一心

Shoma



ずっとずっと憧れていた。

彼に勝ちたいなんて、思ったことすらなかった。

彼が僕の前にいるのは当然で、僕はそれに疑問を持たなかった。

僕と彼との間に誰もいなくて、彼の背中を見続けていられるのが幸せですらあった。

彼が時折振り向いて僕に微笑みかける。

——おいで。

差し出された手を無心に握る。

——一緒に行こう。

そう言われることが、ひたすら嬉しかった。



いつからだろう。

彼の後ろを追いかけるだけの自分に満足できなくなったのは。

彼が不在の大会で優勝しても喜べなくなったのは。

——勝ちたい。

胸の中のもやもやしたわだかまりが、はっきりと形になったとき、僕は足が震えた。

彼に可愛がられているだけじゃ嫌だ。

彼の脅威になりたい。

彼の隣に並び立ち、抜き去ることを想像した。

驚いたように見開かれた彼の瞳が、強い光を宿して僕を射抜くその瞬間。

それこそが僕の望みだと思い知った。


秘めた想いをカメラの前で口にしたとき。

彼の視線がじっと僕に注がれているのを感じた。

初めての快感だった。

興奮して、可笑しくて、笑えてきた。

自分が一つ階段を登った気がした。

思い返せば、そこから僕はもう自分を失っていたんだろう。

理想とは程遠い自分の演技と得点に、彼が驚きと不満を口にしてくれたことすら、惨めだった。




銀メダルを首に下げ、日本国旗を肩にかけた彼が、お茶目な仕草で僕の名を呼ぶ。

——おいで。

差し出された手を、僕はもう無邪気に取りはしない。

もう一度。

今度こそ、僕は自分で証明してみせる。

彼と対等に競い合える自分自身を。

憧れ続けた彼のために。

挑み続ける自分のために。

僕はすべてを賭けるんだ。

ただ一つ、その決意だけを胸に刻んで。

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