花のもとにて

外に出ると、しっとりと湿気をはらんだ柔らかな風が頬を撫でる。

異国の香りだ。

「ダイ、こっち。」

ユヅは、慣れた様子で空港から市内に向かうバス乗り場に俺を誘った。

「最近も来てたのか?」

そう聞くと、少しきまり悪げに頷く。

「…ダイと離れてる間は、ほとんど。…でも結局、またダイの顔が見たくなって……」

行ったり来たりしていたのだと、口ごもりながら言うユヅが可愛い。

正直言って、ユヅがこんなに可愛くなるとは思わなかった。

…たぶん、これが本来のユヅなんだ。

いつも俺を慮り、自分を抑えていたユヅ。

俺が変身してから、少しずつ本来の姿を取り戻してくれているなら、嬉しい。

「……なに?」

恥ずかしげに尋ねてくるユヅに、なんでもないと首を振って、俺はユヅの手を取った。

「ダイ…。目立っちゃうよ。」

困ったように言いながらも、手を振りほどこうとはしない。

「いいじゃん。初めての旅行なんだし。」

2人でいると、それだけで満ち足りて、俺たちは特に呼び出されない限り、ジェーニャに贈られた無人島で過ごしていたのだけれど。

2年も経つと、さすがに飽きてきた。

どこか行きたいところはあるか、と尋ねると、ユヅはしばらく考えて、日本を選んだ。

「ダイに案内したいところがあるんだ。」

俺にもちろん否はなかった。

ユヅが生まれた国。

俺のルーツでもあるけど、ユヅに出会うまで、俺にとって特別ではなかった、遠い東方の異国。

ユヅの生きた形跡を辿りたくて、大学に入り直して日本史を研究した。

「ダイはいつ留学してたんだっけ?」

「3年前だよ。懐かしいなぁ。」

オーサカは相変わらず活気に満ちている。

「市内から少し電車に乗るんだ。」

ユヅは、少し切なげに微笑んだ。

俺は、ユヅが前世の俺との思い出の場所に案内してくれようとしているのを知って、ますます嬉しくなった。

人目がなければ今すぐ抱きしめてキスしたい。

…いや、日本じゃなければしてたかも。

礼節を重んじるこの国では、公衆の面前であまりいちゃいちゃしないのだ。

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