HERO
——ゆづに逢いたい。
録画しておいたオリンピックの映像を見ながら、俺はどうしようもなくジリジリしていた。
時差のため、リアルタイムで応援することはどうしてもできず(ワールドを控えた35歳の体には生活リズムの乱れは大敵なんや)、それでも今日の練習は午後からにして、カナちゃんの誘いも断って、1人で朝一番に見たんやけど。
…くそぉ、なんで俺、北京に行けへんかったんや!
受け入れたはずの事実が、今更ながら胸を焦がす。
涙を堪えて試合後のインタビューに応じるゆづを、直視できなかった。
たぶん、今頃部屋で1人で泣いてる。
試合前は、ほとんど連絡を取らなかった。
ゆづは、すべて遮断していたから。
ゆづの集中を乱すことだけはしたくなかった。
けど、今は。
——逢いたい。
そばにいることができれば、言葉なんかなくても、何かしてやれるのに。
どうしようもない現実に、俺はぎゅうぅっと目をつぶった。
……あ、あれ?
目を開けた俺は、テレビ画面にアップになったゆづが揺らいだような気がして、目を擦った。
あれれ??
テレビ画面のゆづに重なるように、別のゆづが画面から出てきて…い…る…ぇえええっっ?!?
4年前に、突然ゆづと体が入れ替わるというとんでもない事態を経験して以来、世の中には理屈で説明できない不思議なことが起きる場合もあると、分かっているつもりの俺やけど。
こ、こんなん…あり?!
「…え……だ、大ちゃ…ん??」
俺の目の前に現れたゆづも、ひどく驚いた顔をしていた。
寝る前だったのか、寝る時に着るゆったりしたジャージ姿だ。
その見開いた目が、涙に濡れて赤く腫れているのに気づいたとき。
俺は、どうにもたまらなくなって、その華奢な肩に手を伸ばしていた。
「な、なんで…っ、俺、ホテルにいたはずなのに……」
「俺も分からへん。テレビ見てたら、いきなりゆづが……」
テレビ画面は、なぜかザーザーという音と共に画像も途切れていて、俺はとりあえずミュートにした。
電源切って、ゆづも消えてしもたら嫌や。
「ゆづに逢いたいって願ったら、叶った…」
「……うそ…、俺もおんなじこと思ってた…」
可愛いことを言う唇に、思わずちゅっとキスをする。
「…ニセモノと、違うよな?」
「キスしてから聞くな!」
腕の中のゆづは、いつものゆづだった。
再び突然訪れた摩訶不思議な出来事を解明するよりも、久しぶりに触れられたことが嬉しくて、何度もキスしてしまう。
「……っん……」
目尻に滲んだ涙も、丁寧に舐め取った。
ゆづは、珍しく抵抗せずに俺の腕の中にいてくれた。
「あっ!!」
突然、ゆづが叫び声を上げて、俺は驚いて仰け反った。
「ど、どうしたんや…」
「俺、バブルから出て来ちゃった! どうしよう?!」
「…………いやぁ……」
そんな、いきなり現実的なこと言われても。
こんなこと、誰も信じひんやろ。
「しかも俺、どうやって帰んの?」
「………さぁ……」
来れたんやし、帰れるんと違うんか?
