Sharpens Sight

卒業後、一度だけ彼を見かけた。

正直に言うと、彼かどうか自信はないんだけど。

だって、20年以上経っていたんだもの。

卒業後、ダイとは連絡が取れなくなっていた。

いい友達関係だと思っていたので、しばらくは落ち込んだけれど。

就職して、結婚して、子どもを産んで。

日々の忙しさに、いつしか彼のことは記憶の彼方に薄れていた。



息子の高校の卒業式。

「…ダイ!」

思わず声をかけてから、後悔した。

彼のはずがない。

だって、面影どころか、記憶の中の彼と全く変わっていないんだもの。

あたしですら、大学生のときと全く同じ容姿だと言い張れる自信はない。

けれど、彼は振り向いた。

少し雰囲気が違うように見えたけれど、微笑んだ顔は、ダイそのものだった。

「…やぁ。ええと、たぶん、人違いだと思うけど…」

「そ、そうよね。ごめんなさい。」

彼はにっこりして、会釈すると立ち去った。

彼の隣には、ほっそりした東洋人の青年がいた。

あたしの方に柔らかな視線を投げて、踵を返す。


「メリル! …元気でね!」

不意に、そう叫ばれたような気がして、振り返ったけれど、誰もいなかった。

不思議ね。

あの彼がダイのはずがないと思いながら、あたしは妙に嬉しかった。

彼のはにかんだ笑顔は、いつもあたしをあの日の夜の公園に誘うのだ。


甘酸っぱい恋と苦い失恋の、青春の日に。



終わり
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