まで違っていた。紫苑色の相貌は鮮血の如く赤色に染まり、身体は小さくなっている。後頭部からは長髪を模したかのような器官が伸び、角は鋭く変わった。
ただ結びつけられているリボンと首から下げられたペンダントは変容していない。なにより彼女の姿が変わる前からずっと俺たちは手をつないでいた。成り代わっているなんてありえない話だろう。それでも感じた違和感を拭い去れと言われると…それは無理な話だった。
「あの…ダフネ?」
「ん、何だ?」
「本当にダフネなのか…?姿がまるきり変わっているが…」
ダフネとおぼしき存在は自分の視野の許す限りで自身の身体を見回し、丸っこくなった手で顔を触ったりした。そこでようやく彼女自身も、何かが起きたのだという事を察したらしい。
「うーん…まさにファンタジックなすったもんだだな。」
「い…いいのか?そのひと言で済ませて…いや、ダフネがいいのならそれで構わないが…」
今の彼女は幼い人間に近しい見た目をしている。たしかに可愛らしくはある。だが俺の脳には一抹の不安がよぎっていた。
「それ、もとに戻れるのか?」
5秒ほどの硬直・沈黙。
彼女は無言で首からペンダントを外した。まだ変身は解かれない。続いてペンダントを放り投げる。しかし一定距離が開いた瞬間、ペンダントは彼女の首に戻ってきてしまった。残念ながらその間も変身状態は維持されたままだ。
「ははっ。もう駄目かもしれない。」
「ーーっ?!?!?!」
…このペンダントはあの小動物が嫌がらせのために置いていったものではなかろうか。床に叩きつけようとしても引き出しに隔離しようとしても傷ひとつ無い状態でダフネの首に戻ってくるペンダントを見ていると何となくそんな気がしてきた。
「ど…どうしたものか…平気か?ダフネ…」
「ん、まぁ私としてはこのままでも平気だ。この姿が気に入ったし。」
「だっ、だがそれでもほら…寝るとき眩しいだろう!?」
「ああ確かに。」
当事者でもないのに本気で心配する俺に対し、ダフネは楽観的だった。…と言うかむしろこうして姿が変わったことが本望とでも言うような様子だった。割と想像しやすい実害を挙げてはみたが、彼女にとってそこまでのデメリットではないらしく、軽くあしらわれてしまう。
そもそもなぜダフネはここまで落ち着き払っているうえ、この状況を快く思っているのだろうか。自分の身体が丸ごと変化していたら不気味に思わないだろうか。仮にどんなに美しくかわったとしてもだ。望んでもない変身なんて、恐怖でしかない。姿がコロコロ変わることに慣れているならまだしも、彼女はそうではないはずだ。俺が知らないだけで彼女にとっては慣れ親しんだ感覚なのか、あるいは…どんな恐怖や戸惑いも差し置けるほどの変身願望を常日頃から抱えているのか。だとしても、
「…俺は元の姿の方が好きなのに。」
…俺自身が零した言葉を認識するのに、少々時間がかかった。
気持ち悪い。こんなの完全に俺の好みの問題だ。せっかく彼女は今の姿に好感を持っているのに、それをないがしろにするような事など決して言ってはならなかった。
自身の言動の軽率さと身勝手さを再認識するほど後悔が追いかけてくる。こうして要らないことを言わないために、口を閉じることを何度も選んできたのに。
「すまないダフネ…その…俺は、」
「…。」
ダフネは口元に手をあて、少しの間なにか考えていた。そして、俺のほうに視線を向けた。
「思いついた。」
「へ…?」
「私の読んだ物語にも、変身して戦う少女がいた。そういった少女たちは戦闘を終えると勝手に変身が解かれていたはずだ。」
強烈に嫌な予感がした。俺は彼女からすかさず飛び退いて距離を取る。
想像どおり、ダフネの左手には光の束があつまり、小さな球体が形作られていた。
「結構手加減してあげるから。おでこに焼き印が付くくらいに。」
「おいやめろ早まるな!弾か!?その構えは!?そうだろう!!」
「はずれ。…レーザーだ。」
細い細い光線が、恐らく俺めがけて発射されようとしている。どうしたら避けられる?!いやおでこに焼き印が付くくらいだったら受けたとしても平気か、いや万が一調整を間違えたら…。もっとしっかり謝罪しなければならなかったか…。そんなことを考え終わったときには丁度俺の目のすぐ横を光線が通った残光が見えているだけだった。同時に
「うわああああああああああ!!!!あたしのおでこがああああああ!!!!!!!!!」
