一心

Nathan



ずっとずっと憧れていた。

思わず見惚れてしまう華麗なスケーティング。

たおやかな容姿にそぐわない闘争心。

同じアジア人なのに、なぜこんなに違う?

彼が澄み切った瞳で見つめるその先は、はるかに遠く、どこまでも高く。

彼としのぎを削ったパトリックもハビエルも今はいない。

彼の視界には誰もいない。

彼自身のほかには。

せめて同じ景色を見たいと思った。

初めて彼に勝ったとき、彼がようやく自分を見てくれた気がした。

尊敬する、と闘争心を燃やした瞳で言われてぞくぞくした。

彼に勝ちたい。

もう一度見てもらいたい。

ライバルとしてでいいから。

彼の記憶に残る選手になりたい。

17歳の俺は固く自分に誓った。



最大の対決になった平昌五輪は、惨憺たる結果だった。

彼との勝負に挑む前に、自分に負けていた。

優勝争いには絡めなかった。

悔しかった。

何より自分自身に負けたことが。

彼の視界に入らなかったことが。

すべてを成し遂げた彼の視線は、またたった一人先を見つめていた。

そこに自分が映っていないことがどうしようもなく悔しくて。

二度と彼の前でこんな無様な姿は見せない。

18歳の俺は固く自分に誓った。



「Congraturation.」

彼より一段高い所に立った俺に、彼が微笑みながら囁く。

柔和な表情と裏腹に、ぎらぎらと煌る瞳。

漆黒のその奥に、俺の姿が映っている。

俺だけの姿が。

勝利より記録より、そのことがただ嬉しかった。

——貴方は俺のものだ。

そう叫びたくなるほどに。

憧れよりもっと強く生々しい想い。

どうやったら、貴方を手に入れられますか。

19歳の俺は、思わず口をついて出そうなその言葉を呑み込んで唇を噛んだ。

ただ一つ分かっていること。

俺は彼に挑み、勝ち続ける。

それだけが、彼を俺に縛り付ける唯一の方法だから。

俺のたった一つの望み。

永遠に、彼の心を捕らえていたい。


この冷たく凍えた氷の上で。




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