Love Yourself

夜が更けると、辺りがしんと静まり返る時間がある。

ヴァンパイアになって気付いたことだ。

眠らない俺たちには必要ないことだけど、何となく夜は手持ちぶたさで、ベッドに入る習慣が抜けない。

…ううん、もう少しだけ、人間のフリをしていたいのかな。

自分の選択に、後悔なんて一切するつもりはないし、その覚悟もあるはずだけど。

時々、あまりにも変わってしまった自分自身を受け入れ難く思うときがある。

ベッドヘッドにもたれ、本を広げていると、ユヅが隣に潜り込んできた。

「このホテルのベッド、柔らかいね。」

「…こら。」

俺の脇から頭を潜り込ませて、俺が読んでいる本の上にぱふんと乗せる。

俺が眉を寄せると、おかしそうにくすくす笑った。

俺は、さらさらしたユヅの髪をそっと梳いた。

こんなふうに、甘えてくれるようになったユヅが愛しい。

「ダイ、明日なにしよっか?」

「そうだなぁ……」

ジェーニャにプレゼントしてもらった無人島を出て、ユヅの希望で日本を訪れた俺たちは、ダイスケサマの眠る桜の木の下で、ユヅから前世の俺とユヅのいきさつを聞いた。

正直、俺にとってはダイスケサマの人生は、やっぱり他人事なんだけど。

けれど、ユヅの経験した悲しみと孤独は、想像するだけで胸が痛んだ。

…もう、二度と離れない。

俺は、あの桜の木に改めて誓いを立てた。



「ねぇ、ダイ。」

本を読むのを諦めて、ユヅの小さな頭を抱え込んだ俺を、ユヅは物言いたげにじっと見つめた。

「なに?」

「……ショーマに、連絡しないの?」

「………」

ショーマとは、インディペンデントスクールを卒業した後も連絡を取り合っていて、俺が日本に留学していたときは、ソータも交えて時々会っていた。

俺が変身した最初のクリスマス、ショーマが送ってくれたクリスマスカードの返事に、ユヅと永遠に一緒にいると書いて送った。

ショーマが賛成してくれるとは思わなかったけど、それで意味は伝わったはずだ。

それきり、ショーマから連絡が来ることはなかった。

…寂しいけれど、仕方がない。

「ショーマに会って、話さなくていいの?」

「………なんて言ったらいいのか、分からないよ。」

…なんて言われるのかも。

オオカミ人間として、人間を守るためにヴァンプァイアと対峙してきたショーマが、ヴァンパイアに抱いている憎しみと反感。

それがそのまま俺に向けられることはないって、信じたいけれど。

俺が変化したように、ショーマとの友情も変わってしまうことが、少し怖かった。

ユヅは、それ以上何も言わなかった。

ただ、俺に紹介したいヴァンパイアが1人いると言った。

「海を渡った僕の代わりに、日本でダイスケサマの子孫の動向を調べて、長い間僕に知らせてくれていたんだ。とても感謝してるし、ダイと巡り会って、こうやって一緒にいることも、きちんと伝えておきたい。」

「へぇ。もちろん。」

俺がうなずくと、ユヅはとても嬉しそうな顔をした。
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