美しい人 前編

図書館で、ダイスケサマについて調べ始めた俺を、ユヅは黙って手伝った。

ダイスケサマの死後、その子孫の命は、ダイスケサマの正室によって、守られていた。

彼女は、譜代の有力大名である実家の力を使って、子どもたちの後ろ盾にもなってくれていた。

彼女自身は、俺の子どもたちの成長を見届けて仏門に入り、以降どのような余生を送ったか、何歳で没したのかは判然としない。

幸せだったのだろうか。

俺に分かるのは、真緒は、あのときの言葉どおり、全身全霊で俺の血筋を護ってくれたということだけだ。

「…御台さまのことも、思い出したんだね…」

ユヅが小さな声で言う。

「……ユヅ……」

俺は、何て言ったらいいのか、分からなかった。

「…ユヅを傷つけるつもりは、ないんだ。」

ただ、知りたい。

彼女の生き様を。

「……真桜さんの、ことも?」

「ユヅ…!」

ユヅが真桜を知っていることに驚いた。

けれど、ユヅが日本を離れてからも、日本人のヴァンパイアを介して、俺の子孫の動向を把握していたことを思い出して、納得する。

「タカヒコから聞いてたのか。」

「……真桜さんは、戦禍を生き延びたよ。」

ユヅは、俺の問いには答えずに、静かに続けた。

「遺された大尉のご両親を常に励まして、勇気づけてくれてたって。」

「……そう、か……」

俺は、その答えを知っていたような気がした。

真桜なら、必ずそうしてくれるはずだ。



「…ね、真桜さんってさ……」

「ん?」

目線上げた俺に、ユヅはかすかに笑って何でもない、と首を振った。

その姿がとても儚げで。

気がつくと俺はユヅの頭を引き寄せ、口付けていた。

遠い南の島で。

捕えられた暗い地下牢で。

人ならざる異形の姿を晒して、震えていたユヅ。

俺を慮り、煩わせまいと自分を押し殺していた姿が重なる。

「…ダ、ダイ、こんなとこで…っ、ここは日本だよ?」

「関係ないね。」

白い陶器のようなユヅの頬に、小さく音を立ててキスを落とし、俺は微笑んだ。

「そろそろ行こうか。」

「……もう……」

ユヅは、少し頬を膨らませ、俺を睨んだが、すぐに苦笑して頷いた。
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