Voyager 前編

それは、俺たちがブライアン達と住むようになって、3度目の夏だった。

俺は、ユヅと一緒にロンドンの大学に通っていた。

一応、社会人学生として。

夏休みが始まり、今年はどこへ旅行しようか、と計画を立てていたときだった。

しばらく留守にしていたブライアンが、珍しく難しい顔をして戻ってきた。

ユヅは、ブライアンを見るなり、無口になった。

「どうかしたの?」

「…………」

こういうときのユヅには、何を言っても無駄だった。

俺が変身してからも、ユヅは以前と同じように、俺を好ましくないことからは黙って遠ざけようとする。

長年染みついた癖のようなものだ。



「……ユヅ、ダイ。話がある。」

けれど、今回はそういうわけにはいかないようだった。

唇を噛み締めたままのユヅを伴って、俺はブライアンの向かいに座った。

「ダイ、皇帝が君に会いたいと言っている。」

「皇帝?」

「千年以上生きて、事実上僕たちヴァンパイアの上に君臨しているんだ。ヴァンパイアの秩序を乱したり、その存在を世間に知らしめるような行為をすると、罰せられる。」

ユヅが表情を変えずに説明してくれた。

「へぇ……」

初めて聞く話に驚く。

「そんなヴァンパイアがいたんだ……」

ヴァンパイアは、多くて数人単位で世界じゅうを放浪しているものだと思っていた。

ユヅ達のようにファミリーを作っているヴァンパイアが他にもいたんだ。

「皇帝一家は、ファミリーというより、軍隊のようなものだよ。」

俺の考えを読んだように、ブライアンが口を挟んだ。

「強大な力を持つヴァンパイアを集めて、配下にするんだ。皇帝はその頂点にいる。…逆らうことは許されない。」

「…理不尽なことはされないよ。皇帝は秩序を重んじる。自分自身にも、相手にもね。」

ユヅが俺を安心させるように付け加えた。

「…なんで、俺を?」

ブライアンとユヅは、顔を見合わせた。

「ユヅの能力はとても珍しいからね。ユヅの積年の想い人がとうとう変身したと知って、興味を引かれたらしい。」

ブライアンが言葉を選んで説明してくれた。

ユヅは何も言わなかった。

「……ええと、断れないんだよね?」

俺は、ユヅとブライアンの表情を見ながら確認する。

2人とも、特にユヅは、この状況を歓迎していないことは明らかだったけれど。

説明された内容から推測するに、俺たちに拒否権はないようだった。

「もちろん僕も一緒に行く。」

「私も行くよ。」

ユヅはともかく、ブライアンまで同行するのは大げさなんじゃないかと思ったけど。

真剣な2人に、口を挟むことは到底できなかった。

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