[混ぜるな危険]イナホ×コナン[カオスの予感]

友達を喚ぼうと人目のない場所に移動しようとするイナホを、コナンは怪訝そうな表情で見ていた。イナホの体調は悪そうには見えない。っていうか、寧ろ急に叫びだすほど健康そのものだ。
なのに、人目を避ける行動をしていて、怪しさしかない。
幼き頃—工藤新一としての幼少期から”探偵になる”と言って憚らなかった好奇心は今も健在。コナンはイナホに気付かれぬよう、後を付けた。イナホが人気も気配もない路地裏に入ったところで、コナンはイナホに声を掛けた。
「イナホ姉ちゃん、なんでこんなところにいるの?」
「コナン君こそ、なぜここに?」
「僕はイナホ姉ちゃんの後を追いかけて……。で、こんなところで何しようとしているの?」
「内緒です!」
 内心汗だらだらになりながら、それを感じさせない笑みでイナホは答える。
"現実主義者じゃなきゃ探偵はできない"。
そう言い切るコナンや安室には、イナホがこれからやることなど理解できないだろうから路地裏に向かったのだが。それは結局無駄になった。イナホの傍にいるUSAピョンも、コナンのこの行動力には驚いて言葉も出なかった。

「ねぇ、教えてよ~。」
 コナンは下手に出る作戦に出た。今まで現在の容姿を活かして大人を手玉に取り、自らの望む情報を手に入れてきたコナンだからこそ、この作戦に自信があった。しかし……。
「グウッ……。だ、騙されませんぞ!」
 妖怪という存在と関わっているイナホには、効かなかった。
コナンのこのあざとかわいい仕草は、イナホの中でかわい子ぶる妖怪数人と重なってしまい、一瞬可愛いと思ったものの嫌な思い出にすり替えられてしまった。USAピョンも彼女たちの悪行を思い出し、遠い目を浮かべていた。

「なぁんだ……僕、イナホ姉ちゃんなら話してくれるかと思ったんだけどなぁ。」
「こうなったら仕方ありませんね~。後悔しても知りませんよ?」
 思ったようにいかなかったことに、コナンは驚きつつそれを隠して不貞腐れたように言った。
その言葉を聞いて、イナホが笑う。ただし、よからぬことを企んでいるときの、妖怪すら引く気味悪い笑顔で……。その怪しく不敵に笑った表情には、流石のコナンも引いてしまう程に不気味だった。USAピョンにとっては慣れたもので、もう慌てることもせず呆れていたが……。コナンは一体何が起きるのか分からない不気味な状況に、子供の演技を忘れて警戒していた。

 コナンの許可を得たイナホは、USAピョンに託した妖怪大辞典からメダルを三枚抜き取る。そして、友を喚ぶための合言葉を口にする。
「私の友達!出でよ、みちび鬼・バクロ婆・口すべらし!妖怪メダル、セットオン!」
 妖怪ウォッチから音楽とともに放たれる光の帯で作られた逆円錐形。その中に、メダルに描かれた妖怪が姿を現す。ケータ程でないにしても、イナホも慣れた光景もの。普通の、霊感のない人たちは一生気づかない、鏡写しの世界の一片。人間界と妖魔界。外見は異なりながら、その本質は似ている異世界同士。その境を越えることのできるツール・妖怪ウォッチによって成せる業。妖怪マスターと称されるケータ程ではない。けれど確かにイナホと妖怪たち、その間に絆があるからこそ、できるもの。見慣れた"友達"の姿を見て、イナホは自然な笑みを浮かべた。

「な、何してんだ?」
コナンはイナホの言動を理解できず、呆然と立ち尽くしていた。今までの脈絡がなくて思いつきだと考えられる行動とは、一線を画していた。明らかにその行動の意味を理解したうえで行われていたモノだった。しかし、コナンが認めたくないモノー非現実的な"妖怪"を受け入れることが出来なかった。探偵は現実的でなければ真実を見つけらない。そう思っているけれど、今さっき行ったイナホの行動もまた事実。今までのイナホの言動を振り返れば、真実は既に見えている。己が尊敬するシャーロックホームズの名言・「不可能なものを排除していって残ったものが、どんなに信じられなくても真実」、その言葉を反故にしたくないがどうしても認められない事実に、コナンは混乱していた。そして、行きついた推理に対する困惑もある。

