Lilac Wine 2

曽祖父の屋敷は、オカヤマというところにあった。

オーサカから新幹線で1時間と少しの、のどかな場所だ。

今は、曽祖父が亡くなる少し前から日本に帰国している祖父が一人で住んでいた。

母は、少なくとも四十九日の法要が終わるまで滞在する予定だと言っていた。



「おお、ダイちゃん!よう来たなぁ!」

10数年ぶりに会った祖父は、めっきり白髪が増えていた。

「……そのダイちゃんっていうの、やめてよね……」

隣でユヅがわざとらしく咳払いしている。

きっと笑いをこらえているに違いない。

「久しぶりの日本は懐かしいし、ずっと居たいような気もするけどな、一人は退屈だったんじゃ。来てくれて嬉しいわ。」

祖父によれば、曽祖母は施設に入っていて、兄弟も皆それぞれの生活があるらしい。

皺々の目元をくちゃくちゃにして微笑まれると、それ以上文句は言えなかった。

とりあえず曽祖父の位牌に手を合わせてから、遺品を見せてもらった。

「あらかた形見分けしてしもうたけどな、一応、写真も撮っておいたし。しかし、こんなんが日本の歴史の勉強になるんかいな。」

祖父は、母から俺が訪ねて来た理由を聞いているようだった。

「俺、大学でも日本史を専攻してたからさ。」

適当に話を合わせながら、祖父が広げてくれた遺品の数々をじっくり見た。

ユヅが問いかけるように俺を見るのを、かすかに首を振って答える。

あの笄以外に、見覚えのあるものはなかった。

「よっしゃ、今晩は寿司でも取ろうか。」

うきうきした様子の祖父は、母に輪をかけて大らかな性格で、俺の変わりようやユヅのことについても気にかけるそぶりは全くない。

俺たちは顔を見合わせ、覚悟を決めた。

今晩は付き合うしかない。

一人分の食事がはっきりしているものではないだけマシだと思おう。



久しぶりに楽しかったのか、大いに呑んで食べ、眠り込んでしまった祖父を、俺はそっと抱き上げた。

こんなに軽かったかな、と思うと月日の流れが切ない。

「じーさん、寝かせてくる。」

俺は、片付けをしているユヅに声をかけて、祖父を寝室に運んだ。

無理やり寿司を食べたせいで、お腹に砂が溜まっているみたいだ。

祖父を寝かせて戻ってくると、ユヅは応接間にいた。

古い日本式の屋敷は、細い廊下に和室が続いている。

「何してんの?」

ユヅは、壁に掛けられた歴代の当主の写真を眺めていた。

「あの人、ダイに似てる。」

「……そうか?」

ユヅは嬉しそうだった。

「ダイのお母さんは、タムラさんっていうんだね。」

「…あぁ。タカハシっていうのは、父親の性なんだ。」

「すごい偶然。」

ユヅは目を細めた。

俺は、そっとユヅの背中から腕を回し、ユヅを抱きしめる。

「じーさんにもらった家系図、見る?」

「…うん。」

ユヅは、頬をすり寄せる俺に身体を預けながら、甘やかに頷いた。

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