花束を君に 後編
ダイの予言どおり、結婚式当日は秋晴れだった。
教会に明るいオルガンの音が鳴り響く。
当初の予定だった、スイスのこじんまりした教会と、よく似た素朴な雰囲気だ。
僕は、他の列席者と共に立ち上がってマオを迎えた。
真っ白なウエディングドレスに身を包んだマオは、妖精みたいに美しかった。
僕は、隣のダイをこっそり盗み見た。
ダイの綺麗な瞳は、一心にマオに向けられている。
その眼差しには、純粋な喜びと感動が溢れていた。
マオを迎えるショーマの気持ちと同じだ。
クールな印象のあるショーマだけれど、さすがにこの瞬間は感動していた。
祭壇の前に進み出た2人に、神父さまが厳かに誓いの言葉を尋ねる。
「……生涯の伴侶とし、病めるときも健やかなるときも、困難なときも幸せなときも、死が2人を別つまで、愛し、敬うことを誓いますか?」
ショーマに続き、マオも凛とした声で答えた。
神父さまが2人の手を取り、向かい合わせようとしたそのときだった。
「はいっ!」
真っ直ぐに腕を伸ばして挙手したのは、マオだった。
列席者がざわめく。
「神父さま、実はもう1組、神父さまの祝福を受けたい2人がいるんです。」
はきはきと告げるマオの言葉に、ざわめきが大きくなる。
——なんだ、これ。こんなの聞いたことない。
周囲の心の声と同様に、目を丸くしている僕の手を、ダイが握った。
「…まさか、ほんとにやるとはな。」
「……え?!」
ダイは独り言のように呟くと、僕の手を引っ張って祭壇の方へ歩き出した。
突然、ダイと一緒にマオとショーマの隣で神父さまの前に立たされた僕は、ぽかんとしていた。
…一体、何が起きているんだろう。
神父さまも、僕と同じで呆気に取られた顔をしている。
ショーマは、諦めているのか、それとも知っていたのか、ほとんど無になっていて、何も読み取れない。
「神父さま、お願いします。この2人は、マオの大切な友人なんです。マオ達と一緒に、祝福してほしいの。…あ、誓いの言葉はこれにしてください。」
マオが差し出した紙切れを、神父さまはぎくしゃくと受け取り、もう一度僕たちを見た。
「…こ、これは、あなた方のご希望でもあるんですか。」
「はい。」
真っ直ぐに神父さまを見て即答したダイに、少なくともダイはこの展開を予想していたのだと、ようやく気づいた。
ごほん、と司祭さまが咳払いをする。
ざわざわしていた列席者は、静まり返り、この前代未聞の結婚式を固唾を飲んで見守っていた。
「…タカハシダイスケさん、貴方は、ここにいるハニュウユヅルさんを、生涯の伴侶とし、病めるときも健やかなるときも、困難なときも幸せなときも、永遠に愛し、敬うことを誓いますか?」
「はい、違います。」
ダイは静かにそう答えると、視線だけ僕の方を見て、にっこりした。
神父さまが僕に同じことを尋ねる。
「…はい、誓い…ます。」
僕は震える声で誓いを繰り返した。
神父さまが、僕たちそれぞれを向かい合わせ、今日の誓いの印として、指輪を交換するよう告げる。
さすがにリングピローまでは用意されなかったけれど、ダイは、ポケットから鈍く光る指輪を取り出した。
「…マオが色々してくれてさ。昨日、取りに行ったんだ。」
びっくりしすぎて声も出ない僕に、素早くそう囁くと、僕の手を取り、銀色の指輪を薬指にはめてくれた。
緩やかなカーブを描いた華奢な指輪には、淡いピンク色のメレダイヤが埋まっていた。
それに見惚れる暇もなく、ダイに促されて、ダイの指にも指輪をはめる。
僕のより少し太くて、メレダイヤもないけど、同じように緩やかなカーブを描いている。
「この指輪、初桜 っていうんだ。ユヅのは桜の花びら、俺のは桜の幹をイメージしてるんだって。」
ダイがこそこそと教えてくれた。
「…気に入った?」
僕は、もう言葉もなくて、うなずくのが精一杯だった。
まさか、僕のダイへの想いが神さまに祝福してもらえる日が来るなんて、思いもしなかった。
指輪もだけど、そのことがすごく嬉しい。
「…あり、がと……」
ようやく押し寄せてきた喜びで胸がいっぱいになりながら、なんとか言葉を絞り出す。
「ダイ、ユヅ、幸せにね。」
マオが満面の笑みで満足そうにうなずく。
「マオもね、すっごく、幸せだよ。」
ショーマが無言で破顔する。
途中から2組になってしまった結婚式だけど、列席者もマオの笑顔に引きずられるように、温かな拍手を僕たちに送ってくれた。
……あぁ、マオには本当に敵わない。
いつも、マオの周りには幸せが溢れる理由が分かる気がする。
