日付のない墓標
「…さてと、どこに埋まってるかだよな。」
ダイが腕まくりをした。
「いちおう、石を積んで墓標にしたんだ。」
僕も辺りを見回した。
火葬にした大輔さまの骨は、ご遺族のために持ち運びできる大きさのブリキの缶に入れたけど、全部は入り切らなかった。
ブライアンは、持って帰ろうかと言ってくれたけど。
あのときの僕には、とても耐えられそうになかった。
だから自分の慟哭ごと地面に埋めて土に還した。
大輔さまの眠る桜の木の下に埋め直そうと言ったのはダイだ。
その方が大輔さま達も寂しくないだろうって。
しばらく方々を探して、日が暮れかける頃、ようやく見つけた。
苔と蔦に覆われた石の墓標。
「…ユヅ、辛かったら向こうに行ってて。」
「ううん、大丈夫。」
2人で手を合わせてから、そっと石の下を掘った。
「…ごめんね、あのとき、こんなのしかなくて……」
粗末なブリキ缶に入った骨は、土に汚れていたけど、記憶の中とほとんど同じだった。
「いや、ありがとう、ユヅ。……結弦。」
「…大輔さま……っ」
抱きついた僕を、ダイは優しく受け止めてくれた。
「綺麗な壺に移し直す?」
僕は、いちおう陶器の骨壺を持参していた。
「いや、このままでいい。ユヅの気持ちがこもってるから。」
ダイは事もなげに言って、缶についた土を丁寧に払うと、ハンカチで包んだ。
「じゃ、日本に向かおっか。」
僕は頷いた。
辛くて忘れたくて、辛すぎて忘れられなかった記憶が、こうやって形を変えていく。
ダイとの思い出になって、癒されていく。
僕は心から幸せだと思った。
「……俺さ。」
日本に向かう飛行機の中で、僕の手を繋いだまま、ダイがぽつりと言った。
「あの桜、前世の俺の想いだと思う。」
「…………」
「ユヅが幸せになりますようにって。そう願って毎年咲いていたんだ。」
「………ん………」
僕は、ダイの手を握る指に力を込めた。
寂しくて逢いたくて気が狂いそうなとき。
いつも桜の木を見上げていた。
幹に頬を付けると、大輔さまに抱かれているような気がして。
「……これからも時々見に行っていい?」
「もちろん。」
ダイはにっこりした。
「……あとね…」
僕は、以前から言いたかったことを思い切って口にした。
「……時々、大輔さまって呼んでいい?」
「…いいよ。」
そう言って僕を見つめたダイの瞳は穏やかだった。
「大輔さまは、俺だからね。」
いたずらっぽく微笑んだダイは、小さく欠伸をした。
「眠いの?」
「うん……」
前世の記憶を取り戻してから、ダイは時々眠るようになった。
そんなに長い時間じゃないけど。
ブライアンは、急に大容量の記憶を保持することになったせいだろうと言った。
徐々に慣れていけば治るらしくて、実際間隔が空くようになっているので、あまり心配しすぎないようにしている。
「おやすみ、ダイ。」
僕は首を伸ばして、そっとダイにキスをした。
やがて動きを止めたダイの肩に頭をもたせかけて、僕も目を閉じる。
瞼の奥には、桜の花びらの舞う空がどこまでも広がっていた。
傷ついた友達さえ
置き去りにできるソルジャー
あなたの苦しさを 私だけに
つたえていってほしい
忘れない 自分のためだけに
生きられなかった 淋しいひと
私があなたと知り合えたことを
私があなたを愛してたことを
死ぬまで死ぬまで誇りにしたいから
冷たい夢に乗り込んで
宇宙 に消えるヴォイジャー
いつでも人々を 変えるものに
人々は気づかない
行く先は どれくらい遠いの
もう二度と 戻れないの
私があなたと知り合えたことを
私があなたを愛してたことを
死ぬまで死ぬまで誇りにしたいから
終わり
※歌詞は松任谷由実の「Voyager〜日付のない墓標〜」よりお借りしました。Voyager前中後編と併せて、素敵なアイデアと共にリクエストくださいましたぴぴまま様に感謝を込めて♡
