日付のない墓標

次の日の朝、リビングに顔を出すと、ブライアンが少し困ったような顔をしていた。

「あ……」

ブライアンの頭の中の懸案事項に、僕も眉根が寄る。

「どうしたの?」

ダイが不思議そうに尋ねた。

ブライアンが蝋で封印した古めかしい封筒を差し出した。

「……皇帝からだよ。君たちへの手紙と、航空券。行き先は好きに選べと書いてある。」

「げ。」

ダイは嫌そうに顔をしかめた。

気持ちはとってもよく分かる。

「ダイ、分かるけど、あんまり嫌わないでやってくれ。ああ見えて、悪い方ではないんだ。」

ブライアンが取りなすように続けた。

ブライアンは、僕と出会う前だけど、一時期皇帝の下にいたことがある。

自らのポリシーを貫くために袂を分かったけれど、彼らの間には、確かに友情めいたものが消えずに残っているんだ。

「私たちヴァンパイアの存在が世間に知れ渡って大騒ぎにならないのは、皇帝のおかげでもあるんだよ。」

「……いちおう、ごめんなさいって書いてある。」

僕は、さっと手紙に目を通して、ダイに渡した。

「…謝まりゃいいってもんじゃないんだよ……」

ぶつぶつ言いながらも、ダイは手紙を受け取った。

「せっかくだし、この航空券でどこか行こうか?ファーストクラスだよ?」

夏休みももう残り少ないのに、今年の僕たちはロシアに行ったきりだった。

信じられないような奇跡が起きて、忘れられない旅になったけど。

「…そうだなぁ……」

ダイは怒り続けるのを諦めたのか、考える表情になった。




「……ここ?」

振り返ったダイに、僕は頷いた。

何十年かぶりに訪れたその島は、季節が同じせいか、当時とあまり変わっていなかった。

僕が陸軍大尉だった大輔さまを看取ったその場所は、草木が生い茂って、すべてを緑に変えていた。

僕は目を閉じて震える息を吐く。

あのとき、冷たくなっていく大輔さまの身体を次第に大きくなる絶望と共に抱き締めていた。

「ユヅ…、大丈夫?」

ダイが心配そうに腕を伸ばす。

なんとか笑って見せる僕を、ダイの温かなシールドが包んだ。

「ごめんね、辛い思いさせて……」

そのときの大輔さまの想いが流れ込んできて、僕は夢中でかぶりを振った。

「いいんだ、こうやって、また逢えたから……」

今の僕は、すべてを受け入れることができる。

ダイがいるから。

ダイが変身してから、信じられないくらい幸せだったけど、小さな棘のように心の隅にあった罪悪感。

大輔さまと一緒に死ねなかったこと。

大輔さまを守れなかったこと。

ダイをヴァンパイアにしてしまったこと。

そんな気後れに似た後ろめたさを、ダイが前世の記憶と共に全部消してくれた。

いつの時代も僕といて幸せだったって。

そう教えてくれたから。

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