Lilac Wine 2

「おかしいな…。こんなことって、ある?」

ユヅは、パソコンの画面を見つめたまま、口元に手を当てた。

俺の母方の家系図に連なっている名前は、ユヅがタカヒコから情報を得て独自に整理していたデータベースの中に、一つもなかった。

「途中で追えなくなっているならまだしも、まったくないなんて…」

田村家が、ダイスケサマの高橋家から枝分かれしている痕跡が、見当たらないのだ。

「御台さまのご実家って、浅田家だったよね?」

「あぁ。確か、尾張の那古野ってところだ。」

「今の名古屋市だ。岡山とは全然関係ないね…」

「そうだなぁ…」

「……もしかして、僕が知らないだけで、大輔さま、隠し子がいたの?」

「ええっ?!」

俺は慌てた。

「い、いや、いないって!…だいたい、家のためにしたことだし。お、俺はユヅが好きだったんだから…っ」

なんで俺、400年近く前の浮気を疑われてるんだ?!

「…ふうん、そっか。」

ユヅは、それ以上問い詰める気持ちはないみたいで、俺はほっとした。

「俺、ダイスケサマとは全然関係ない血筋なんじゃない?」

「……そんなこと。」

ユヅは信じられないようだった。

「じゃあ、なんであの笄がダイの家に伝わってるのさ?」

「……うーん…」

真緒ともダイスケサマとも関係が見当たらないのに。

俺は訳が分からなくなった。



「明日、お寺に行ってみようか。」

ユヅも当惑した顔をしていたが、思いついたように言った。

「タカヒコは、お寺を通じて情報を集めていたから。何か分かるかもしれない。」

日本の寺には檀家制度というものがあり、代々の家の歴史が保管されている。

田村家のように、それなりに由緒ある家なら、ユヅの言うことも一理ある気がした。

「…大学はしばらく行けないな。」

もう少し日本に留まる必要がある。

ユヅはにっこりした。

「何なら、休学しようよ。またいつでも行けるんだし。」

「……ユヅ。」

俺は、ユヅを抱き寄せた。

俺の気持ちの整理のために、ユヅを付き合わせているようで、少し後ろめたい。

ユヅにとって、楽しい話題ではないと思うのに。

「……ダイ、愛してる。」

長いキスの後、ユヅが俺にしがみついたまま、小さく囁いた。

「ダイに巡り会ったとき、こんなに幸せなことはないって思ったのに、ダイはいつもそれ以上の幸せを僕にくれるんだ。…何度も。」

「…ユヅ。」

「ダイがどこから来たのか、僕も知りたい。」

ユヅはそう言って、俺の頬を愛しげに指先で撫でた。

「だって、ダイは、僕のものでしょ?」

「…あぁ。」

いたずらっぽく微笑むユヅに、俺は想いを込めてもう一度口付けた。

「…っダイ、ダメだって…!お祖父さんが…」

そのまま畳の上に押し倒されて、ユヅが焦ったような声を出す。

「大丈夫だって。ぐっすり寝てるし。少し耳も遠いしさ。」

「……あっ……」

俺の指の動きに、ユヅの身体がびくんと反応する。

「でも、あんまり声出すなよ?」

「……っそ、……っ」

ユヅの抗議の声を封じるために、俺は深く唇を重ねた。



続く
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