Lilac Wine 1

ジャックを交えて食事をした後(俺たちは空港で少し食べてきたと言い訳をして、失礼にならない程度に皿をつまんだ。)、ジャックがレコードを取り出した。

「…もう、なんでこんなに暗い曲なのよ。」

母がぶつぶつ言っているが、ジャックは悪びれずに飲んでいたワインのボトルを掲げて見せた。

「だって、ライラックワインだからね。」

「いい曲ですね。僕は好きです。」

ユヅの言葉に、ジャックは嬉しそうに頷いた。

「君は本当の愛を知ってるってことさ。」



I lost myself on a cool damp night
Gave myself in that misty light
Was hypnotized by a strange delight
Under a lilac tree

I made wine from the lilac tree
Put my heart in it's recipe
It makes me see what I want to see
And be what I want to be...



しばらく哀愁漂う音楽に4人とも聴き入った。

ライラックの樹の下で、ワインに酔いしれながら、ここにはいない恋人を想う男。

幻のように、上手くその姿を捉えられないまま。

ふと、俺と巡り会うのを待ち続けていたユヅの姿が浮かんだ。

あの桜の樹の下で。

ずっと俺を待っていたんだろうか。

気が遠くなりそうなほど長い年月を。

たった1人で。

「ユヅ……」

俺は、そっと隣に座るユヅの手を握った。

ユヅが目線だけで微笑みかける。

消えてしまいそうに儚くて、美しい。

母たちがいなかったら、今すぐ抱きしめてキスしていただろう。



「そうだわ、ダイ! お祖父ちゃんの形見を見てもらわなきゃ! 危うく忘れちゃうところだった。」

感傷的なムードを物ともせず、マイペースな母の明るい声が響く。

ユヅがくすっと笑った。

……なんだかなぁ、もう。

俺はため息を吐くと、立ち上がった。
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