僕は、今度こそなんの憂いも不安もなく、マオとショーマの結婚を祝福する気持ちになれたのだった。
教会に明るいオルガンの音が鳴り響く。
当初の予定だった、スイスのこじんまりした教会と、よく似た素朴な雰囲気だ。
僕は、他の列席者と共に立ち上がってマオを迎えた。
真っ白なウエディングドレスに身を包んだマオは、妖精みたいに美しかった。
僕は、隣のダイをこっそり盗み見た。
ダイの綺麗な瞳は、一心にマオに向けられている。
その眼差しには、純粋な喜びと感動が溢れていた。
マオを迎えるショーマの気持ちと同じだ。
クールな印象のあるショーマだけれど、さすがにこの瞬間は感動していた。
祭壇の前に進み出た2人に、神父さまが厳かに誓いの言葉を尋ねる。
「……生涯の伴侶とし、病めるときも健やかなるときも、困難なときも幸せなときも、死が2人を別つまで、愛し、敬うことを誓いますか?」
ショーマに続き、マオも凛とした声で答えた。
神父さまが2人の手を取り、向かい合わせようとしたそのときだった。
「はいっ!」
真っ直ぐに腕を伸ばして挙手したのは、マオだった。
列席者がざわめく。
「神父さま、実はもう1組、神父さまの祝福を受けたい2人がいるんです。」
はきはきと告げるマオの言葉に、ざわめきが大きくなる。
——なんだ、これ。こんなの聞いたことない。
周囲の心の声と同様に、目を丸くしている僕の手を、ダイが握った。
「…まさか、ほんとにやるとはな。」
「……え?!」
ダイは独り言のように呟くと、僕の手を引っ張って祭壇の方へ歩き出した。
突然、ダイと一緒にマオとショーマの隣で神父さまの前に立たされた僕は、ぽかんとしていた。
…一体、何が起きているんだろう。
神父さまも、僕と同じで呆気に取られた顔をしている。
ショーマは、諦めているのか、それとも知っていたのか、ほとんど無になっていて、何も読み取れない。
「神父さま、お願いします。この2人は、マオの大切な友人なんです。マオ達と一緒に、祝福してほしいの。…あ、誓いの言葉はこれにしてください。」
マオが差し出した紙切れを、神父さまはぎくしゃくと受け取り、もう一度僕たちを見た。
「…こ、これは、あなた方のご希望でもあるんですか。」
「はい。」
真っ直ぐに神父さまを見て即答したダイに、少なくともダイはこの展開を予想していたのだと、ようやく気づいた。
ごほん、と司祭さまが咳払いをする。
ざわざわしていた列席者は、静まり返り、この前代未聞の結婚式を固唾を飲んで見守っていた。
「…タカハシダイスケさん、貴方は、ここにいるハニュウユヅルさんを、生涯の伴侶とし、病めるときも健やかなるときも、困難なときも幸せなときも、永遠に愛し、敬うことを誓いますか?」
「はい、違います。」
ダイは静かにそう答えると、視線だけ僕の方を見て、にっこりした。
神父さまが僕に同じことを尋ねる。
「…はい、誓い…ます。」
僕は震える声で誓いを繰り返した。
神父さまが、僕たちそれぞれを向かい合わせ、今日の誓いの印として、指輪を交換するよう告げる。
さすがにリングピローまでは用意されなかったけれど、ダイは、ポケットから鈍く光る指輪を取り出した。
「…マオが色々してくれてさ。昨日、取りに行ったんだ。」
びっくりしすぎて声も出ない僕に、素早くそう囁くと、僕の手を取り、銀色の指輪を薬指にはめてくれた。
緩やかなカーブを描いた華奢な指輪には、淡いピンク色のメレダイヤが埋まっていた。
それに見惚れる暇もなく、ダイに促されて、ダイの指にも指輪をはめる。
僕のより少し太くて、メレダイヤもないけど、同じように緩やかなカーブを描いている。
「この指輪、
ダイがこそこそと教えてくれた。
「…気に入った?」
僕は、もう言葉もなくて、うなずくのが精一杯だった。
まさか、僕のダイへの想いが神さまに祝福してもらえる日が来るなんて、思いもしなかった。
指輪もだけど、そのことがすごく嬉しい。
「…あり、がと……」
ようやく押し寄せてきた喜びで胸がいっぱいになりながら、なんとか言葉を絞り出す。
「ダイ、ユヅ、幸せにね。」
マオが満面の笑みで満足そうにうなずく。
「マオもね、すっごく、幸せだよ。」
ショーマが無言で破顔する。
途中から2組になってしまった結婚式だけど、列席者もマオの笑顔に引きずられるように、温かな拍手を僕たちに送ってくれた。
……あぁ、マオには本当に敵わない。
いつも、マオの周りには幸せが溢れる理由が分かる気がする。
僕は、今度こそなんの憂いも不安もなく、マオとショーマの結婚を祝福する気持ちになれたのだった。