Lilac Wine 2
「ダイ……っん……」
ホテルに着くなり、ユヅを押し倒した俺を、ユヅは何言わずに受け止めた。
露わにした白く滑らかな肌に四肢を絡め、口付けると、自分が何を一番必要としているかがはっきり分かる。
ユヅだけがいればいい……
俺は、次々と脈絡なく浮かんでは消える過去を考えないようにした。
俺自身が経験したわけではない過去は、ユヅと共有することで大きな意味を持つ。
それ以外は必要ない。
俺は自分にそう言い聞かせながら、ユヅの両脚を抱え上げた。
「あ…ダ、イ……っ」
仰け反ったユヅの痩身を強く抱きしめて、腰を進めると、ユヅが唇を寄せてきた。
薄いピンク色の唇から紅い舌が覗いている。
「ユヅ…、ユヅ……」
ぴったりと唇と身体を重ね、俺はユヅの中に埋没する。
ユヅのこと以外、何も考えたくない。
俺は、迫り来る過去から逃げるようにユヅに溺れた。
激しい絶頂の波が去って、俺はユヅの上に覆いかぶさったまま、ユヅを抱きしめる力を強くした。
「……ごめん、俺……」
ユヅを愛するというより、縋るようにユヅを抱いてしまった。
「どうして?」
けれどユヅは、くすっと笑って俺の額にかかった髪をかきあげた。
「僕、ダイとするの、好きだよ。」
優しく触れる唇。
俺はますます後ろめたい気持ちになった。
「……ね、ダイ。」
「………ん?」
「あれ…、大輔さまのでしょ?」
「…………」
ユヅが何のことを言っているのか、すぐに分かった。
母から受け取った笄は、俺のリュックに入ったままだ。
どうしてもいらないと言えなかった。
まさか、俺の血族が持っていたなんて。
「……でも、俺の家族に受け継がれてるはずはないんだ。」
「どうして?」
ユヅは、俺の言っている意味が分からないようだった。
俺の転生は、ダイスケサマの血筋に現れると、ユヅは考えている。
ユヅとブライアンが日本を離れた後は、ブライアンの友人だという日本人のヴァンパイア、タカヒコがダイスケサマの血脈を追っていた。
時代の変化と共に、いくつかの子孫は海を渡り、ユヅもタカヒコから知らせを受けてその動向を把握しようとしていたものの、長い年月の中で範囲が広がって追いきれなくなったと言っていた。
俺もそのうちの1人なのだろうと。
けれど、俺がダイスケサマの子孫だとしたら、ますますあの笄が俺の手元にあるはずはなかった。
「……あれは、真緒に託したんだ。」
マオの話は極力したくなかったが、ユヅに嘘はつけない。
「決起すると決めたとき。今生の別れに。」
「…………」
黙ったままのユヅを、俺はそっと窺い見た。
ユヅは、以前俺がマオのことを思い出したとき、俺とマオの絆を慮って、身を引こうとした。
俺としては、この期に及んでユヅと生きると決めた覚悟を信じてもらえなかったショックが大きかったが、ユヅがどれほど苦しみ悩んだかと想像すると、怒ってばかりもいられなかった。
俺の考えなしの行動も悪かったし。
できるなら、前世のマオと俺のことは触れずに置いておきたかったのに。
「真緒にはダイスケサマとの間に子どもはいない。」
「…御台さまが、大輔さまのご子息の誰かに贈られたんじゃないの?」
「…………」
そんなことはない。
真緒はそんなことはしない。
あれは、俺の亡き後の想いのすべてを真緒に託したものだ。
真緒が託すとしたら、真緒自身の血を分けた者にしかあり得ない。
けれど、それを上手く言葉で説明することはできなかった。
黙ったままの俺をどう思ったのか、ユヅはしばらく黙って俺の髪を梳いていた。
「ダイ、日本へ行こう。」
「………えっ?!」
突然の提案に面食らった俺を、ユヅは可笑しそうに見てにっこりした。
「ダイのルーツを調べてみよう。御台さまのことも。ね?」
