After Parade

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「大ちゃん?」

携帯ごしに耳元で聞こえる柔らかな低めの声を愛しいと思う。

「テレビ、見てたで。ぎょうさんの人にお祝いしてもろて、よかったな。」

うん、と声が嬉しそうに弾む。

天気もよかったしな、と言ってから、さっきも同じことを言ったと気づいた。久しぶりの電話は、お互い言葉を探して、どこかぎこちない。

「しばらく仙台におるん?」

「ん…。でも早めにトロントに戻ろうと思ってる。早く練習したいし。」

「そうか…。」

「大ちゃん、今どこ?」

「岡山に帰ってきたとこ。」

「そっか…。」

トロントと日本ほどではないけど、いつもすぐに会える距離ではない俺たち。

お互い現役のときの方がまだ会えていた。

「逢いたいな…。」

でも無理だよね、と物分かりのいい声が聞こえたとき、俺は言ってしまっていた。

「逢おうや。俺、仙台に行ってもええし。」

「え…」

口に出して、そうだと思う。海を隔てているわけじゃない。今、あいつと俺の距離はとても近いはずだ。

「でも…、悪いよ、俺…。」

聡いあいつは、距離とか時間とか費用のことを考えてしまうんだろう。

「ええねん。逢いたいんは、俺やから。」

俺だってすごく逢いたいよ、としばらくしてから答えたあいつの声は、甘くて、少し震えていた。

俺は、電話を切ると、急いで交通手段を検索する。

どんなに遠くても、逢いに行く。
海を越えても、必ず。

どこまでも高みを目指すあいつの競争相手には、もうなれなくても。

あいつの心のいちばん近い距離にいたいから。



もしあいつの背に羽が生えたら、いちばんに飛んできてほしいから。

俺は、急ぎ足で空港に向かいながら、あいつの笑顔を思い浮かべていた。


おわり


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