煮え切らない俺の応答に、ゆづがイラッとした目で睨む。
「何なんだよ、もう……。俺、今いっぱいいっぱいなのに……」
「わ、悪かったから……」
何か悪いことをした覚えはないが、一応謝っておく。
文句を言いながらも、俺の腕を振り払おうとはしないゆづが愛しい。
…ほら、キスしても嫌がらへんし。
さらさらした髪をそっと撫でた。
「…よう、がんばったな。」
小さな声で囁く。
大した言葉は掛けられへんけど。
俺も3度目のオリンピックが一番辛かった。
「……う…ぅ…」
ゆづが、くしゃりと顔を歪めた。
色白の頬に涙が伝い落ちる。
次から次へと溢れるそれを、俺は黙って指と唇で拭った。
「…くや…し……っ」
「うん。」
「…っく、勝ち、たか……っ」
「うん。」
「…っ、カッコ悪いの…、ぜったい、ヤだっ…たの、に…っ」
「そんなことないて。」
ひくひくとしゃくり上げる背中を抱きしめて、ポンポンと叩いた。
この薄い背中に、どれだけのものを背負ってきたんやろう。
「…うぅっ…、だ、だいたい…っ、大ちゃんが一緒に行こうって、言ったくせに…っ、いないから…っっ」
「………おいおい……」
俺もしばらく眠れへんくらい悔しかったんですけど。
「……っ、ごめ……」
さすがに言い過ぎたと思ったのか、横を向いて小さな声で謝る姿も可愛かった。
俺、どんなにゆづに怒られても、なんでか腹は立たんのよね。
「ええよ。めっちゃがんばったんやし、もう言いたいこと全部、俺に吐き出してみ。」
八つ当たりくらい、受けて立とう。
そう言って抱き締めると、ゆづは、うわぁんと声を上げて泣き出した。
「大ちゃんのばかぁ!」
「はいはい。」
「…氷、穴あるし…っ」
「ほんまやな。」
「…足、痛いし…っ」
「うんうん。」
「な…で、あんなに…っ、練習、したのにっ、…ぐすっ…跳べない…だ…っっ…」
「…そら、アクセルが悪いんや。」
「ふざけ……なっっ!」
「ごめん、ごめん。」
そうは言っても、根がピュアな性格なので、俺への理不尽な罵詈雑言は長くは続かず、ぐすぐすと鼻を啜るだけになったゆづを抱き締めて、俺は何とも言えない気持ちになった。
勝負は残酷だ。
時の運にも左右される。
なぜ、現役復帰するのかと、何度も聞かれた。
なぜ、ショーでは満足できないのかと。
努力に見合う結果を得られるかどうか、誰にも分からないのに。
「……大ちゃんも、こんな気持ちだった?…ソチの時。」
俺の肩に鼻先を埋めたまま、ゆづが掠れた声で呟いた。
俺の中に、苦い思い出が蘇る。
ゆづの史上初の金メダルに歓喜したオリンピック。
真央の魂のフリーは、今も記憶に残る。
けど俺は、演技も結果も中途半端で、ただ苦しんだだけだった。
「おんなじかどうかは、分からへんけど…。日本男子の最下位って、けっこうきたなぁ。それまでトップを争ってたつもりやったし。」
「…うぅう…っ」
再びゆづの背中が震えて、俺は慌てた。
し、しまった、地雷やった…!
「や、や、でも…、ゆづが金獲って、あぁ、日本男子も遂にここまで来たかって思ったら、悔しいんは悔しいんやけど、なんか嬉しくもあってさ。」
「〰︎〰︎っ、俺は悔しいっっ!」
「はは…、そうやな。」
宥めるように前髪をかき上げ、額にキスをする。
そのまま赤くなった鼻先に唇を滑らせて、噛み締められたままの唇を吸った。
涙で少ししょっぱいゆづの唇。
「……ん…っ…」
キスを繰り返すうち、ようやく綻んできた唇に舌先を絡める。
「……っふ…ぁ…」
声も唇も、甘くなるまでキスを続けた。
俺たちは、抱きしめ合ったまま、ベッドに転がっていた。
ゆづは、少し落ち着いたようだった。
目を閉じて、うとうとしているようにも見える。
「……俺と大ちゃん、別れるはずだよね…、あのとき。」
