[平常?]イナホ×まじ快[異常?]
怪盗KIDの予告時間が差し迫る中、会場にいるコナン・次郎吉・中森警部はKIDに対し警戒していた。しかし、他のことに対しては警戒する余裕もなかった。妖怪・ジミーの力を借りてもぐりこんだ、ボブカットで丸眼鏡・加えて個性極まれりの小学生に気付いていないのだから。
「いや~。妖怪の力って凄いですなぁ。”アリの一匹も通さん!”って雰囲気なのに、気づかれないなんて。」
「興奮するのは分かるダニが……落ち着くダニ。幾ら妖怪の力を借りてるとはいえ、あんまり大声で騒いだりするとバレるダニ。」
「OK!」
という威勢のいい返事は来たが、まだ興奮冷めやらぬ様である。USAピョンは呆れた様子で首を振り、ジミーも言葉は発しないものの、諦めているのが伝わっていた。
5・4・3・2・1。
0のタイミングで全身に白を纏った存在・怪盗KIDが現れた。かなり遠回しな気障な台詞に、慣れている中森警部・次郎吉・コナンは何もリアクションはしない。
「いや~凄い化けますなぁ。このセリフ、ワルイデス様と同レベルじゃないですか!いやぁ、生で聞けて感激であります!」
しかし、イナホはめちゃくちゃ興奮していた。ワルイデス様とは、イナホがハマっているアニメ・宇宙美少女セラピアーズに出てくる敵役で、敵役ながらに美形でかなりのファンがいるキャラクターである。閑話休題。USAピョンは興奮しているイナホを見て、警戒していた。興奮し暴走したイナホは何をしでかすか分からない。結果的に状況打破・問題解決に繋がることは多かれど、大惨事を招く可能性だってあるのだ。幸いというべきか、その場を離れる様子はない。大抵イナホが暴走すると、いつの間にか遠くに行っているのだから。USAピョンは胸をそっと撫で下ろした。
そうしていると照明が急に落ちた。コナンたちは慣れたものでこの後の展開に警戒していたが、イナホは慌てて電気を作り出す妖怪・はつでんしんに声を掛けた。そう、声を掛けてしまったのである。明かりが急速に復旧する。それにはコナン・KID双方ともに驚きを隠せなかった。コナンは急速な電気の回復に唖然とし、KIDは計算外の点灯に驚きを隠せず狙いのエメラルドを隠しきれていない。
(げっ……まだ狙いの宝石隠しきれてねぇのに!にしても電気の戻り、早すぎねぇか?)
「今宵は強い味方を付けておられるようですね、中森警部。」
けれどそこは怪盗KID。すぐに冷静さを取り戻し、中森警部に話しかけた。
「味方だぁ?俺はこいつらを渋々入れてるだけだ。他の奴の存在は知らねぇぞ?」
「では、任意の方でしょうか。ともかく今夜は分が悪い。私はこの辺で退散させて頂きます。また今度、月下の元でお会いしましょう。」
中森警部と話が合わないことを疑問に思いながらも、KIDは煙幕と共に姿を消した。一時ポカンとしていた一行だったが、気を取り直しKIDの行方を捜索し始めた。イナホはその混乱に乗じて、USAピョンの妖怪パッドをすり取り喚んだ妖怪全員に号令を出した。そう、号令を出したのだ。
(ふぅ、まっさかあのタイミングで電気が付くなんてなぁ。計画が狂ちまったぜ。まぁ、名探偵もここまでは追いかけてこねぇだろ。問題は"魔導鏡の使い手"って奴だけれど、一向に姿を見せる気配ねぇし……。)
怪盗KIDは通風孔内でそんなことを考えていた。このまま進めば外に繋がる。普通通風孔にいるなんて考えもしないはずだ。だから今回も脱出できる。そう考えていたのに、いざ出口を開けようとすると開かない。念入りに下準備をしたはずなのに、まるで”通さない"と言わんばかりに固く閉まっていた。KIDは焦った。幾ら通風孔にいるとは警部たちが考えないにしても、長時間通風孔内にいるわけにはいかない。どうにか折り返して入った通風孔から出ようとして、KIDは思わず声を上げそうになった。普段混むはずのない男子トイレ。その個室がすべて埋まり、トイレの外にまで人の列ができていた。階が違えばマシかと思い、別のトイレの上に向かったものの状況は全く変わらなかった。そもそも今は深夜。トイレに並ぶほどの人がいるはずがない。KIDはトイレから脱出するのを諦め、人が少なそうな場所を狙うために通風孔内を動き始めた。