ダイが腕まくりをした。
「いちおう、石を積んで墓標にしたんだ。」
僕も辺りを見回した。
火葬にした大輔さまの骨は、ご遺族のために持ち運びできる大きさのブリキの缶に入れたけど、全部は入り切らなかった。
ブライアンは、持って帰ろうかと言ってくれたけど。
あのときの僕には、とても耐えられそうになかった。
だから自分の慟哭ごと地面に埋めて土に還した。
大輔さまの眠る桜の木の下に埋め直そうと言ったのはダイだ。
その方が大輔さま達も寂しくないだろうって。
しばらく方々を探して、日が暮れかける頃、ようやく見つけた。
苔と蔦に覆われた石の墓標。
「…ユヅ、辛かったら向こうに行ってて。」
「ううん、大丈夫。」
2人で手を合わせてから、そっと石の下を掘った。
「…ごめんね、あのとき、こんなのしかなくて……」
粗末なブリキ缶に入った骨は、土に汚れていたけど、記憶の中とほとんど同じだった。
「いや、ありがとう、ユヅ。……結弦。」
「…大輔さま……っ」
抱きついた僕を、ダイは優しく受け止めてくれた。
「綺麗な壺に移し直す?」
僕は、いちおう陶器の骨壺を持参していた。
「いや、このままでいい。ユヅの気持ちがこもってるから。」
ダイは事もなげに言って、缶についた土を丁寧に払うと、ハンカチで包んだ。
「じゃ、日本に向かおっか。」
僕は頷いた。
辛くて忘れたくて、辛すぎて忘れられなかった記憶が、こうやって形を変えていく。
ダイとの思い出になって、癒されていく。
僕は心から幸せだと思った。
「……俺さ。」
日本に向かう飛行機の中で、僕の手を繋いだまま、ダイがぽつりと言った。
「あの桜、前世の俺の想いだと思う。」
「…………」
「ユヅが幸せになりますようにって。そう願って毎年咲いていたんだ。」
「………ん………」
僕は、ダイの手を握る指に力を込めた。
寂しくて逢いたくて気が狂いそうなとき。
いつも桜の木を見上げていた。
幹に頬を付けると、大輔さまに抱かれているような気がして。
「……これからも時々見に行っていい?」
「もちろん。」
ダイはにっこりした。
「……あとね…」
僕は、以前から言いたかったことを思い切って口にした。
「……時々、大輔さまって呼んでいい?」
「…いいよ。」
そう言って僕を見つめたダイの瞳は穏やかだった。
「大輔さまは、俺だからね。」
いたずらっぽく微笑んだダイは、小さく欠伸をした。
「眠いの?」
「うん……」
前世の記憶を取り戻してから、ダイは時々眠るようになった。
そんなに長い時間じゃないけど。
ブライアンは、急に大容量の記憶を保持することになったせいだろうと言った。
徐々に慣れていけば治るらしくて、実際間隔が空くようになっているので、あまり心配しすぎないようにしている。
「おやすみ、ダイ。」
僕は首を伸ばして、そっとダイにキスをした。
やがて動きを止めたダイの肩に頭をもたせかけて、僕も目を閉じる。
瞼の奥には、桜の花びらの舞う空がどこまでも広がっていた。
傷ついた友達さえ
置き去りにできるソルジャー
あなたの苦しさを 私だけに
つたえていってほしい
忘れない 自分のためだけに
生きられなかった 淋しいひと
私があなたと知り合えたことを
私があなたを愛してたことを
死ぬまで死ぬまで誇りにしたいから
冷たい夢に乗り込んで
いつでも人々を 変えるものに
人々は気づかない
行く先は どれくらい遠いの
もう二度と 戻れないの
私があなたと知り合えたことを
私があなたを愛してたことを
死ぬまで死ぬまで誇りにしたいから
終わり
※歌詞は松任谷由実の「Voyager〜日付のない墓標〜」よりお借りしました。Voyager前中後編と併せて、素敵なアイデアと共にリクエストくださいましたぴぴまま様に感謝を込めて♡