Lilac Wine 3

田村家の墓がある寺院は、市内の閑静な住宅地にあった。

祖父が一緒に来てくれたおかげで、住職は突然の俺たちの訪問にも快く対応してくれた。

運良く天候も曇りで、室内ではサングラスをする必要はなかった。

「田村家は、今から150年ほど前、ちょうど江戸時代が終わった頃に、青森の八戸からこちらに参られております。」

「…青森、ですか。」

「ええ。」

住職は、台帳をめくりながらにこやかに頷いた。

俺とユヅは顔を見合わせた。

アオモリなんて、ますますダイスケサマとも真緒とも縁がない。

やっぱり無駄足だったか。

諦めかけた俺は、その後に続いた住職の言葉に仰天した。

「遡れば鎌倉時代から続いた武士の家系で、元々は名古屋の浅田家に長く仕えていたようです。」

「あ、浅田っ?!」

思わず叫んでしまい、住職は目を丸くした。

「浅田家をご存知なのですか。」

「え、ええ…、まぁ……」

「私もさほど詳しくはありませんが、徳川御三家のひとつ、尾張徳川家の重臣ですね。江戸時代初期に、浅田家から大阪の大名に輿入れした女性がおりまして、彼女が後に仏門に入りましたお寺が、当院と縁がありました関係で、こちらに参られたようです。」

「…それ、西方院ですね?」

興奮を抑えるかのように、固い声で確認したのはユヅだった。

おそらく住職の思考を読んでいるのだろう。

西方院は、真緒が余生を過ごした尼寺だ。

「よくご存知で。」

住職は目を細めた。

「そ、それで、なぜ浅田家の家臣が青森へ?」

思わず前のめりになってしまった俺に、住職は申し訳なさそうに眉を下げた。

「さぁ…、それは……。こちらでは分かりかねます。」

住職が持っている台帳には、田村家が岡山に来てからの系譜しか記載されていなかった。

住職は、青森の寺院に行けば、それ以前のものがあるかもしれないと言った。

「随分と昔のものですから、どれほど残っているかは分かりませんが…。しかし、戦時の空襲は免れたようですし、もしかしたら…」

住職は、俺たちのために青森の寺院宛てに手紙を書くと言ってくれた。

「同じ宗派ですから、時折やりとりはあるのです。あなた方が連絡を取られるのであれば、協力していただけるよう、お伝えしてみます。」

俺たちは、住職に丁寧に礼を言った。



「…行くよね、ダイ。」

「あぁ。」

寺院を出て、ユヅが短く問いかけてくるのに、俺は即答した。

思いもよらなかった田村家と真緒のつながり。

一体、どういうことなのか、確かめなければという思いが強くなっていた。
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