The Origin Of Love

@Snow Drop



「大輔さん、お帰りなさい。」

「ただいま、ゆづ。」

一緒に暮らし始めたばかりで、こんな当たり前の挨拶すら、まだ慣れなくてどきどきする。

部屋に入ってきた大輔さんは、珍しくEMSを手に持っていた。

「誰から?」

「芹沢さんからや。」

芹沢さんは、つい最近までウィーンで大輔さん達とコンサートをしていたけど、今はニューヨークに戻っている。

包みを破いて、大輔さんは、おっ、と言った。

「出たんや。出たら送るって言うてくれてたけど。」

中身はCDらしかった。

「ゆづも聴く? たぶんびっくりするで。」

嬉しそうな大輔さんにつられて、僕もオーディオの前に座った。

「芹沢……結莉?」

CDのパッケージの名前に驚く。

芹沢さんの血縁??

やがて流れてきた音楽には、もっと驚いた。

なんて多彩でドラマチックな旋律なんだろう。

自由自在に奏でられるヴァイオリンには、聞き覚えがあった。

「これ……あのときの?」

大輔さんが、僕のためだけのコンサートを開いて、一緒に暮らそうと言ってくれた日。

大輔さんのピアノに乗せて、ヴァイオリンを奏でてくれた天使のような子。

「すごいやろ? これ、全部あの子が作ったんやで。…ほんまもんの天才って、ああいうのを言うんや。」

「……ほんとだね。」

僕たちは、しばらく黙ってその奇跡のような音楽に聴き入った。

「ゆづは、どの曲が好き?」

僕は、うーん…と考えた。

「どれも好きだけど……。踊るなら、このマジック・ストラディバリウスとアート・オン・アイスかなぁ……」

「わぁ、俺と一緒や! 俺もゆづが踊るとこ、見てみたい!」

大輔さんは、目をキラキラさせて、嬉しそうに言った。

「もう…、そんな簡単に言っちゃって……」

呆れながら、僕は立ち上がった。

「あ、雪……」

窓の外には季節外れの雪が降っていた。

「もう春も過ぎてるのに……」

「ほんまや。」

大輔さんが僕のそばにやって来る。

「なごり雪やな。」

「えー? なごり雪って、春になっても残ってる冬に降った雪のことでしょ?」

「ええっ、そうなん? いや、春に降る雪やろ?」

「うそ、違うって……んむっ…」

言い募る僕の唇を、大輔さんがちゅっと吸った。

「どっちでもええやん。」

「……もう………」

ぎゅっと抱きしめられて、僕は口を噤んだ。

大輔さんには、敵わない。
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