Depth of Life

どこか奇妙な雰囲気を残したまま、俺たちはダイの母親とソファで寛ぎ、ブライアンの焼いたクッキーを摘んで紅茶を飲んだ。

人間の食べ物は砂を噛むような味しかしないけれど。

ユヅは、ダイの側で幸せそうに微笑んでいた。

彼らは、いつもお互いの体のどこかを触れ合わせている。

まるでそれが、自然で必然なのだというように。

「…ダイ、あなた、とても大きな決断をしたのね。…なにか、私には想像もつかないようなことが、起きたんだわ。」

母親は、勘のいい人のようだった。

別れ際、もう一度ダイをハグして、少しだけ涙ぐんだ。

「母さん、俺は幸せだよ。今までみたいには会えないけど、それだけは忘れないで。」

ダイの言葉に何度も頷いて、頬にキスをすると、ユヅの方を見て微かに微笑み、名残惜しそうに振り返りながら帰って行った。



「よくやったわ、ダイ。」

ジェーニャが感心したように言う。

俺も同感だ。

『——It is not length of life, but depth of life.』

不意にユヅがそう呟いて、微笑む。

「ダイのお母さんが、心の中で何度も自分に言い聞かせていた。たぶん、自分でもどうしてなのか分からないままに。」

「……あの人、変なときに勘がいいから。」

「いいお母さんだね。会えてよかった。」

ユヅは、ダイの頬にキスをした。

ダイの母親がしたように、愛しさを込めて。



「——なぁ、ダイ。」

クッキーを片付けに、ブライアンらと共にキッチンに消えたユヅを見送りながら、俺は声をかけた。

「お前、本当にすごい奴だな。」

「……え?」

決して声高に主張するタイプじゃないけど、強い信念でユヅを変えた。

止まっていたユヅの時間が、本当の意味で動き出している。

何百年もの時を超えて、ようやく。

「改めてようこそ、ファミリーへ。これからもよろしくな。」

「ありがと、ハビ。」

差し出した手をダイが力強く握ってくる。

俺と同じ体温の手を、俺も力を込めて握り返した。





——It is not length of life, but depth of life.

重要なのは人生の長さではなく、人生の深さなのだ。




終わり
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