Lilac Wine 4

名古屋城の資料館や市の考古資料館、徳川家に関連する美術館などをくまなく探し回り、ようやく探し当てた田村家のお寺は、戦争で焼け落ちて跡形もなかった。

けれど、こっそり忍び込んだ博物館の資料庫で、浅田家に関連する書物や家系図を調べ、田村岳斗が真緒の乳母満知子の息子であることが分かった。

満知子が真緒の乳母として浅田家に召し抱えられたとき、共に取り立てられた息子の名前に田村岳斗の記載があったのだ。

「ダイ、やっぱり青森のあのお寺に預けられたのは御台さまの御子なんじゃない?乳母さまがご自分の息子を伴わせて、わざわざ陸奥まで行かせるなんて、そうでもなきゃあり得ないよ。あの笄が一時お寺にあったのだって、御台さまがご自分の御子に託したと考えれば辻褄が合う。」

「…………」

ユヅの確信に満ちた言葉に、俺は戸惑いを隠せなかった。

「……俺の子、なの、か…?」

「大輔さまの、御子だよ。」

間髪入れずに訂正されて、俺は思わずユヅを見た。

ユヅは少し唇を引き結び、小さな声で言った。

「……それなら納得できる。」

いつも俺とダイスケサマは同じだと言っていたくせに。

やっぱりどこかで引っかかっていたらしいユヅを、俺はそっと抱き寄せた。

「…ごめん、ユヅ。」

「…どうして?」

ユヅの声は静かだった。

「大輔さまと御台さまには特別な絆があった。僕はそれをどうこう言うつもりはないよ。…そんなこと言える立場でもないし。」

「………ユヅ。」

「それに、なんだろう? 変なんだけど、ちょっと嬉しいような気持ちもあるんだ。」

「嬉しい?」

思わずユヅの顔を覗き込んだ俺に、ユヅは物哀しげに笑って見せた。

「ダイが大輔さまと御台さまの子孫かもしれないってことに。それって、すごく特別なことだから。」

「…………」

俺は黙ってユヅを抱きしめる力を強くした。

「……僕、もし御台さまに御子が生まれていたら、大輔さまは側室を娶らなかったって、思うんだ…。それに、僕も……」

「もし、そうでも俺はユヅに惹かれていたよ。」

俺はユヅの言葉を遮った。

「何が起きても、起きなくても、それだけは変わらない。」

「ダイ……」

そっと重ねた唇は、かすかに震えていた。



「…けど俺、まだ半分は信じられないんだ。」

俺はユヅを抱きしめたまま、囁いた。

正直な気持ちだった。

「手がかりがあるかは分からないけど、西方院に行ってみてもいい?」

真緒が余生を過ごした大阪の寺院。

真緒のことをもっと知りたい。

「…もちろん。」

ユヅは俺の頬を愛しげに撫でて、微笑んだ。



続く
3/3ページ
スキ