Don’t Get Me Wrong

side yz



ショーのために帰国したけど、連日スケジュールがてんこ盛りで、全く自由な時間がない。

ファンの皆さんに、直接お礼が言えるのは嬉しいし、少しずつ良くなってきた右足で滑るのも楽しい。

幸せなはずなのに、何かが足りない。


足りないものは、分かっている。

俺は、携帯を眺めて、ため息をついた。

俺が日本にいることは知っているはずなのに、全然連絡がない。

…まぁ、連絡もらっても、会う時間はないけど。



「お、ゆづー。相変わらずカッコええのぅ、この色男。」

ショーが終わって着替えていると、控え室に入ってきたノブくんが、いつもの調子で俺に声をかけた。

「何なの、いきなり。」

笑って軽口を叩く。

「ゆづはきっぱり否定してたけど、火に油注いだかもね~♪」

ノブくんは、変な節をつけてそう言うと、スマホの画面を差し出してきた。

好き勝手な憶測をまとった俺の熱愛記事が並んでいる。

「やだなー、もう……」

ノブくんが、ご愁傷様です、とふざけて手を合わせるのを見て苦笑いしながら、ふと、あの人もこの記事を見ているのかな、と思う。



……まさか、本気になんて、してないよね。

そんなことあるわけない、と慌てて打ち消したけど、気が付いたら、俺は新幹線に飛び乗っていた。

連絡をくれない大ちゃんが悪いんだ。




大ちゃんが東京で仕事をしているのは、アッコちゃんから聞いて、知っていた。

もう、なんで恋人なのに、本人以外から予定を聞かなきゃなんないんだよ。

そのことも文句を言ってやろう、と思いつくと、幾分気が楽になった。

本当は、迷惑がられたりしたらどうしようって、少し怖いんだ。



大ちゃんは、まだ帰っていないみたいだった。

しばらく近くの喫茶店で待っていたけど、閉店時間になってしまい、俺は所在なく大ちゃんが使っているウィークリーマンションを見上げた。

今日は帰ってこないのかな…。

明日もショーがあるから、早朝には戻らないといけない。

ここまで来て会えないのかと思うと、悲しくなってくる。

携帯に連絡すればいいんだけど、帰れって言われそうで、できない。




オートロックを解除して入る人に付いて、マンションの中に入り、大ちゃんの部屋の前でしゃがみ込んだ。

どうしよう、やっぱり連絡してみようかな、と思っていると、足音がこちらへ近づいてきた。

少し疲れたような足音だったけど、大ちゃんだとすぐに分かった。

もう、足音だけで分かるなんて、俺、どんだけ大ちゃんのこと好きなの。



「……結弦?」

呆けたような大ちゃんの声と、まぁるく見開かれた大きな瞳に、俺は、泣きそうになるのを我慢して、笑った。



会いたかったよ、大ちゃん。

考えるより先に、体が動いちゃうくらい。


少しでも、誤解されているかもしれないって思ったら、耐えられないんだ。

いつも俺のこと、100パーセント以上で、見ていてほしいから。



俺のこと、離さないで。


ね、大ちゃん。




終わり



☆ご本人も否定されましたし、書いてもいいかな…、と。

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