美しい人 前編

「…ダイ? 起きた?」

ユヅの少し心配そうな声に、俺は目を瞬いた。

懐かしい夢を見ていた。

夢の中で微笑む可憐な人。

「ダイ?」

「…うん、起きたよ。」

俺は、ユヅの華奢な身体を抱き寄せた。

今ほどユヅが俺の心を読めなくてよかったと思ったことはない。

前世の記憶を取り戻した当初、思い出すのはユヅとのことばかりだった。

きっと、俺の魂に一番強く刻まれていた記憶なんだろう。

最近は、少しずつだけど、他のことも思い出すようになっている。

真緒…

真桜…

当時は分からなかったけれど、今の俺は、彼女の魂が同一のものだと、確信している。

前世の俺に、いつも寄り添ってくれた女性。

俺は、何度も彼女に救われた。

「…会いたいな。」

「……え?」

思わず漏らした言葉に、ユヅがきょとんとした顔をする。

俺は苦笑した。

どこにいるかも分からないのに。

そもそも、同じ時代に生きているのかさえ不確かだ。


「ユヅ、図書館に行ってもいい?」

「うん、いいけど…」

ユヅはますます不思議そうな顔をした。

「せっかく日本に来たのに、図書館?」

「ちょっと調べたいことがあってさ。日本の方が資料が多いと思うんだ。」

「…ふうん。僕も行っていい?」

「もちろん。」

俺は、少しの後ろめたさを打ち消すように頷いた。

ユヅに隠すようなことじゃない。

そう言い聞かせて。



俺たちは、キャプテンダイスケの遺骨を、ダイスケサマの眠る桜の樹の根元に葬るため、日本に来ていた。

用事はすぐに済んだけれど、久しぶりの日本だし、ショーマ達にも会いたいなと思って、ナゴヤまで足をのばすことにした。

明日の夜には会う約束をしている。

「サングラス忘れないでね、ダイ。」

「分かってるよ。」

俺たちは、連れ立って出かけた。

日本の夏は暑い。

「蝉が鳴いてるね。」

ユヅは、幸せそうだった。

俺が前世の記憶を取り戻したことが、ユヅを幸せにしているんだとしたら、俺はユヅの幸せを守りたかった。

その気持ちに偽りはない。

けれど…

俺は真緒と真桜のことも気がかりだった。

せめて前世の俺が死んだ後、どんなふうに生きていたのか、知りたい。

幸せに暮らせたのか。

辛い思いはしなかったか。

前世の俺のために生きてくれた2人のマオ。

思い出してしまったのに、知らないふりをすることなんて、できない。
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