Lilac Wine 1
「……ダイ、ここ?」
「うん、たぶん。」
少し緊張した顔のユヅに、なるべく普段通りに微笑んで見せて、俺は玄関のインターホンを鳴らした。
母親の住む家を訪ねるのは、変身してから初めてだ。
しかもユヅと一緒。
人間の中で生活するのは大分慣れたけれど、家族に会うのはやっぱり緊張する。
ユヅは、違う意味で緊張しているらしかった。
ここに来る直前まで、手土産や服装にえらく気を遣っていた。
「ハイ、ダイ! ユヅもようこそ。」
母は、満面の笑みで俺を迎えてくれた。
俺の変化に気づいていないはずはないのに、変わらずにいようとしてくれている。
「ハロー、母さん。元気だった?」
ハグをすると、人間だったときには知らなかった芳しい香りが鼻腔をくすぐる。
俺は、不自然にならないよう顔を背け、すぐに身体を離した。
「仕事はどうなの?」
「順調だよ。」
俺とユヅは、貿易関係の会社を共同経営していることになっている。
母に会うのは、年に1回あるかないかだったが、まだ姿形が変わらないことが不自然には見えない年数しか経っていない。
「トロントはどう?」
「ふふ、都会はやっぱり楽しいけれど、時々田舎が恋しくなるわ。」
母は、再婚相手であるジャックの仕事の関係で、昨年トロントに引っ越してきた。
それまではキンバリーやジャスパーでのんびりしていたので、環境の変化が大きいらしかった。
「もうすぐジャックが帰ってくるわ。ワインを持ってね。ユヅ、ワインは好き?」
「ええ、あまり詳しくないですが…」
ユヅは、小首を傾げながら、丁寧に答えて微笑んだ。
「あら。」
母は、少しどきまぎしたように、頬を染めた。
ユヅの完璧なスマイルは、いつだって見る者を虜にする。
しかも、今日はとっておきだ。
本当は俺だけのものにしておきたいんだけれど。
「…ダイ、彼って本当に綺麗ね。」
母は、こっそり俺に耳打ちした。
……たぶん、ユヅには聞こえてるけど。
俺は曖昧に微笑んだ。
突然ゲイのカミングアウトをしたも同然の俺を、何も言わずに受け入れてくれている母。
ユヅの美しさがそれを助けているのは明白だった。
「うん、たぶん。」
少し緊張した顔のユヅに、なるべく普段通りに微笑んで見せて、俺は玄関のインターホンを鳴らした。
母親の住む家を訪ねるのは、変身してから初めてだ。
しかもユヅと一緒。
人間の中で生活するのは大分慣れたけれど、家族に会うのはやっぱり緊張する。
ユヅは、違う意味で緊張しているらしかった。
ここに来る直前まで、手土産や服装にえらく気を遣っていた。
「ハイ、ダイ! ユヅもようこそ。」
母は、満面の笑みで俺を迎えてくれた。
俺の変化に気づいていないはずはないのに、変わらずにいようとしてくれている。
「ハロー、母さん。元気だった?」
ハグをすると、人間だったときには知らなかった芳しい香りが鼻腔をくすぐる。
俺は、不自然にならないよう顔を背け、すぐに身体を離した。
「仕事はどうなの?」
「順調だよ。」
俺とユヅは、貿易関係の会社を共同経営していることになっている。
母に会うのは、年に1回あるかないかだったが、まだ姿形が変わらないことが不自然には見えない年数しか経っていない。
「トロントはどう?」
「ふふ、都会はやっぱり楽しいけれど、時々田舎が恋しくなるわ。」
母は、再婚相手であるジャックの仕事の関係で、昨年トロントに引っ越してきた。
それまではキンバリーやジャスパーでのんびりしていたので、環境の変化が大きいらしかった。
「もうすぐジャックが帰ってくるわ。ワインを持ってね。ユヅ、ワインは好き?」
「ええ、あまり詳しくないですが…」
ユヅは、小首を傾げながら、丁寧に答えて微笑んだ。
「あら。」
母は、少しどきまぎしたように、頬を染めた。
ユヅの完璧なスマイルは、いつだって見る者を虜にする。
しかも、今日はとっておきだ。
本当は俺だけのものにしておきたいんだけれど。
「…ダイ、彼って本当に綺麗ね。」
母は、こっそり俺に耳打ちした。
……たぶん、ユヅには聞こえてるけど。
俺は曖昧に微笑んだ。
突然ゲイのカミングアウトをしたも同然の俺を、何も言わずに受け入れてくれている母。
ユヅの美しさがそれを助けているのは明白だった。