と叫ぶ聞き覚えのない声が、俺の斜め後ろから発された。
━━━━━━━━━━━━━━━
記録終了
ただ結びつけられているリボンと首から下げられたペンダントは変容していない。なにより彼女の姿が変わる前からずっと俺たちは手をつないでいた。成り代わっているなんてありえない話だろう。それでも感じた違和感を拭い去れと言われると…それは無理な話だった。
「あの…ダフネ?」
「ん、何だ?」
「本当にダフネなのか…?姿がまるきり変わっているが…」
ダフネとおぼしき存在は自分の視野の許す限りで自身の身体を見回し、丸っこくなった手で顔を触ったりした。そこでようやく彼女自身も、何かが起きたのだという事を察したらしい。
「うーん…まさにファンタジックなすったもんだだな。」
「い…いいのか?そのひと言で済ませて…いや、ダフネがいいのならそれで構わないが…」
今の彼女は幼い人間に近しい見た目をしている。たしかに可愛らしくはある。だが俺の脳には一抹の不安がよぎっていた。
「それ、もとに戻れるのか?」
5秒ほどの硬直・沈黙。
彼女は無言で首からペンダントを外した。まだ変身は解かれない。続いてペンダントを放り投げる。しかし一定距離が開いた瞬間、ペンダントは彼女の首に戻ってきてしまった。残念ながらその間も変身状態は維持されたままだ。
「ははっ。もう駄目かもしれない。」
「ーーっ?!?!?!」
…このペンダントはあの小動物が嫌がらせのために置いていったものではなかろうか。床に叩きつけようとしても引き出しに隔離しようとしても傷ひとつ無い状態でダフネの首に戻ってくるペンダントを見ていると何となくそんな気がしてきた。
「ど…どうしたものか…平気か?ダフネ…」
「ん、まぁ私としてはこのままでも平気だ。この姿が気に入ったし。」
「だっ、だがそれでもほら…寝るとき眩しいだろう!?」
「ああ確かに。」
当事者でもないのに本気で心配する俺に対し、ダフネは楽観的だった。…と言うかむしろこうして姿が変わったことが本望とでも言うような様子だった。割と想像しやすい実害を挙げてはみたが、彼女にとってそこまでのデメリットではないらしく、軽くあしらわれてしまう。
そもそもなぜダフネはここまで落ち着き払っているうえ、この状況を快く思っているのだろうか。自分の身体が丸ごと変化していたら不気味に思わないだろうか。仮にどんなに美しくかわったとしてもだ。望んでもない変身なんて、恐怖でしかない。姿がコロコロ変わることに慣れているならまだしも、彼女はそうではないはずだ。俺が知らないだけで彼女にとっては慣れ親しんだ感覚なのか、あるいは…どんな恐怖や戸惑いも差し置けるほどの変身願望を常日頃から抱えているのか。だとしても、
「…俺は元の姿の方が好きなのに。」
…俺自身が零した言葉を認識するのに、少々時間がかかった。
気持ち悪い。こんなの完全に俺の好みの問題だ。せっかく彼女は今の姿に好感を持っているのに、それをないがしろにするような事など決して言ってはならなかった。
自身の言動の軽率さと身勝手さを再認識するほど後悔が追いかけてくる。こうして要らないことを言わないために、口を閉じることを何度も選んできたのに。
「すまないダフネ…その…俺は、」
「…。」
ダフネは口元に手をあて、少しの間なにか考えていた。そして、俺のほうに視線を向けた。
「思いついた。」
「へ…?」
「私の読んだ物語にも、変身して戦う少女がいた。そういった少女たちは戦闘を終えると勝手に変身が解かれていたはずだ。」
強烈に嫌な予感がした。俺は彼女からすかさず飛び退いて距離を取る。
想像どおり、ダフネの左手には光の束があつまり、小さな球体が形作られていた。
「結構手加減してあげるから。おでこに焼き印が付くくらいに。」
「おいやめろ早まるな!弾か!?その構えは!?そうだろう!!」
「はずれ。…レーザーだ。」
細い細い光線が、恐らく俺めがけて発射されようとしている。どうしたら避けられる?!いやおでこに焼き印が付くくらいだったら受けたとしても平気か、いや万が一調整を間違えたら…。もっとしっかり謝罪しなければならなかったか…。そんなことを考え終わったときには丁度俺の目のすぐ横を光線が通った残光が見えているだけだった。同時に
「うわああああああああああ!!!!あたしのおでこがああああああ!!!!!!!!!」
と叫ぶ聞き覚えのない声が、俺の斜め後ろから発された。
━━━━━━━━━━━━━━━
記録終了
