花束を君に 前編
ダイは、少し頭を冷やしてくると言って、外に出て行った。
最後は優しく抱きしめて、僕に何度もキスをして。
僕は、ひどい自己嫌悪に陥って、コテージに出た。
僕を大切にしてくれるダイの気持ちを踏みにじるようなことを言ってしまった。
だけど、本当にどうしていいか、分からないんだ。
コテージには、先客がいた。
「……マオ。」
思わず呼びかけると、マオは振り向いた。
「ユヅ…、ごめんなさい。」
マオも落ち込んでいるようだった。
「ダイとユヅの邪魔をするつもりはないの。ユヅにはダイと幸せになってほしいって、本当に思ってるのよ。」
「…僕のことは気にしないで。」
本当の邪魔者は、僕なのかもしれない。
そんなことを思ってしまう自分がますます嫌になった。
俯いた僕に、マオはしばらく何も言わなかった。
「そうだ! ねぇユヅ、スイスに行かない?」
「………え?」
唐突な話題転換に、思考を読んでもさすがに頭がついていかない。
「だって、このままここにいたって、ショーマが来て連れ戻されるだけだもん。ダイには迷惑がられちゃってるし。あたし、すごいヤな女じゃない?」
「…だからって……、なんでスイスなの?」
それも僕と。
「マオがスイスで式を挙げたいと思ったのはね、ショーマのマーシャルアーツの師匠がいるからなのよ。マオも式のついでに習いたいなって。」
「……う…ん…」
「式はダメになっちゃったけど、マーシャルアーツはこの先役に立つと思うの! ユヅも強いにこしたことはないでしょ?」
「…………」
マオが本気で言ってることは分かるけど、なんでそうなるのか、まったく分からない。
ショーマって、マオとどうやって付き合ってるんだろう?
「こんなところでユヅとダイに迷惑かけて、うじうじしてるなんて、あたしらしくないもの! うんっ、そうしよう!! ちょっと飛行機の便見てくるわっ。」
「ま、待って…、マオ…っ」
明日にはショーマがここに来るのに、どうやってマオを止めたらいいんだ?!
「こらっ、マオ。ユヅが困ってるだろ?」
オロオロしていると、戻ってきたらしいダイが割って入ってくれた。
「マオ、ショーマがこっちに向かってる。明日には着くよ。逃げちゃダメだ。」
「…………」
図星をさされたらしいマオが黙る。
きっぱり言ってのけるダイに、なんとなく前世からの付き合いの長さを感じてしまった。
「…よし。どうせなら、みんなで行こうか、スイス。」
「……え??」
「ええっ?!」
やるせなさを感じていた僕は、続くダイの言葉に、思わずマオと同時に声を上げていた。
「…まぁ、ショーマがうんと言えばだけどな。こんなところであれこれ考えてるより、実際の式場とか見れば、気持ちも固まるだろ。」
「だ、ダイ…、そういう問題じゃ…」
「いいわよっ!」
ダイをたしなめようとした僕の言葉は、マオに遮られてしまった。
コテージのベンチの上に仁王立ちになり、片手を腰に当てて、爛々と目を輝かせたマオが、ダイに向かって人差し指を突き付ける。
「なんかよく分からないけど、その話、乗ったわっ!!」
飛行機の予約と式場への連絡のために駆け出して行ったマオを見送り、僕はまだ茫然としたまま、傍のダイを見た。
「ははは…、マオは面白いな。」
ダイは、のんびりと笑っている。
「飛行機の予約、キャンセルしなくてよかったな。」
「あ、あの…、ダイ……」
「もちろんユヅも一緒だぞ?」
「う、うん……」
僕にはもう、どうしようもなかった。
僕は、明日ここに到着するはずのショーマに、少しだけ同情した。
続く
最後は優しく抱きしめて、僕に何度もキスをして。
僕は、ひどい自己嫌悪に陥って、コテージに出た。
僕を大切にしてくれるダイの気持ちを踏みにじるようなことを言ってしまった。
だけど、本当にどうしていいか、分からないんだ。
コテージには、先客がいた。
「……マオ。」
思わず呼びかけると、マオは振り向いた。
「ユヅ…、ごめんなさい。」
マオも落ち込んでいるようだった。
「ダイとユヅの邪魔をするつもりはないの。ユヅにはダイと幸せになってほしいって、本当に思ってるのよ。」
「…僕のことは気にしないで。」
本当の邪魔者は、僕なのかもしれない。
そんなことを思ってしまう自分がますます嫌になった。
俯いた僕に、マオはしばらく何も言わなかった。
「そうだ! ねぇユヅ、スイスに行かない?」
「………え?」
唐突な話題転換に、思考を読んでもさすがに頭がついていかない。
「だって、このままここにいたって、ショーマが来て連れ戻されるだけだもん。ダイには迷惑がられちゃってるし。あたし、すごいヤな女じゃない?」
「…だからって……、なんでスイスなの?」
それも僕と。
「マオがスイスで式を挙げたいと思ったのはね、ショーマのマーシャルアーツの師匠がいるからなのよ。マオも式のついでに習いたいなって。」
「……う…ん…」
「式はダメになっちゃったけど、マーシャルアーツはこの先役に立つと思うの! ユヅも強いにこしたことはないでしょ?」
「…………」
マオが本気で言ってることは分かるけど、なんでそうなるのか、まったく分からない。
ショーマって、マオとどうやって付き合ってるんだろう?
「こんなところでユヅとダイに迷惑かけて、うじうじしてるなんて、あたしらしくないもの! うんっ、そうしよう!! ちょっと飛行機の便見てくるわっ。」
「ま、待って…、マオ…っ」
明日にはショーマがここに来るのに、どうやってマオを止めたらいいんだ?!
「こらっ、マオ。ユヅが困ってるだろ?」
オロオロしていると、戻ってきたらしいダイが割って入ってくれた。
「マオ、ショーマがこっちに向かってる。明日には着くよ。逃げちゃダメだ。」
「…………」
図星をさされたらしいマオが黙る。
きっぱり言ってのけるダイに、なんとなく前世からの付き合いの長さを感じてしまった。
「…よし。どうせなら、みんなで行こうか、スイス。」
「……え??」
「ええっ?!」
やるせなさを感じていた僕は、続くダイの言葉に、思わずマオと同時に声を上げていた。
「…まぁ、ショーマがうんと言えばだけどな。こんなところであれこれ考えてるより、実際の式場とか見れば、気持ちも固まるだろ。」
「だ、ダイ…、そういう問題じゃ…」
「いいわよっ!」
ダイをたしなめようとした僕の言葉は、マオに遮られてしまった。
コテージのベンチの上に仁王立ちになり、片手を腰に当てて、爛々と目を輝かせたマオが、ダイに向かって人差し指を突き付ける。
「なんかよく分からないけど、その話、乗ったわっ!!」
飛行機の予約と式場への連絡のために駆け出して行ったマオを見送り、僕はまだ茫然としたまま、傍のダイを見た。
「ははは…、マオは面白いな。」
ダイは、のんびりと笑っている。
「飛行機の予約、キャンセルしなくてよかったな。」
「あ、あの…、ダイ……」
「もちろんユヅも一緒だぞ?」
「う、うん……」
僕にはもう、どうしようもなかった。
僕は、明日ここに到着するはずのショーマに、少しだけ同情した。
続く