「……へ?」
突然、脈絡もなくぽつんと呟かれて、頭がはてなマークでいっぱいになる。
「こんなに見えてる景色が違うんだもん。」
ゆづは、俺の返事を期待していないようだった。
「勝つのと、負けるのと。…先が見えるのと、見えないのと。」
「…………」
ゆづは、どうやらソチの後の俺たちのことを言っているらしい。
俺へのゆづの気持ちを、若気の至りと安易に考えていた当時の俺をしばいてやりたい。
「…ソチのときは、正直、苦し過ぎて、いろんなことに向き合うの、無意識に避けてたんや。」
「……うん。」
まさか、8年も経ってから、ゆづとこんなふうに(まったく同じというわけではないにせよ)、あのときの自分の気持ちを分かち合う日が来るとは。
「でも…うまく言えへんけど……、あの負けがあったから、今の俺があるっていうか……」
「…………」
「現役復帰して…、アイスダンスに転向して…、はは、今はワールド本気で狙ってるし。こんな人生になるとは思わへんかった。」
「自分が選んだんじゃん。」
ゆづは、少し微笑んでいるようだった。
「…まぁ、そうやけど。」
「後悔してんの?」
「……今はしてない。この先は、分からへん。」
今までは、後悔だらけやったけどな。
そう言うと、ゆづは俺の腕の中で目を閉じたまま、うふふと笑った。
ゆづ、ようやく笑ったな。
俺は、少しほっとして、ゆづの頬に自分の頬を擦り寄せた。
俺の腕の中で眠るゆづを見つめる。
目が覚めたら、また現実が始まる。
すべてを飲み込んで、笑って後輩を祝福するんだろう。
メディアもゆづの言葉を待っているし、足の治療もあるだろう。
俺がしてやれることは、ほとんど何もなかった。
…ありがとな。
俺のところに来てくれて。
俺の部屋に突然現れた時と同じく、映像がぶれるように揺らぎ、少しずつ薄くなっていくゆづの姿を見送る。
腕の中のゆづの姿が完全に消えると同時に、テレビ画面が元に戻り、インタビューを受けるゆづが映った。
俺は、ミュートを解除した。
今度は、一言一句聞き漏らさないように、表情の一つ一つを見逃さないように、心に刻みつける。
『一生懸命、がんばりました。』
前を向いて、そう言い切ったゆづを。
終わり
❄︎冒頭の歌詞は、マライア・キャリーの「Hero」からお借りしました。和訳もがんばりました(^◇^;)。
録画しておいたオリンピックの映像を見ながら、俺はどうしようもなくジリジリしていた。
時差のため、リアルタイムで応援することはどうしてもできず(ワールドを控えた35歳の体には生活リズムの乱れは大敵なんや)、それでも今日の練習は午後からにして、カナちゃんの誘いも断って、1人で朝一番に見たんやけど。
…くそぉ、なんで俺、北京に行けへんかったんや!
受け入れたはずの事実が、今更ながら胸を焦がす。
涙を堪えて試合後のインタビューに応じるゆづを、直視できなかった。
たぶん、今頃部屋で1人で泣いてる。
試合前は、ほとんど連絡を取らなかった。
ゆづは、すべて遮断していたから。
ゆづの集中を乱すことだけはしたくなかった。
けど、今は。
——逢いたい。
そばにいることができれば、言葉なんかなくても、何かしてやれるのに。
どうしようもない現実に、俺はぎゅうぅっと目をつぶった。
……あ、あれ?
目を開けた俺は、テレビ画面にアップになったゆづが揺らいだような気がして、目を擦った。
あれれ??
テレビ画面のゆづに重なるように、別のゆづが画面から出てきて…い…る…ぇえええっっ?!?
4年前に、突然ゆづと体が入れ替わるというとんでもない事態を経験して以来、世の中には理屈で説明できない不思議なことが起きる場合もあると、分かっているつもりの俺やけど。
こ、こんなん…あり?!
