Hallelujah in1919

「皇帝が君を欲しがるだろうと、分かっていたよ。」

地下にある皇帝の宮殿を後にして、ブライアンが沈んだ声でそう言った。

「…ごめんなさい。」

ブライアンを失望させていることは、ずっと心に引っかかっていた。

人間だったときから、僕は彼が好きだったのに。

「たとえ、私と共にでなくとも、君には生きていてほしい。」

「…………」

ブライアンの想いは、僕を苦しくさせた。

けれど、僕が生き続けることはないだろう。

人間の血を欲する異形となった僕の魂は、天国に召されることはない。

神の御許で大輔さまにまみえることもない。

だからどうしても、一目だけでも、もう一度大輔さまに逢いたかった。

けれど、奇跡を待ち続けるには、あまりに長い、長過ぎる年月が経ってしまった。

この絶望から解放されるなら、僕は皇帝に死を望むだろう。

「…教会に、寄って行こう。」

黙ったままの僕を誘うように、ブライアンが僕の背中に手を回した。



教会では聴き慣れない賛美歌が流れていた。

「宗派が違うのでは?」

こっそり尋ねると、ブライアンは微笑んだ。

「永く生きているとね、表面的な違いはあまり気にならなくなるのだ。神を信じる気持ちを感じることが私自身の救いになる気がしてね。」

僕は、ブライアンが日本の民の信仰心を丸ごと受け入れていたことを思い出した。

それは、聖書に書かれた教えとは微妙に異なっていたのに。

「…ブライアン、神を捨てようと思ったことは?」

「………」

ブライアンは答えなかった。

けれど、僕はブライアンの心を読んでいた。

何度もある…、と。

そう苦しげに答えたブライアンの心を。



賛美歌がクライマックスにさしかかり、主を讃えるフレーズが繰り返される。

この信仰心は、僕を救いはしない。

僕にはもう、神の加護は与えられない。

けれど、何の奇跡か、僕の呪われた命に終わりが見えた。

「あの、アメリカに帰ったら、ミサに出ても?」

「もちろんだとも。」

ブライアンは嬉しそうに微笑んだ。

「帰ろうか。」

「はい。」

教会の外に出ると、雲の隙間から太陽が出ていた。

僕たちは慌てて帽子を目深に下げる。

僕が太陽を見上げることはもうないだろう。

それでも。

大輔さま…、と僕は失われた大切な人の名前を呟いた。

僕の命が終わるその時まで、僕は貴方を想い続けるだろう。

主への敬愛と賛美と共に。





終わり
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