「みちび鬼君は、この街の探偵さんたちをおねがい!口すべらしとバクロ婆さんは、彼女に取り憑いて情報漏らさせて!」
イナホはいつものように、喚んだ妖怪たちに指示を飛ばす。全員が現場に向かっていったのを確認して、"いい笑顔"を浮かべてコナンを見下ろした。その笑みに、USAピョンは心当たりがあった。FBYを名乗るマルダーとカクリーがイナホの秘密を探りに来た時に浮かべていたものだ。
「い、イナホ姉ちゃん?」
「どうかした、コナン君?」
「い、いや……。」
混乱極めたコナンは相手に聞くという最終手段に出ようとした。しかし、"いい笑顔"にやられて直接聞くのを憚ってしまった。そして、真実を知る手がかりを失ったのだった。
「じれったいっすなぁ。まぁこの事件、すぐ終わると思うよ。」
イナホが笑う。コナンの頭脳をもってしても、状況を理解できないことだった。コナンは駄々を捏ねるように彼女に問いかける。
「どうして?」
「言ったって、君は認めないでしょ?目の前に視えていることだけで世の中回ってないんだよ?偶然証拠を見つけたり、犯人がポロっと零したり。そんな何気ないこと、"偶然"で済ませてない?とんでもない、"偶然なんて、この世に存在しないんだよ"。私たちは日々踊らされてるんだよ、君が否定するものに。」
イナホはそう言って、口元だけ笑みを浮かべる。絶句するコナン。そして長らく感じていなかった怖さ―得体のしれない人ならざるモノへの恐怖を感じた。コナン基新一は、生粋のシャーロキアンで現実主義者。7歳という年頃で”お化けなどいない"と言い切って見せる程の筋金入り。そのコナンでさえ、この含みのある言葉に背筋の凍る思いがした。

 イナホはそんなコナンの様子を気にすることのないまま、コナンの手を取り現場に向かった。すると、イナホの宣言通り既に犯人は捕まっていた。イナホは計画通りと笑い、コナンは状況を理解できずにポカンとしていた。
「う~ん、一体誰だったんだろう?」
被疑者をパトカーに乗せながら、高木刑事はそう呟いた。今回の事件解決のための物的証拠を見つけたのは、現場にいなかった少年だった。高木刑事に対して手招きをし、気になって後を付けるとその姿はなく代わりに証拠があったのだ。さりげなく佐藤刑事や安室に聞いてみたものの、二人ともそのような子供は見ていないと答え容疑者だった人たちもそれに賛同したため、高木刑事は幻覚だったのかと頭を悩ませた。ただ、周りが"知らない"と言っている以上、余計なことを言えば精神が疲れていることを疑われることを感じない高木ではない。やけにあったりとした幕引きを不審に思いながらも、パトカーに乗り込んだ。

「一体どういうことか、説明していただけませんか?」
状況を理解できていない中の一人・安室は、バーボンの笑みでイナホに迫る。裏社会の者の顔。普通ならその不気味さに引くなり恐怖するなりするのだが、イナホのメンタルは強かった。コナンも引いてしまう程に不気味なあのよからぬことを企んでいる笑みを浮かべ、不敵な色を瞳の中に携えてバーボンをしっかりと捕えていた。
「説明できることなんて、有りませんよ?偶々刑事さんが証拠を見つけて、犯人がボロ出した。それでエンドです。」
「そ、それはそうですが、やけに幕引きが早すぎると言うか………。」
安室はイナホに問い質そうとして、正論を突き返される。そう、上手いこと偶然が重なって早く事件解決しただけに過ぎない。普通はその“偶然”を不審に思うことなど、殆どないのだから。コナンは路地裏でのイナホの発言を覚えているから、はぐらかしているのは分かっていたものの、迂闊に踏み込むことはできずにいた。こう着状態に陥った二人を見て、イナホは笑った口元に人差し指を添えて言った。
「それ以上は、“need not to know”ってヤツですよ。」
 その言葉にコナンと安室は反応する。“need not to know”ー警察内部で使われる隠語。”知る必要はない“を意味し、何か裏があることを表す言葉でもある。警察庁の秘密組織に所属する警察官に無意識に喧嘩を売ったイナホだが、それを全く以って意識せず“普通の笑顔”を浮かべては堂々とその場から立ち去った。

 事件が起きた場所にはコナンと安室だけが残された、冷たい風が吹いた。

[平常?]イナホ×まじ快[異常?] へ続く!
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