何度でも

何度でも


俺は、ベッドの中でもう何度目かの寝返りを打った。

…予感はあったものの、やっぱり眠れない。

あえて、時計は見なかった。

大ちゃんの現役復帰試合。

たぶん、もう始まっているような気もしたけど、ネット検索し出したら、徹夜必至なので、意地でも眠ろうと目を閉じた。

だって、規則正しい生活大事にしろって、こないだ大ちゃんに説教したばかりだし。

どうせ、海外からはライブで見ることはできないし。

大ちゃんのことを考えたら、ドキドキするやら心配になるやらで、ますます目が冴えてきたので、大きく深呼吸して、意識して頭からあのくそ男前な顔を追い払った。

…絶対寝てやるっ!



寝つきが悪かったわりに、早めに目が覚めて、諦めて起きた。

枕元のスマホをチェックしたけど、新着メッセージはない。

…なんだよ。

もう試合もインタも終わってるでしょ?!

ちょっとむっとする。

日本時間は夜だから、連絡したら起きてるかもしれない。

けど、俺から連絡するのもなんだかシャクだし。

明日はフリーだから、邪魔したくもない。

俺は、悶々としながら、とりあえずスマホをタップした。

あ。

刑事が大ちゃんのスコアを写メで送ってくれていた。

俺は、食い入るように見入った。

順位はまぁいいとして。

よかった、アクセル降りてる。

…なんだ、このスピン。

レベル1って、何したんだろ?



我慢しきれなくなって、メールした。

『何あのスピン?』

わりとすぐに既読がついた。

『ノーカンのお前に言われたないわっ』

むか。

『すぐ連絡しろ、ばか。』

『……心配した?』

むかむか。

『しないけどっ。結果は気になる。』

『可愛いやつ♡』

むかーっっ!!


思わず衝動的に電話をかけてしまった。

「ゆづーぅ、めっちゃ緊張したぁああっ」

文句の一つも言ってやろうと思ってたのに、スマホからいつもより情けなさ倍増しの声が聞こえてきて、毒気を抜かれてしまう。

「……まぁ、一位なんだし。」

「どーしよ、あかんわ。明日は、もっとあかんって、自信あるわ……」

「…そんなとこ、自信持つなっ(怒)」

なんなんだよ、もうっ。

ほんと、調子狂う。

「……とりあえず、お疲れ。」

「うん…、ありがとな。」

あんまり長電話してもいけないと思って、練習行くから、と言って電話を切った。


後でネットに上がってる動画を見たら、地方ブロックの大会とは思えないほどの盛り上がりで、正直びびった。

あれは、そりゃ緊張するな……

少しだけ大ちゃんが気の毒になった。

けど。

なに、あの女性ファンの多さ。

現役ならまだしも(あ、今は現役なのか…)。

俺は、全日本を平常心で滑れるか、少し心配になった。

いや、その前に西日本かぁ…

まだ自分の試合の方が、精神的にマシだ。

ほんと、勘弁してほしい。

そんなことを思う自分に、またむかついて、その日の練習はめちゃくちゃ集中して頑張った。

今晩のフリーは、絶対に熟睡してやるっ。



大ちゃん。

お願いだから、これ以上俺をかき乱さないで。

今でももう十分すぎるくらい、大ちゃんに何もかも持っていかれているんだから。



終わり










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