埋葬編
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あれから、健邑くんとはすれ違いの日々が続いている。
顔を合わせても素知らぬ顔で通り過ぎられて、ろくに会話を交わす事も出来ない。
「喧嘩でもしましたか?」
「光明様……」
縁側でため息を吐いているところを、光明様に見つかってしまった。
「私、嫌われたのかもしれません」
「それはまた、どうして」
「生意気な事を、言ってしまったので」
「ははは。生意気さなら、健邑くんの方が負けてませんよ」
笑い事ではないのですよ、と光明様の隣で肩を落とす。
それに、傷つけてしまったのかもしれない。
「青春してますねぇ」
「私はもう、いい年した大人なのに」
「いいじゃありませんか。青春なんてのは、生まれてから死ぬまで、気がつく限りずっとですよ」
「光明様……」
「剛内様!剛内三蔵様!」
危機とした声に、二人して顔を合わせて血相を変えて駆け寄る。
剛内様が倒れた。
お弟子さんたちに介抱されている剛内様を目にする。
「剛内様……」
「おお、名前さんか。これは、情けないところをお見せしてしまって」
「そんな……!」
「光明」
「ええ、わかっています」
この時を悟って私を呼んだのでしょうと、光明様は苦渋の色を浮かべる。
剛内様は重い病におかされて、もう長くはない。
「私、何もかもお世話になりっぱなしで……まだ、恩返しも何も出来てないのに」
「そんな事、気にせんで良いのだ。男ばかりで肩身の狭い思いをしてきただろう。儂こそ、十分に目をかけてやれなくてすまぬ」
「剛内様!そんな事、ありません。そんな……」
その晩。
剛内様により本堂には、光明様と59名の内弟子が集められた。
それは、次期三蔵法師の継承者を決めるため。
解散後、中庭を抜けて奥へ進むと、懲罰房の扉に背を向ける光明様を見つけた。
聞き入ってはならない気がして立ち止まり、しばらく遠目から眺める。
「貴方も、話してきたらどうですか?」
「光明様……」
「だから、ここへ来たのでしょう?」
月明かりの下、長い髪を揺らした光明様にそう微笑まれる。
こくりと頷き、扉の前へと歩みを進めた。
「健邑くん」
「ああ、名前さん?久しぶり、っていうかそうしたのは俺だけど」
よかった、口を聞いてくれて。
冷たい鉄の扉に背中を預けて、しゃがみ込む。
「名前さん。大事なものってさ、」
「うん」
「大事なものを見つけたら、そばに置いておきたいってのがフツーなんだろうけど。ダメなんだ、俺」
まだ直接聞いていない、健邑くんの大事なもの。
「だからさ、名前さんの事、あの人に預けたよ」
「え?」
「まあ、元からここを出たら金山寺に連れて行くそうで?余計なお世話だったけど、言っておかないとアンタ、どこぞの誰かにパクリと食べられちゃいそうだからさ」
いつものように軽口を叩く健邑くんの、乾いた笑い声が聞こえる。
「あんまり近くにいると俺、アンタの事めちゃくちゃに壊してやりたくなるから。まあその前に、名前さんが俺を殺してくれるのが一番イイんだけどね」
ぎゅっと脚を抱きかかえて、膝に顔をうずめる。
夜風が髪を揺らしてざわめき、ひどく冷たい。
「殺さないよ」
「だろうと思った。アンタ、虫も殺せなさそうだもん」
違うよ、健邑くん。
「……ねえ、名前さん。三蔵法師になるのは俺だよ。たとえ、剛内三蔵法師を殺してでも。それでもまだ俺の事、大切な人だって言える?」
私は健邑くんがやろうとしている事を、止める事も、誰かに伝えるつもりもない。
一生許さないけど、怨む事は決してしないだろう。
「言えるよ」
「じゃあ共犯者だね。名前さんさ、三蔵法師になったら真っ先にアンタ抱かせてよ。ここを出て行く前に」
「……健邑くんが、本当に三蔵法師を継承したのなら」
「合意、取れたね」
拒絶しなかったのは、否定したくなかったから。
闇に染まる健邑くんを、どこか繋ぎ止めたかったから。
そんな、独りよがりな身勝手な考え。
月が看ている。