ホテルに着くなり、ユヅを押し倒した俺を、ユヅは何言わずに受け止めた。
露わにした白く滑らかな肌に四肢を絡め、口付けると、自分が何を一番必要としているかがはっきり分かる。
ユヅだけがいればいい……
俺は、次々と脈絡なく浮かんでは消える過去を考えないようにした。
俺自身が経験したわけではない過去は、ユヅと共有することで大きな意味を持つ。
それ以外は必要ない。
俺は自分にそう言い聞かせながら、ユヅの両脚を抱え上げた。
「あ…ダ、イ……っ」
仰け反ったユヅの痩身を強く抱きしめて、腰を進めると、ユヅが唇を寄せてきた。
薄いピンク色の唇から紅い舌が覗いている。
「ユヅ…、ユヅ……」
ぴったりと唇と身体を重ね、俺はユヅの中に埋没する。
ユヅのこと以外、何も考えたくない。
俺は、迫り来る過去から逃げるようにユヅに溺れた。
激しい絶頂の波が去って、俺はユヅの上に覆いかぶさったまま、ユヅを抱きしめる力を強くした。
「……ごめん、俺……」
ユヅを愛するというより、縋るようにユヅを抱いてしまった。
「どうして?」
けれどユヅは、くすっと笑って俺の額にかかった髪をかきあげた。
「僕、ダイとするの、好きだよ。」
優しく触れる唇。
俺はますます後ろめたい気持ちになった。
「……ね、ダイ。」
「………ん?」
「あれ…、大輔さまのでしょ?」
「…………」
ユヅが何のことを言っているのか、すぐに分かった。
母から受け取った笄は、俺のリュックに入ったままだ。
どうしてもいらないと言えなかった。
まさか、俺の血族が持っていたなんて。
「……でも、俺の家族に受け継がれてるはずはないんだ。」
「どうして?」
ユヅは、俺の言っている意味が分からないようだった。
俺の転生は、ダイスケサマの血筋に現れると、ユヅは考えている。
ユヅとブライアンが日本を離れた後は、ブライアンの友人だという日本人のヴァンパイア、タカヒコがダイスケサマの血脈を追っていた。
時代の変化と共に、いくつかの子孫は海を渡り、ユヅもタカヒコから知らせを受けてその動向を把握しようとしていたものの、長い年月の中で範囲が広がって追いきれなくなったと言っていた。
俺もそのうちの1人なのだろうと。
けれど、俺がダイスケサマの子孫だとしたら、ますますあの笄が俺の手元にあるはずはなかった。
「……あれは、真緒に託したんだ。」
マオの話は極力したくなかったが、ユヅに嘘はつけない。
「決起すると決めたとき。今生の別れに。」
「…………」
黙ったままのユヅを、俺はそっと窺い見た。
ユヅは、以前俺がマオのことを思い出したとき、俺とマオの絆を慮って、身を引こうとした。
俺としては、この期に及んでユヅと生きると決めた覚悟を信じてもらえなかったショックが大きかったが、ユヅがどれほど苦しみ悩んだかと想像すると、怒ってばかりもいられなかった。
俺の考えなしの行動も悪かったし。
できるなら、前世のマオと俺のことは触れずに置いておきたかったのに。
「真緒にはダイスケサマとの間に子どもはいない。」
「…御台さまが、大輔さまのご子息の誰かに贈られたんじゃないの?」
「…………」
そんなことはない。
真緒はそんなことはしない。
あれは、俺の亡き後の想いのすべてを真緒に託したものだ。
真緒が託すとしたら、真緒自身の血を分けた者にしかあり得ない。
けれど、それを上手く言葉で説明することはできなかった。
黙ったままの俺をどう思ったのか、ユヅはしばらく黙って俺の髪を梳いていた。
「ダイ、日本へ行こう。」
「………えっ?!」
突然の提案に面食らった俺を、ユヅは可笑しそうに見てにっこりした。
「ダイのルーツを調べてみよう。御台さまのことも。ね?」