Love Yourself

「ダイ、一緒に来てくれてありが……ん…っ」

ホテルの部屋に戻るなり、ユヅを押し倒した俺に、ユヅは驚いたように身を捩った。

逃さずにシャツの中に手を入れ、小さな胸の尖りを摘み上げる。

「…ぁう…っん……」

ユヅは、甘い悲鳴を上げた。

「なに…どうし……っああ……」

のけぞった喉元に牙を立て、ひび割れた皮膚に舌を這わせる。

瞬く間にそこは元どおりの白く透明な色に戻っていった。

俺の大好きな美しいユヅの肌。

だけど、今は何ひとつ俺の痕跡を残せないことが悔しかった。

ユヅが、俺だけのものだという証を。



「…ダイ、どうしたの?」

込み上げる衝動のまま、ユヅを抱いた後、妙に気まずくなって、俺は力の抜けたユヅの身体を抱き上げてベッドに横たえた。

「ダイ?」

ユヅの声に不安が混じり、俺は内心舌打ちをする。

ユヅを傷つけたかったわけじゃない。

「…ごめん。ちょっと……ジェラシー。」

仕方なく本当のことを言った俺に、ユヅは目を丸くした。

「ジェラシー?」

「…………」

「誰に?」

「…………1人しかいないだろ。」

「…………」

ユヅはきょとんとした。

「そんな…、僕はダイだけなのに。」

「それでも…っ!」

俺以外の誰かがユヅのことをそんなふうに思っているだけで嫌だ。

けれど、我ながらあまりに子どもじみていて、さすがに口には出せなかった。

「……うそ、夢みたい……」

ユヅは、嬉しそうに目を細めて、うふふと笑った。

「……なんだよ。」

「だって、ダイが……」

俺はあんまり面白くない気分だったけど、ユヅがそれはそれは嬉しそうに笑うので、まぁいいかと思うことにした。

「ユヅ、ユヅはもう少し、自分の魅力を自覚したほうがいいぞ。」

「なにそれ。」

「ところ構わず愛想を振りまくなってこと。」

「…ぷっ、あはは…っ」

「こら、笑いごとじゃないぞ?」

「だって、ダイってば……おかしい…っ」

「なんだって?!」



後から思い返せば、くだらないやきもちだったけど。

俺は、今後よっぽどのことがない限りタカヒコには近づくまいと決めた。

あんまりユヅに格好悪いところを見せたくないし。

だけど、ユヅにはこれだけは言っておきたい。

自分がどれほど周りを惹きつけるのか、まったく分かっていない呑気なヴァンパイアに。


——Don’t forget to love yourself.

自分を愛することを忘れるな。




終わり

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