KANADE


君が大人になってくその時間が

降り積もる間に僕も変わってく

たとえばそこにこんな歌があれば

ふたりはいつもどんな時もつながっていける


君が僕の前に現れた日から

何もかもが違くみえたんだ

朝も光も涙も歌う声も

君が輝きをくれたんだ

抑えきれない思いをこの声に乗せて

遠く君の街へ届けよう

たとえばそれがこんな歌だったら

僕らは何処にいたとしてもつながっていける



* * *


人間が起きる時刻に動き出し、身支度をして出かける。

できるだけ人間と同じ生活をする。

ファミリーのモットーだった。

俺とジェーニャは、テッサとスコットと同じ大学に進学した。

まだもうしばらく、ロンドンで暮らし続けても不自然ではない。

「ハビ! コートを着なきゃ!」

玄関を出たところで、ジェーニャが追いかけて来た。

「…あっ、そうか。」

街を行き交う人間たちは、そろそろコートを羽織り始めている。

俺たちは、人間ほど暑さも寒さも感じない。

周りから浮かないように服装も合わせていた。

俺とジェーニャは、ゆっくりと歩いた。

人間が歩くスピードと同じになるように。

この数十年、ずっと一緒にいたファミリーの1人は、ここにはいない。

秋には同じ大学に進学したけれど、1ヶ月も経たないうちに、姿を消してしまった。

俺は、ユヅがこんなふうにすべてを投げ出すのを、初めて見た。



「…なぁ、ユヅはどこにいるんだ?」

ジェーニャは、その能力で察知しているはずだった。

「……遠くよ。」

「無事なのか?」

「……生きてはいるわよ。」

ジェーニャは、あまり多くを教えてくれない。

ユヅが姿を消した当初は、ダイを迎えに行ったんだと思った。

大体、あんな条件、ユヅが耐えられるはずがないんだ。

けれど、ユヅはなかなか戻って来なかった。

ダイの下にも行かず、ファミリーにも戻って来ないで、一体どこで何をしているのか。

迎えに行こうとした俺を止めたのはジェーニャだった。

「今は、そっとしておいてあげて。」

居場所を聞いたら、迎えに行かずにはいられない俺の気持ちを知っているのか、ジェーニャは頑としてユヅがどこにいるのか教えてくれなかった。

もしダイから連絡が来れば、2人でジェーニャを問い詰めようかと思っていたけれど、ダイからは何の連絡もなくて。

——まったく。

2人とも頑固なんだから。

あんなにお互いを想い合っているのに。

側で見ていると、焦れったくて仕方がない。



一度だけ、ジェーニャに黙ってダイの様子を見に行った。

ユヅがいるかもしれないと思って。

ダイは、大学生活を楽しんでいるようだった。

ガールフレンドらしき子も隣にいた。

…なんなんだ。

明るい笑顔のダイに、どうしようもなくむかむかしてしまった。

これは、ユヅが望んでいたことなのに。

ユヅの苦しみをまるで知らずに、楽しそうに振る舞うダイの姿が、面白くなかった。

俺は、声をかけずに立ち去った。

ジェーニャは、俺がどこに行ったのか、分かっているようだったが、何も言わなかった。

それもまた腹が立って。

なんで俺ばっかりやきもきしてるんだ。

俺は、それきり二度とダイに会いには行かなかった。



何年か経って、俺はふと思い至った。

いつも落ち着き払っているジェーニャ。

「ジェーニャ、君、もしかしてあの2人のこと…」

「…………」

ジェーニャは、黙ったまま人差し指を唇に当てた。

いたずらっぽい笑み。

俺は答えが分かってしまった。

「側から見たら、どんなバカげたことでも、これは本人たちが納得しなきゃ、どうしようもないことなの。」

俺はため息をついた。

ほんとに、ばかなユヅ。

だけど俺たちは彼を愛している。

彼の幸せを祈っている。

心から。

俺は、ジェーニャがている未来ものを信じて待つことにした。


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