Voyager 中編

地上の赤の広場の賑わいは、拍子抜けするほど平和で、地下で繰り広げられていた緊張感のあるやり取りが嘘のようだった。

「ユヅ、大丈夫?」

ジェーニャが心配そうにユヅの顔を覗き込む。

「…平気だよ。止めてくれて、ありがとう。」

ユヅの顔はまだ強張っていたが、俺の手をきゅっと握りしめたまま、ジェーニャにぎこちなく微笑んで見せた。

「いやぁ、戦闘になるかと思って、ドキドキしたな。…まぁ、負けないけど。」

ハビが明るい調子でうそぶく。

「とにかく、みんな無事でよかったよ。」

ブライアンは、先ほど皇帝に対峙した迫力はどこへやら、にこにこして、いつもの森のクマさんみたいな穏やかな雰囲気に戻っていた。

空からは、北国と思えないほど強い日差しが降り注いでいて、くらりとする。

「……ダイ?」

俺を見つめるユヅの顔がダブって見えて、俺は慌てて目を瞬いた。

慣れないシールドを操って疲れたのかな。

大丈夫だと言おうとして、俺は言葉を失った。

俺を見つめるユヅの顔が、見たことのない幼い容貌になっている。

『ゆず…?』

自分の声なのか、誰の声なのか、分からない声が聞こえた。




『…抱いてしもたら、…もう、離せんようになる……』

『……離さないでくださ……っ』

ゆず……

『俺の人生で、ほんまに欲しいと思ったんはお前一人や。』

ゆづ……

『…お前が何者でもええねん。戦争が終わったら、一緒に暮らそて、言うたやん。』

ごめんな……

「ダイっっ!!」

ぐらり、と身体が平衡感覚を失う。

明らかに俺の体験ではないのに、自分の声とそのときの感情が蘇ってきて、俺は喘いだ。

どうか……

どうか、幸せに……

血を吐くような慟哭と、祈るような想い。

「……ユ…ヅ……」

一気に押し寄せてきたそれに呑み込まれて、俺は意識を失った。


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