美しい人 前編

「ダイ! 久しぶり!」

待ち合わせの居酒屋で待っていると、すっかり大人びたショーマが現れて、それでも以前と変わらない笑顔で俺に手を振る。

きっと納得はしていないはずだけど、ヴァンパイアになった俺にも、変わらない態度で接してくれる貴重な友人だ。

ショーマは俺が初恋だと言った。

…なんだか照れる。

「久しぶり、ショーマ。元気だったか?」

「もう、めっちゃ仕事が忙しくてさ。今日は抜けて来られてよかった。」

日本人の夏休みは、信じられないくらい短い。

スーツ姿のショーマは、あっちい、と言って俺たちの向かいの席に座り、生ビールを頼んだ。

人間だったときは、俺も大好きだったけど。

俺たちの前には、形ばかりの料理が手付かずで並んでいる。

「夏休みだから、ウェールズでダイやユヅと一緒に戦った仲間が何人か帰って来てるんだ。声かけたら、来るって。」

ショーマは、運ばれて来たビールを飲み干し、1人分とは思えないほどの料理を注文してから、そう言った。

「へぇ…。でも覚えてるかなぁ。俺、あのときは夢中で…」

「大丈夫、顔見れば思い出すって。」

ショーマはさっそく二杯目のビールを注文している。

俺はユヅと顔を見合わせた。



「こんばんわー。」

「こんばんはっ。」

彼女が友人らしき女性と連れ立って現れたとき、俺は彼女から目が離せなかった。

真緒。

真桜。

こんなところに、いたのか。

「ダイ、大人っぽくなったのね。ヴァンパイアになっちゃうなんて、ちょっとシャクだけど。」

「ほんとよー。あたし達、何のために戦ったんだか。」

今生のマオは、真央というらしかった。

幼馴染だというカナと賑やかに話している。

以前、ウェールズで会った時は気付かなかった。

けれど、今の俺には分かる。

マオは、前世の俺と共にあった女性だ。

ふんわりした天真爛漫な雰囲気がまったく同じなんだ。

「マオ…、マオは今何してるんだ?」

俺は、ついマオにあれこれ聞いてしまった。

マオのことが、もっと知りたい。

ショーマが少し戸惑った顔をして、俺とユヅを見比べている。

けれど、その時の俺は、ユヅを気遣うことができなかった。

マオと今生で再会できたことが、あまりに嬉しくて。

神様のくれた思いがけない偶然に、興奮してしまっていた。




続く
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