Hallelujah in1919

しんと静まり返った空間に、人の気配を感じて僕は目を開けた。

……まだ朽ちていないのか。

心のどこかで他人事のように思う。

「…ユヅ?」

心配そうに僕を覗き込む朱金の瞳。

僕を不滅の身体にした慈悲深いヴァンパイア。

僕は不思議と彼を恨む気持ちにはなれなかった。

僕の望みはただひとつ。

あの人に逢いたい。

それが叶わないなら、誰にも知られず、ひっそりと朽ち果ててしまいたい。



ゆっくりと身体を起こすと、腕に点滴が施されていた。

真紅の液体が、僕の体内に送り込まれている。

「…私は君を失いたくないのだよ。生きていてほしいのだ。」

ブライアンの声は悲哀に満ちていた。

彼自身、それがどんなに残酷なことか分かっているはずだった。

僕は、黙って点滴の針を引き抜く。

カラン、と床に落ちたガラスの音が虚しく響いた。

「……僕のことは、もう放っておいてください。」

あれからどれくらいの年月が経ったのだろう。

気の遠くなるほど長い時間だった。

どんなに待っても、あの人は現れない。

僕は期待することに疲れてしまった。

そのまま部屋の隅で蹲った僕を、ブライアンはしばらくじっと見ていたが、やがて静かに立ち去った。

あの人と暮らした島国から、遠く海を隔てたこの大陸で、薄暗い地下に蹲り、僕は僕自身が消えてなくなってしまうのをひたすらに待ち焦がれている。

自ら命を断つことは、どうしてもできなかった。

あの人が信じる神を裏切ることになるから。

僕が神に祝福されることはもうないとしても。

死の間際まで、彼が信じていたもの。


——-大輔さま。


そっとあの人の名前を呼んでみる。



答える声は、なかった。


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