Lilac Wine 3

次の日、俺たちは、俺が見つけた田村家について書かれた巻物がしまわれていた棚の段を探した。

他に何か情報が残っているかもしれない。

その段には、古いものばかり集められていたようで、ほとんど判読できないものもあった。

「ダイ、これ何か関係あると思う?」

ユヅが広げてみせたのは、書簡のようだった。

「どれどれ、んーと……御君の為、…以下の…御用意されたく候……え、腹掛け、産着?!」

その内容は、誰かが住職宛てに依頼をしたためたもので、依頼主が書き連ねた品々は、判読できるだけでも赤児のものばかりだった。

「これって…御君っていうのが、赤ん坊ってことか?」

「見て、この日付け。」

ユヅが指し示した箇所は、所々消えていたが、「寛永十五年」と読み取れた。

田村家がこの寺にやって来た年と同じだ。

「送り主は、満知子っていう人らしいけど…。苗字とか役職は書いてないんだ。女性だからかな?」

「満知子……」

俺は何かが記憶の底に引っかかるような気がして、目を閉じた。

「うおっ!」

「な、なに?!」

突然素っ頓狂な声を上げた俺に、ユヅがびっくりして切れ長の目を丸くする。

俺は、動きを止めたはずの心臓がバクバク音を立てているような錯覚に陥りながら、懸命に言葉をつないだ。

「お、思い出したんだ…ま、満知子って…、満知子って、ま、真緒の…乳母だっ!」

「………!」

ユヅがさらに目を見開く。



『ばあや、ばあや。』

真緒が屈託なく呼ぶ声が脳裏に蘇る。

その乳母は、いつも真緒の側に付き従っていた。

ダイスケサマとの間に子を成せなかった真緒が、高橋家で冷遇されないよう懸命に心を砕き、ダイスケサマと真緒の間を取り持っていた。

真緒のためなら命を捨てることも厭わないほど。

真緒に尽くしていたんだ。


「なぜ…真緒のばあやがこの手紙を…?」

俺は答えがないと分かっている問いを呟く。

「分からないことばかりだ……」

調べれば調べるほど、ますます謎が深まっていくような気がする。

「分かったこともあるよ。」

ユヅが優しく俺の肩に手をかけた。

「田村家がこのお寺に来たのは、御台さまと関係があるんじゃないかな…てことは、ダイは御台さまと関係があるってことだよ。」

「…………」

一体、どんな関係だというんだろう。

それに、ばあやが真緒とは関係ない事情でこの手紙を書いた可能性だって否定できない。

「とりあえず、満知子さんと、この…田村岳斗っていう人の関係を調べてみようよ。」

「……それって……」

ユヅは俺を見てにっこりした。

「そ。名古屋に行こう。」



続く
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