「…え……だ、大ちゃ…ん??」
俺の目の前に現れたゆづも、ひどく驚いた顔をしていた。
寝る前だったのか、寝る時に着るゆったりしたジャージ姿だ。
その見開いた目が、涙に濡れて赤く腫れているのに気づいたとき。
俺は、どうにもたまらなくなって、その華奢な肩に手を伸ばしていた。
「な、なんで…っ、俺、ホテルにいたはずなのに……」
「俺も分からへん。テレビ見てたら、いきなりゆづが……」
テレビ画面は、なぜかザーザーという音と共に画像も途切れていて、俺はとりあえずミュートにした。
電源切って、ゆづも消えてしもたら嫌や。
「ゆづに逢いたいって願ったら、叶った…」
「……うそ…、俺もおんなじこと思ってた…」
可愛いことを言う唇に、思わずちゅっとキスをする。
「…ニセモノと、違うよな?」
「キスしてから聞くな!」
腕の中のゆづは、いつものゆづだった。
再び突然訪れた摩訶不思議な出来事を解明するよりも、久しぶりに触れられたことが嬉しくて、何度もキスしてしまう。
「……っん……」
目尻に滲んだ涙も、丁寧に舐め取った。
ゆづは、珍しく抵抗せずに俺の腕の中にいてくれた。
「あっ!!」
突然、ゆづが叫び声を上げて、俺は驚いて仰け反った。
「ど、どうしたんや…」
「俺、バブルから出て来ちゃった! どうしよう?!」
「…………いやぁ……」
そんな、いきなり現実的なこと言われても。
こんなこと、誰も信じひんやろ。
「しかも俺、どうやって帰んの?」
「………さぁ……」
来れたんやし、帰れるんと違うんか?
煮え切らない俺の応答に、ゆづがイラッとした目で睨む。
「何なんだよ、もう……。俺、今いっぱいいっぱいなのに……」
「わ、悪かったから……」
何か悪いことをした覚えはないが、一応謝っておく。
文句を言いながらも、俺の腕を振り払おうとはしないゆづが愛しい。
…ほら、キスしても嫌がらへんし。
さらさらした髪をそっと撫でた。
「…よう、がんばったな。」
小さな声で囁く。
大した言葉は掛けられへんけど。
俺も3度目のオリンピックが一番辛かった。
「……う…ぅ…」
ゆづが、くしゃりと顔を歪めた。
色白の頬に涙が伝い落ちる。
次から次へと溢れるそれを、俺は黙って指と唇で拭った。
「…くや…し……っ」
「うん。」
「…っく、勝ち、たか……っ」
「うん。」
「…っ、カッコ悪いの…、ぜったい、ヤだっ…たの、に…っ」
「そんなことないて。」
ひくひくとしゃくり上げる背中を抱きしめて、ポンポンと叩いた。
この薄い背中に、どれだけのものを背負ってきたんやろう。
「…うぅっ…、だ、だいたい…っ、大ちゃんが一緒に行こうって、言ったくせに…っ、いないから…っっ」
「………おいおい……」
俺もしばらく眠れへんくらい悔しかったんですけど。
「……っ、ごめ……」
さすがに言い過ぎたと思ったのか、横を向いて小さな声で謝る姿も可愛かった。
俺、どんなにゆづに怒られても、なんでか腹は立たんのよね。
「ええよ。めっちゃがんばったんやし、もう言いたいこと全部、俺に吐き出してみ。」
八つ当たりくらい、受けて立とう。
そう言って抱き締めると、ゆづは、うわぁんと声を上げて泣き出した。
「大ちゃんのばかぁ!」
「はいはい。」
「…氷、穴あるし…っ」
「ほんまやな。」
「…足、痛いし…っ」
「うんうん。」
「な…で、あんなに…っ、練習、したのにっ、…ぐすっ…跳べない…だ…っっ…」
「…そら、アクセルが悪いんや。」
「ふざけ……なっっ!」
「ごめん、ごめん。」
そうは言っても、根がピュアな性格なので、俺への理不尽な罵詈雑言は長くは続かず、ぐすぐすと鼻を啜るだけになったゆづを抱き締めて、俺は何とも言えない気持ちになった。
勝負は残酷だ。
時の運にも左右される。
なぜ、現役復帰するのかと、何度も聞かれた。
なぜ、ショーでは満足できないのかと。
努力に見合う結果を得られるかどうか、誰にも分からないのに。
「……大ちゃんも、こんな気持ちだった?…ソチの時。」
俺の肩に鼻先を埋めたまま、ゆづが掠れた声で呟いた。
俺の中に、苦い思い出が蘇る。
ゆづの史上初の金メダルに歓喜したオリンピック。
真央の魂のフリーは、今も記憶に残る。
けど俺は、演技も結果も中途半端で、ただ苦しんだだけだった。
「おんなじかどうかは、分からへんけど…。日本男子の最下位って、けっこうきたなぁ。それまでトップを争ってたつもりやったし。」
「…うぅう…っ」
再びゆづの背中が震えて、俺は慌てた。
し、しまった、地雷やった…!
