Star Festival

side yz



「〰〰〰っ、なんだよ、これ…っ……」

テレビをつけたまま、俺は頭を抱えた。

もし、時間あったら見といてな、と言われたのが2日前。

なんだろって思ったけど。

俺もショーやら授賞式の準備とかでバタバタしていて。


たぶん、引退の時に俺に何も言わないで、俺が泣き喚いたのを気にしてくれてのことだと思うけど。

こんなのって…、こんなのって…あり?!

もうっ。

付き合いは結構長くなってるけど。

本当にいつも、びっくり箱みたいな人なのだ。



膝の上に置いたスマホを眺めて、途方にくれる。

どうしよう、連絡したいけど。

なんて言っていいのか分からないし。

今ちょっと、取り込み中かもしれないし。

でもでも、このままだと、俺の方が何も手につかない。

たっぷり10分は迷って、俺はメールを送ることにした。



送信してから、なんとなく一仕事終えた気がしていると、スマホが鳴った。

飛びつくようにしてとる。

「ごめん。びっくりした?」

電話越しの声は明るかった。

「びっくりしたなんてもんじゃないよ…!」

ごめんごめん、と声が笑う。

いつもの穏やかな、でも少し弾んだ声。

「…いま、どこ?」

周りがガヤガヤしている。

「ああ、これからテレビ出るねん。」

「そうなんだ……」

「あ、そや。明日の授賞式、がんばりや。」

「えっ、…うん。」

「テレビで見てるし。」

「うん…」

いざとなると、なんて言っていいか分からない。

「…だ、大ちゃんも、が、がんばってね…。」

ふっと笑う気配がした。

「ゆづ、短冊書いてよ。」

「え、えっ?!」

話が飛びすぎて、ついていけない。

ジェットコースターに乗ってるみたいだ。

「12月。最終グループで一緒に滑れますように、て。」

「………」

「織姫と彦星みたいには、会えへんけど。」

「…うん。」

俺は、電話の向こうの彼に聞こえるように音を立ててキスをした。

「わーお♡」

嬉しそうな声。

「元気ひゃくばーい。ありがとな。」

そう言って、唐突に電話が切れた。



俺は、スマホを握りしめて、しばらくぼんやりしていた。

正直、彼が何を思って、何がしたくて復帰するのか、よく分からないとこもあるんだけど。

彼が引退したとき、もう二度と一緒に試合で滑れないんだって、悲しくて悔しくて泣きまくって、でもどうしようもなくて蓋をした気持ちを。

彼は4年越しに開けてくれた。

真っ直ぐな明るい瞳で。


それが嬉しい。



絶対、上がってきて。

俺のいる場所に。



じゃなかったら、許さないから。



祈るような気持ちで、俺はいつまでもスマホを握りしめていた。




終わり

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