数分動いたとき、KIDは信じられない光景を見て動きを止めた。KIDを執念深く追い続ける中森警部が、何もないところに向かってKIDと叫び何かを捕まえるように走っていた。中森警部だけではない、警備に参加していた警察官やあの名探偵までもが同じような事をしていたのだ。流石にその様子にはKIDこと快斗も背筋に悪寒を感じた。全員が同じ幻覚を見ているなど、"何かに憑かれている"としか考えられないのだから。
不意に快斗の中で、昼間の紅子の言葉が再生される。
『月明かりの失せる時、魔導鏡の使い手南より現る。
人ならざるモノ数多 率 て、白き罪人に終わりを告げん。』
電気が急についたのも、通風孔から出られなかったのも、トイレがやけに混んでいたのも、名探偵たちが幻覚を見ているのも、全部その魔導鏡の使い手のせいだと考えれば説明はつく。あまりの素っ頓狂さに名探偵とかには異常者扱いされるかもしれないが、現に今起こっていることを説明するにはそう考えるのが妥当だ。
何とか出られそうなところから出たKIDこと快斗は、衣装を着替え一般人の格好で裏口から現場を去った。満月がしっかりと出ている。紅子の伝言では"月明りの失せるとき"とあったが消えるどころかしっかりと残っている。邪神ルシファーとやらも間違うこともあるんだななんて思いつつ、快斗は盗った宝石が目当てのものであるか確認しようと、胸元に手を入れた。が、宝石らしい冷たい感触はなかった。着替えたからではないし、通風孔内を動き回ったからではない。確実に盗んだはずの宝石が、跡形もなく消えていたのだ。
「……え?」
思わず快斗は、間抜けた声を上げた。
「いや~。妖怪の力って凄いですなぁ。”アリの一匹も通さん!”って雰囲気なのに、気づかれないなんて。」
「興奮するのは分かるダニが……落ち着くダニ。幾ら妖怪の力を借りてるとはいえ、あんまり大声で騒いだりするとバレるダニ。」
「OK!」
という威勢のいい返事は来たが、まだ興奮冷めやらぬ様である。USAピョンは呆れた様子で首を振り、ジミーも言葉は発しないものの、諦めているのが伝わっていた。
5・4・3・2・1。
0のタイミングで全身に白を纏った存在・怪盗KIDが現れた。かなり遠回しな気障な台詞に、慣れている中森警部・次郎吉・コナンは何もリアクションはしない。
「いや~凄い化けますなぁ。このセリフ、ワルイデス様と同レベルじゃないですか!いやぁ、生で聞けて感激であります!」
しかし、イナホはめちゃくちゃ興奮していた。ワルイデス様とは、イナホがハマっているアニメ・宇宙美少女セラピアーズに出てくる敵役で、敵役ながらに美形でかなりのファンがいるキャラクターである。閑話休題。USAピョンは興奮しているイナホを見て、警戒していた。興奮し暴走したイナホは何をしでかすか分からない。結果的に状況打破・問題解決に繋がることは多かれど、大惨事を招く可能性だってあるのだ。幸いというべきか、その場を離れる様子はない。大抵イナホが暴走すると、いつの間にか遠くに行っているのだから。USAピョンは胸をそっと撫で下ろした。
そうしていると照明が急に落ちた。コナンたちは慣れたものでこの後の展開に警戒していたが、イナホは慌てて電気を作り出す妖怪・はつでんしんに声を掛けた。そう、声を掛けてしまったのである。明かりが急速に復旧する。それにはコナン・KID双方ともに驚きを隠せなかった。コナンは急速な電気の回復に唖然とし、KIDは計算外の点灯に驚きを隠せず狙いのエメラルドを隠しきれていない。
(げっ……まだ狙いの宝石隠しきれてねぇのに!にしても電気の戻り、早すぎねぇか?)