暗闇の中、大きく丸い光を照らして。
◇
「ご継承、おめでとうございます。烏哭三蔵法師様」
「ただいま、名前さん」
翌日。
頭上に金冠、双肩に経文を掛け法衣を身にまとった健邑は、継承の際、烏哭という名を光明様により授けられた。
その額に、チャクラを持たない異端の三蔵法師として。
私は膝を折り曲げて床に手を置き、頭を下げる。
バサリと白い袖を揺らして、烏哭はその場にあぐらをかいた。
「一つ、わかった事があるんだ」
「?」
「俺にとってアンタが、還る場所だってね」
金冠を床に置いて、伸ばされた手が頬に触れる。
烏哭は昨夜の宣告通り、内弟子6名と剛内様を殺した。
「それは、やめておいた方がいいと思います」
「どうして?」
「本来、私の居るべき場所は、ここではないので」
「何?怖くなって、また興を削ごうとしてる?」
するりと首筋をなでる指先を拒否する事なく、静かに首を振る。
ふと、不安になった。
ある日、突然この世界から消えて、烏哭を独り置いていく事に。
それに。
「それとも、光明の事?」
ピクリと肩が揺れて、鋭い視線とともにあごを持ち上げられる。
「光明が、本気でアンタの事好きになるとでも思ってんの?」
頭を、金槌で殴られた感覚だった。
戯れのような口づけを交わされたが、光明様のその真意は私にはわからない。
それでも、私の想いはただひとつ。
やわらかな、月のひかりの人。
「……光明様が私の事をどう思うと、関係ありません」
「まあいいよ、べつに。アンタが光明の事好きなままでも……体から先に落としていくから」
「……んっ、……ふぁ」
迫る烏哭に口づけされながら、こわばる身体を弄られる。
唇の隙間をこじ開けるように舌が侵入して、絡め取られ、口内を犯される。
触れ合ったところが、身体が、熱い。
拒む事も、逃げる事もせず、成されるがまま押し倒される。
目元に浮かぶ涙をぬるりと舌で拭い取られ、目を細めた烏哭に見下ろされる。
「烏哭、様……」
「安心してよ。何も考えられなくなるくらい、気持ち良く、汚してあげる」
一晩中、私たちは快楽に身を委ねて、肌を重ね合わせた。
顔を合わせても素知らぬ顔で通り過ぎられて、ろくに会話を交わす事も出来ない。
「喧嘩でもしましたか?」
「光明様……」
縁側でため息を吐いているところを、光明様に見つかってしまった。
「私、嫌われたのかもしれません」
「それはまた、どうして」
「生意気な事を、言ってしまったので」
「ははは。生意気さなら、健邑くんの方が負けてませんよ」
笑い事ではないのですよ、と光明様の隣で肩を落とす。
それに、傷つけてしまったのかもしれない。
「青春してますねぇ」
「私はもう、いい年した大人なのに」
「いいじゃありませんか。青春なんてのは、生まれてから死ぬまで、気がつく限りずっとですよ」
「光明様……」
「剛内様!剛内三蔵様!」
危機とした声に、二人して顔を合わせて血相を変えて駆け寄る。
剛内様が倒れた。
お弟子さんたちに介抱されている剛内様を目にする。
「剛内様……」
「おお、名前さんか。これは、情けないところをお見せしてしまって」
「そんな……!」
「光明」
「ええ、わかっています」
この時を悟って私を呼んだのでしょうと、光明様は苦渋の色を浮かべる。
剛内様は重い病におかされて、もう長くはない。
「私、何もかもお世話になりっぱなしで……まだ、恩返しも何も出来てないのに」
「そんな事、気にせんで良いのだ。男ばかりで肩身の狭い思いをしてきただろう。儂こそ、十分に目をかけてやれなくてすまぬ」
「剛内様!そんな事、ありません。そんな……」
その晩。
剛内様により本堂には、光明様と59名の内弟子が集められた。
それは、次期三蔵法師の継承者を決めるため。
解散後、中庭を抜けて奥へ進むと、懲罰房の扉に背を向ける光明様を見つけた。
聞き入ってはならない気がして立ち止まり、しばらく遠目から眺める。
「貴方も、話してきたらどうですか?」
「光明様……」
「だから、ここへ来たのでしょう?」
