Farewell

side yz


千々に乱れる気持ちを持て余して、電話した彼が、同じ気持ちでいることに、少しだけ安心する。

涙声の彼。

俺はいつもすぐ泣いてしまうけど、大ちゃんが泣くのは珍しい。

いつも優しい微笑みで覆い隠してしまうから。

「…あいつ、ええ奴やったよね?」

「ん……」

悲しいとか悔しいという言葉だけでは表現できない痛みがここにある。

もうずいぶん前の、お互いに謝罪して、水に流したはずの出来事すら、なんであんなことをしてしまったんだろうって後悔になる。



電話の向こうで、大ちゃんが小さく嗚咽を漏らした。

「我慢しないで……」

俺も鼻をすすりながら、小さな声で言う。

大ちゃんの方が、彼と仲が良かった。

こんなときだけど、電話してよかったって思う。

しばらく言葉もなく、喪った彼を思いながらスマホを握りしめていた。

「…ゆづ、お前もう寝なあかんやろ。」

「うん…」

「…寝れそう?」

「そうだね…」

言葉にならない思いを、少しだけ吐き出して、受け止めて、楽になれた気がする。

「大ちゃんがいて、よかった…」

「俺も…。電話、ありがとな。」

「ん……」

俺は、悲しいけど、優しい気持ちでベッドに潜り込んだ。

電話する前と全然違う。



目を閉じて、彼のスケートを想う。

何があっても、嬉しいことも、悲しいことも、俺たちはスケートで返すしかない。

精一杯滑ることのできる今の幸せを感じよう。

彼にはもうできないから。

そう思うと、不思議に気持ちが落ち着いた。



やがて訪れた夢の中で、俺は彼と大ちゃんと3人で、笑いながら滑っていた。




終わり



★心よりご冥福をお祈りいたします。
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