Wisdom

『あれは誰だ?』

ボスは変身を解いて、ブライアンに問い正そうとしていた。

あんなに強大なヴァンパイアがいたなんて。

しかし、次の瞬間、頭に響いたソータの声に、すべて吹っ飛んだ。

『赤毛の女が来た!ダイが危ないっ!! 加勢するっ!』

俺は、一目散に駆け出していた。

ダイっ!

ユヅルは何をやっているんだ!

ダイに何かあったら、許さないからなっ!!

『ショーマ、落ち着いて。』

並走するマオが、頭に血が上った俺に声をかける。

『ソータが頑張ってるわ。』



結論から言うと、この戦闘で最も勇敢に戦い、成果を上げたのはソータで、俺はユヅルが手負いにした赤毛の女ヴァンパイアを群れの皆と一緒に倒しただけだった。

おまけに、ダイとユヅルの固い絆を、これ以上ないってほど見せつけられたし。

思い返すのも嫌になるくらい、散々な結果だった。

細々とした後処理は、ロンドンにいるボス達に任せて、俺はソータと留学生活を満喫することにした。

ダイは、あれからも変わらず人間のままで、ユヅルは俺に言ったとおり、すぐにダイを変身させる考えはないようだった。

ソータはといえば、すっかりユヅルに手懐けられて(仲良くなって)、時々2人で楽しそうに話している。

…まぁ、ユヅルがそこそこ良い奴らしいことは認めるが。

俺はまだライバルの地位を下りるつもりはない。

たとえゼロに近い可能性でも。

ダイが俺と過ごす人生を選んでくれることを望み続ける。



皇帝と呼ばれた一派のことは、ボスが後から教えてくれた。

千年以上生きているヴァンパイアらしかった。

俺たちの態勢では、まだ奴らに戦いを仕掛けることはできない。

あの圧倒的な力に対抗する術は、今のところない。


けれど、俺たちは諦めずに牙を磨く。

どうにもならないことは置いておいて、できることをする。

俺は、以前のようにヴァンパイアなら誰でも皆敵だとは考えていない。

ユヅルやダイに共感できる部分もないわけじゃない。

俺たちは生きていて、命がある限り進化していけるんだから。

賢く知恵を身に付けて、人間を襲うヴァンパイアを退治するのだ。



——Wisdom is learning what to overlook.

知恵とは、何に目をつぶるか学ぶこと。




終わり
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