月明かりの下、長い髪を揺らした光明様にそう微笑まれる。
こくりと頷き、扉の前へと歩みを進めた。
「健邑くん」
「ああ、名前さん?久しぶり、っていうかそうしたのは俺だけど」
よかった、口を聞いてくれて。
冷たい鉄の扉に背中を預けて、しゃがみ込む。
「名前さん。大事なものってさ、」
「うん」
「大事なものを見つけたら、そばに置いておきたいってのがフツーなんだろうけど。ダメなんだ、俺」
まだ直接聞いていない、健邑くんの大事なもの。
「だからさ、名前さんの事、あの人に預けたよ」
「え?」
「まあ、元からここを出たら金山寺に連れて行くそうで?余計なお世話だったけど、言っておかないとアンタ、どこぞの誰かにパクリと食べられちゃいそうだからさ」
いつものように軽口を叩く健邑くんの、乾いた笑い声が聞こえる。
「あんまり近くにいると俺、アンタの事めちゃくちゃに壊してやりたくなるから。まあその前に、名前さんが俺を殺してくれるのが一番イイんだけどね」
ぎゅっと脚を抱きかかえて、膝に顔をうずめる。
夜風が髪を揺らしてざわめき、ひどく冷たい。
「殺さないよ」
「だろうと思った。アンタ、虫も殺せなさそうだもん」
違うよ、健邑くん。
「……ねえ、名前さん。三蔵法師になるのは俺だよ。たとえ、剛内三蔵法師を殺してでも。それでもまだ俺の事、大切な人だって言える?」
私は健邑くんがやろうとしている事を、止める事も、誰かに伝えるつもりもない。
一生許さないけど、怨む事は決してしないだろう。
「言えるよ」
「じゃあ共犯者だね。名前さんさ、三蔵法師になったら真っ先にアンタ抱かせてよ。ここを出て行く前に」
「……健邑くんが、本当に三蔵法師を継承したのなら」
「合意、取れたね」
拒絶しなかったのは、否定したくなかったから。
闇に染まる健邑くんを、どこか繋ぎ止めたかったから。
そんな、独りよがりな身勝手な考え。
月が看ている。
暗闇の中、大きく丸い光を照らして。
◇
「ご継承、おめでとうございます。烏哭三蔵法師様」
「ただいま、名前さん」
翌日。
頭上に金冠、双肩に経文を掛け法衣を身にまとった健邑は、継承の際、烏哭という名を光明様により授けられた。
その額に、チャクラを持たない異端の三蔵法師として。
私は膝を折り曲げて床に手を置き、頭を下げる。
バサリと白い袖を揺らして、烏哭はその場にあぐらをかいた。
「一つ、わかった事があるんだ」
「?」
「俺にとってアンタが、還る場所だってね」
金冠を床に置いて、伸ばされた手が頬に触れる。
烏哭は昨夜の宣告通り、内弟子6名と剛内様を殺した。
「それは、やめておいた方がいいと思います」
「どうして?」
「本来、私の居るべき場所は、ここではないので」
「何?怖くなって、また興を削ごうとしてる?」
するりと首筋をなでる指先を拒否する事なく、静かに首を振る。
ふと、不安になった。
ある日、突然この世界から消えて、烏哭を独り置いていく事に。
それに。
「それとも、光明の事?」
ピクリと肩が揺れて、鋭い視線とともにあごを持ち上げられる。
「光明が、本気でアンタの事好きになるとでも思ってんの?」
頭を、金槌で殴られた感覚だった。
戯れのような口づけを交わされたが、光明様のその真意は私にはわからない。
それでも、私の想いはただひとつ。
やわらかな、月のひかりの人。
「……光明様が私の事をどう思うと、関係ありません」
「まあいいよ、べつに。アンタが光明の事好きなままでも……体から先に落としていくから」
「……んっ、……ふぁ」
迫る烏哭に口づけされながら、こわばる身体を弄られる。
唇の隙間をこじ開けるように舌が侵入して、絡め取られ、口内を犯される。
触れ合ったところが、身体が、熱い。
拒む事も、逃げる事もせず、成されるがまま押し倒される。
目元に浮かぶ涙をぬるりと舌で拭い取られ、目を細めた烏哭に見下ろされる。
「烏哭、様……」
「安心してよ。何も考えられなくなるくらい、気持ち良く、汚してあげる」
一晩中、私たちは快楽に身を委ねて、肌を重ね合わせた。