「や、や、でも…、ゆづが金獲って、あぁ、日本男子も遂にここまで来たかって思ったら、悔しいんは悔しいんやけど、なんか嬉しくもあってさ。」
「〰︎〰︎っ、俺は悔しいっっ!」
「はは…、そうやな。」
宥めるように前髪をかき上げ、額にキスをする。
そのまま赤くなった鼻先に唇を滑らせて、噛み締められたままの唇を吸った。
涙で少ししょっぱいゆづの唇。
「……ん…っ…」
キスを繰り返すうち、ようやく綻んできた唇に舌先を絡める。
「……っふ…ぁ…」
声も唇も、甘くなるまでキスを続けた。
俺たちは、抱きしめ合ったまま、ベッドに転がっていた。
ゆづは、少し落ち着いたようだった。
目を閉じて、うとうとしているようにも見える。
「……俺と大ちゃん、別れるはずだよね…、あのとき。」
「……へ?」
突然、脈絡もなくぽつんと呟かれて、頭がはてなマークでいっぱいになる。
「こんなに見えてる景色が違うんだもん。」
ゆづは、俺の返事を期待していないようだった。
「勝つのと、負けるのと。…先が見えるのと、見えないのと。」
「…………」
ゆづは、どうやらソチの後の俺たちのことを言っているらしい。
俺へのゆづの気持ちを、若気の至りと安易に考えていた当時の俺をしばいてやりたい。
「…ソチのときは、正直、苦し過ぎて、いろんなことに向き合うの、無意識に避けてたんや。」
「……うん。」
まさか、8年も経ってから、ゆづとこんなふうに(まったく同じというわけではないにせよ)、あのときの自分の気持ちを分かち合う日が来るとは。
「でも…うまく言えへんけど……、あの負けがあったから、今の俺があるっていうか……」
「…………」
「現役復帰して…、アイスダンスに転向して…、はは、今はワールド本気で狙ってるし。こんな人生になるとは思わへんかった。」
「自分が選んだんじゃん。」
ゆづは、少し微笑んでいるようだった。
「…まぁ、そうやけど。」
「後悔してんの?」
「……今はしてない。この先は、分からへん。」
今までは、後悔だらけやったけどな。
そう言うと、ゆづは俺の腕の中で目を閉じたまま、うふふと笑った。
ゆづ、ようやく笑ったな。
俺は、少しほっとして、ゆづの頬に自分の頬を擦り寄せた。
俺の腕の中で眠るゆづを見つめる。
目が覚めたら、また現実が始まる。
すべてを飲み込んで、笑って後輩を祝福するんだろう。
メディアもゆづの言葉を待っているし、足の治療もあるだろう。
俺がしてやれることは、ほとんど何もなかった。
…ありがとな。
俺のところに来てくれて。
俺の部屋に突然現れた時と同じく、映像がぶれるように揺らぎ、少しずつ薄くなっていくゆづの姿を見送る。
腕の中のゆづの姿が完全に消えると同時に、テレビ画面が元に戻り、インタビューを受けるゆづが映った。
俺は、ミュートを解除した。
今度は、一言一句聞き漏らさないように、表情の一つ一つを見逃さないように、心に刻みつける。
『一生懸命、がんばりました。』
前を向いて、そう言い切ったゆづを。
終わり
❄︎冒頭の歌詞は、マライア・キャリーの「Hero」からお借りしました。和訳もがんばりました(^◇^;)。
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