「今宵は強い味方を付けておられるようですね、中森警部。」
けれどそこは怪盗KID。すぐに冷静さを取り戻し、中森警部に話しかけた。
「味方だぁ?俺はこいつらを渋々入れてるだけだ。他の奴の存在は知らねぇぞ?」
「では、任意の方でしょうか。ともかく今夜は分が悪い。私はこの辺で退散させて頂きます。また今度、月下の元でお会いしましょう。」
中森警部と話が合わないことを疑問に思いながらも、KIDは煙幕と共に姿を消した。一時ポカンとしていた一行だったが、気を取り直しKIDの行方を捜索し始めた。イナホはその混乱に乗じて、USAピョンの妖怪パッドをすり取り喚んだ妖怪全員に号令を出した。そう、号令を出したのだ。
(ふぅ、まっさかあのタイミングで電気が付くなんてなぁ。計画が狂ちまったぜ。まぁ、名探偵もここまでは追いかけてこねぇだろ。問題は"魔導鏡の使い手"って奴だけれど、一向に姿を見せる気配ねぇし……。)
怪盗KIDは通風孔内でそんなことを考えていた。このまま進めば外に繋がる。普通通風孔にいるなんて考えもしないはずだ。だから今回も脱出できる。そう考えていたのに、いざ出口を開けようとすると開かない。念入りに下準備をしたはずなのに、まるで”通さない"と言わんばかりに固く閉まっていた。KIDは焦った。幾ら通風孔にいるとは警部たちが考えないにしても、長時間通風孔内にいるわけにはいかない。どうにか折り返して入った通風孔から出ようとして、KIDは思わず声を上げそうになった。普段混むはずのない男子トイレ。その個室がすべて埋まり、トイレの外にまで人の列ができていた。階が違えばマシかと思い、別のトイレの上に向かったものの状況は全く変わらなかった。そもそも今は深夜。トイレに並ぶほどの人がいるはずがない。KIDはトイレから脱出するのを諦め、人が少なそうな場所を狙うために通風孔内を動き始めた。
数分動いたとき、KIDは信じられない光景を見て動きを止めた。KIDを執念深く追い続ける中森警部が、何もないところに向かってKIDと叫び何かを捕まえるように走っていた。中森警部だけではない、警備に参加していた警察官やあの名探偵までもが同じような事をしていたのだ。流石にその様子にはKIDこと快斗も背筋に悪寒を感じた。全員が同じ幻覚を見ているなど、"何かに憑かれている"としか考えられないのだから。
不意に快斗の中で、昼間の紅子の言葉が再生される。
『月明かりの失せる時、魔導鏡の使い手南より現る。
人ならざるモノ数多
電気が急についたのも、通風孔から出られなかったのも、トイレがやけに混んでいたのも、名探偵たちが幻覚を見ているのも、全部その魔導鏡の使い手のせいだと考えれば説明はつく。あまりの素っ頓狂さに名探偵とかには異常者扱いされるかもしれないが、現に今起こっていることを説明するにはそう考えるのが妥当だ。
何とか出られそうなところから出たKIDこと快斗は、衣装を着替え一般人の格好で裏口から現場を去った。満月がしっかりと出ている。紅子の伝言では"月明りの失せるとき"とあったが消えるどころかしっかりと残っている。邪神ルシファーとやらも間違うこともあるんだななんて思いつつ、快斗は盗った宝石が目当てのものであるか確認しようと、胸元に手を入れた。が、宝石らしい冷たい感触はなかった。着替えたからではないし、通風孔内を動き回ったからではない。確実に盗んだはずの宝石が、跡形もなく消えていたのだ。
「……え?」
思わず快斗は、間抜けた声を上げた。