Lilac Wine 4
名古屋に向かう飛行機の中で、俺はこれまでに分かった断片的な事柄を頭の中で反芻していた。
俺の母親は、真緒の実家の家臣である田村家の子孫だった。
その田村家は、なぜかダイスケサマが処刑された翌年の秋、ナゴヤからアオモリに居を移し、それには真緒の乳母が関わっていた可能性がある。
そして赤ん坊と、俺が真緒に託した笄……
そこまで考えて、俺はふと、ある可能性に気づいた。
「ねぇ、ダイ。……御台さまには、御子がおられたんじゃない?」
俺の隣で、同じように考え込んでいたユヅが静かに口を開く。
「……やっぱりユヅもそう思う?」
ユヅも俺と同じことを考えていると知り、俺はお腹の底がずんと重くなるような気がした。
俺が調べた限り、真緒は再婚していない。
そして、真緒の乳母は、アオモリの寺の住職に赤ん坊のための準備を依頼していた。
時期は寛永15年の秋。
ダイスケサマが死んで、ちょうど10か月後だ。
「……ダイ、心当たりある?」
「…………ないことはない。」
ユヅに嘘はつけない。
真緒と過ごした最後の夜、震える手でしがみついてきた真緒を突き放すことなどできなかった。
俺の身体の下で、真緒は黙って泣いていた。
白い頬にいく筋も流れた涙を、それを見て何もできない胸の痛みを、俺の魂が覚えている。
でも、まさかあの夜に真緒が身ごもったなんて。
そんなことがあるんだろうか。
俺は信じられなかった。
隣のシートに座るユヅをそっと盗み見る。
色白の端正な顔は、普段どおりで特に変わった様子は見当たらない。
ダイスケサマ亡き後の真緒について、俺よりよく知っているはずのユヅ。
真緒が妊娠していたとしたら、兆候はなかったんだろうか。
けれど、口に出して尋ねることは憚られた。
ユヅが怒っているとは思わないけれど。
傷ついていないとは言い切れない。
「…どうしたの、ダイ。」
俺の視線に気づいたユヅが口元だけで微笑む。
「いや……」
俺は何も言えず、俯いた。
「ねぇ、ダイ。もし、御台さまに御子がいたら……」
ユヅはそう言いかけて、遠くを見るような目をした。
「御台さまはきっと、すべてをかけてその御子の命を守ろうとしただろうね。」
「…………」
ユヅが何のことを言っているのか、何となく分かった。
幕府に逆らったダイスケサマの子孫。
本来なら一族郎党が命を落としてもおかしくなかった。
当時の世論や様々な思惑が交差して、何とか生きることを許されたけれど、安心などできない不安定な状況だったはずだ。
まして、ダイスケサマの正室である真緒が、あの水墨画のとおり男児を産んだとしたら。
俺は、当時の真緒の恐れが乗り移ったかのように、ぞくりとした。
俺の母親は、真緒の実家の家臣である田村家の子孫だった。
その田村家は、なぜかダイスケサマが処刑された翌年の秋、ナゴヤからアオモリに居を移し、それには真緒の乳母が関わっていた可能性がある。
そして赤ん坊と、俺が真緒に託した笄……
そこまで考えて、俺はふと、ある可能性に気づいた。
「ねぇ、ダイ。……御台さまには、御子がおられたんじゃない?」
俺の隣で、同じように考え込んでいたユヅが静かに口を開く。
「……やっぱりユヅもそう思う?」
ユヅも俺と同じことを考えていると知り、俺はお腹の底がずんと重くなるような気がした。
俺が調べた限り、真緒は再婚していない。
そして、真緒の乳母は、アオモリの寺の住職に赤ん坊のための準備を依頼していた。
時期は寛永15年の秋。
ダイスケサマが死んで、ちょうど10か月後だ。
「……ダイ、心当たりある?」
「…………ないことはない。」
ユヅに嘘はつけない。
真緒と過ごした最後の夜、震える手でしがみついてきた真緒を突き放すことなどできなかった。
俺の身体の下で、真緒は黙って泣いていた。
白い頬にいく筋も流れた涙を、それを見て何もできない胸の痛みを、俺の魂が覚えている。
でも、まさかあの夜に真緒が身ごもったなんて。
そんなことがあるんだろうか。
俺は信じられなかった。
隣のシートに座るユヅをそっと盗み見る。
色白の端正な顔は、普段どおりで特に変わった様子は見当たらない。
ダイスケサマ亡き後の真緒について、俺よりよく知っているはずのユヅ。
真緒が妊娠していたとしたら、兆候はなかったんだろうか。
けれど、口に出して尋ねることは憚られた。
ユヅが怒っているとは思わないけれど。
傷ついていないとは言い切れない。
「…どうしたの、ダイ。」
俺の視線に気づいたユヅが口元だけで微笑む。
「いや……」
俺は何も言えず、俯いた。
「ねぇ、ダイ。もし、御台さまに御子がいたら……」
ユヅはそう言いかけて、遠くを見るような目をした。
「御台さまはきっと、すべてをかけてその御子の命を守ろうとしただろうね。」
「…………」
ユヅが何のことを言っているのか、何となく分かった。
幕府に逆らったダイスケサマの子孫。
本来なら一族郎党が命を落としてもおかしくなかった。
当時の世論や様々な思惑が交差して、何とか生きることを許されたけれど、安心などできない不安定な状況だったはずだ。
まして、ダイスケサマの正室である真緒が、あの水墨画のとおり男児を産んだとしたら。
俺は、当時の真緒の恐れが乗り移ったかのように、ぞくりとした。