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記録開始
━━━━━━━━━━━━━━━
「ダフネ?そこにいるのか?」
「ん。」
本の山の下で小さな影がもぞもぞと動く。
俺の声に応えた彼女は本の山から顔を出す。部屋中に埃が舞う。擦りガラスの向こうから差す柔い光を浴びて、部屋の中にあるものすべてに静かに降り積もる。鱗粉のように、あるいは雪のように。
やがて…無数の本の山から目的のものを見つけたのだろう。彼女は無表情ながらもどこか勝ち誇った様子で一冊の本を手にした。
「やっと見つけた。第3巻。」
舞い散る埃を軽く手で払いながら立ち上がった彼女はダフネ。1日の大半を読書に費やす、いわば本の虫だ。彼女は俺の知ってる限りでは寡黙でそれから…少し変わった力を使う。少し前に彼女に教えてもらったが、念力と定義されるものを使っているらしい。
今も彼女はその力を使い、棚から雪崩のように落ちてきたであろう他の本たちを、元の場所に戻そうとしている。彼女の目線の先にある色とりどりの表紙を纏った本達が、蝶のように宙を舞い本棚へ戻っていく。といっても元から乱雑に大量の本が突っ込んであったためあぶれた本はそのまま床に落ち、ぞんざいに扱われた仕返しとでも言うように再び埃を吐き出す。
長い尻尾で地面を軽く叩く。彼女が不貞腐れた時にやる癖だ。そして彼女はやっと俺と目を合わせた。
「ゼルク、なんとかしておいて。」
「承知した。」
彼女が俺の名前を呼んで指示を出す。俺は散らばった本を集め、小脇に抱えた。 あぶれた本はおそらく奥の書庫から持ってきたままの本だ。
この場所にやってきた時から俺は彼女の右腕として動いている。なぜかは分からない。こうすることが何となく正しいような気がする。それだけだ。面白いことではないが、不快でもない。
本を抱えて奥の書庫に向かおうとする俺に、ダフネは再び声をかける。
「ついでに書庫から私がまだ読んだことのない
本を持ってきて。」
「おそらくだがもうダフネはここにある全ての
本をかなり前に読破しているはずだ。」
「…確かに最近どの物語も見覚えがあるなと
思ってはいたよ。」
「そうだろう。…心を覗く鏡の話は」
「読んだ。」
「雨の降る不思議な本屋の話は」
「それも読んだ。怪異によって封じられようと
している街で戦った少年少女の話も。」
「ウニをはじめて口にした者の話も…」
「いや、それは読んでない。」
暫し沈黙が流れる。それを断つように俺は咳払いして、ダフネに向き直った。
俺はダフネに毎日欠かさず同じ提案をする。が、その提案が一度でも受け入れられたことはない。彼女の心を動かした手ごたえを感じたことすらも。
今日もすでに雲行きが怪しいが一応俺は同じ提案をしてみることにした。
「ともかく、今ある本は既に読んだものばかり、
そこでだ。新しい本を借りに、今日こそ外へ
行…」
「行かない。」
残念ながら、というより当然だが俺の提案は今日も同じように一蹴されてしまった。
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「ダフネ?そこにいるのか?」
「ん。」
本の山の下で小さな影がもぞもぞと動く。
俺の声に応えた彼女は本の山から顔を出す。部屋中に埃が舞う。擦りガラスの向こうから差す柔い光を浴びて、部屋の中にあるものすべてに静かに降り積もる。鱗粉のように、あるいは雪のように。
やがて…無数の本の山から目的のものを見つけたのだろう。彼女は無表情ながらもどこか勝ち誇った様子で一冊の本を手にした。
「やっと見つけた。第3巻。」
舞い散る埃を軽く手で払いながら立ち上がった彼女はダフネ。1日の大半を読書に費やす、いわば本の虫だ。彼女は俺の知ってる限りでは寡黙でそれから…少し変わった力を使う。少し前に彼女に教えてもらったが、念力と定義されるものを使っているらしい。
今も彼女はその力を使い、棚から雪崩のように落ちてきたであろう他の本たちを、元の場所に戻そうとしている。彼女の目線の先にある色とりどりの表紙を纏った本達が、蝶のように宙を舞い本棚へ戻っていく。といっても元から乱雑に大量の本が突っ込んであったためあぶれた本はそのまま床に落ち、ぞんざいに扱われた仕返しとでも言うように再び埃を吐き出す。
長い尻尾で地面を軽く叩く。彼女が不貞腐れた時にやる癖だ。そして彼女はやっと俺と目を合わせた。
「ゼルク、なんとかしておいて。」
「承知した。」
彼女が俺の名前を呼んで指示を出す。俺は散らばった本を集め、小脇に抱えた。 あぶれた本はおそらく奥の書庫から持ってきたままの本だ。
この場所にやってきた時から俺は彼女の右腕として動いている。なぜかは分からない。こうすることが何となく正しいような気がする。それだけだ。面白いことではないが、不快でもない。
本を抱えて奥の書庫に向かおうとする俺に、ダフネは再び声をかける。
「ついでに書庫から私がまだ読んだことのない
本を持ってきて。」
「おそらくだがもうダフネはここにある全ての
本をかなり前に読破しているはずだ。」
「…確かに最近どの物語も見覚えがあるなと
思ってはいたよ。」
「そうだろう。…心を覗く鏡の話は」
「読んだ。」
「雨の降る不思議な本屋の話は」
「それも読んだ。怪異によって封じられようと
している街で戦った少年少女の話も。」
「ウニをはじめて口にした者の話も…」
「いや、それは読んでない。」
暫し沈黙が流れる。それを断つように俺は咳払いして、ダフネに向き直った。
俺はダフネに毎日欠かさず同じ提案をする。が、その提案が一度でも受け入れられたことはない。彼女の心を動かした手ごたえを感じたことすらも。
今日もすでに雲行きが怪しいが一応俺は同じ提案をしてみることにした。
「ともかく、今ある本は既に読んだものばかり、
そこでだ。新しい本を借りに、今日こそ外へ
行…」
「行かない。」
残念ながら、というより当然だが俺の提案は今日も同じように一蹴されてしまった。
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