決戦は金曜日

part1. side yz



練習を終えた俺は、震え始めたスマホに表示された名前を見て、慌てて画面をタップした。

「大ちゃん?!」

「お、出た。」

「なんだよそれっ……てか、なんで起きてんの? そっち深夜でしょ?」

「ん…、まぁな……」

ふぁ、と欠伸をする気配がする。

「何やってんだよ、もうっ。そっちも大会前なのに…。規則正しい生活は競技の基本じゃん。あっ、てか、足どうなんだよ?」

「ん? あぁ、うん……。まぁ、大丈夫や。」

「ほんとに? もう若くないんだから、無茶したら絶対にダメだからね?……あぁ、もうっ、もう1回くらい入れ替わって、コンディション確かめときたいくらいだよ…!」

思わずくどくどお説教モードに入ってしまった。

「……なんだよっ」

電話口で、大ちゃんがくすっと笑う気配がして、気色ばむ。

「いやぁ、俺、愛されてるなぁ……」

「はぁっ?!」

もうっ、人がどんだけ心配したと思ってるんだよっ(怒)

相変わらず呑気な恋人に、苛々していたとき。

「ゆづは、調子どうなん? …今週やろ?」

大ちゃんが少し真面目な声を出した。

「…いいよ。…でもなんか、いつもと違うっていうか……」

「うん……」

「わくわくしてる感じ……」

ははっと大ちゃんが笑った。

「ええやん、それ。俺もおんなじやし。」

「ええーっ」

「なに、その反応…」

「いや、大ちゃんと同じかと思ったら、にわかに不安になってきた……」

「おいおい……」

情けなく眉を八の字にした大ちゃんの顔が思い浮かんで、俺はおかしくなってしまった。

同時に、大ちゃんが夜更かししてまで電話をかけてきた理由に気づく。

「…大丈夫だよ。ちゃんと、できる。」

「そっか。」

「自分のために、滑るよ。」

「おう。」

大ちゃんは優しい声で、ほな寝るわ、と言って電話を切った。

久しぶりに声が聞けて嬉しい。

そう言いたかったけど、言えなかった。

俺は、切れたばかりのスマホに、そっとキスをする。

待受画面は、繋ぎ合わせた赤いハート型の石だ。

俺のお守り。



『電話ありがと。』

家に帰ってから、散々考えて、大ちゃんにメールした。

考えたわりに大した言葉じゃないけど。

あと少ししたら、大ちゃんが起きる時間だ。

目覚めた大ちゃんが、俺のメールを読むところを想像しながら、俺はベッドに潜り込んだ。

試合が終わったら、今度は俺から電話しよう。

お休み、大ちゃん。




終わり

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