埋葬編
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タオルと着替えの着物を抱えて、入浴場へ向かう。
近くにいたお弟子さんを見つけて、声をかける。
「あの、お風呂をいただいてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、はい。今、誰も使用してないので大丈夫ですよ」
お礼を言って扉を開けようとしたところ、横から手が伸びてきた。
「お背中でもお流ししましょうか?」
「コラ、健邑!何を言うか!」
「いいじゃないですか、先輩。先輩だって、名前さんの裸見たいくせに」
「健邑!……まったく、すみませんねぇ。コイツ、いつもこんな調子で」
周りにいるお弟子さんたちの笑い声が響き渡る。
なんだか、意外だった。
何をやってもつまらないと言った健邑くんは、一匹狼のタイプかと勝手に思っていたから。
脱衣室で着物を脱いで身体を流し、湯気が立つ湯船に浸かる。
はぁ〜と、冷えた身体が芯から温まり息を吐く。
「湯加減はどうですか?」
「け、健邑くん……!?」
「あぁ、大丈夫ですよ。さすがに中まで入りませんから」
健邑くんの声は、扉一枚を挟んだ脱衣室から聞こえる。
そうは言ってもと思い、肩の上からあごの下までしっかりと身を沈める。
「間違えて他の僧侶が入ったら大変でしょう?見張り番、やってあげますよ」
仕方ないから、そう言って健邑くんの腰を下ろす音が聞こえる。
それなら正直、入る前に言ってほしかったな。
「健邑くんは、」
ちゃぽんと、お湯の中から膝頭を出すと水面が揺れる。
「先ほどのように他のお弟子さんたちと笑い合っていても、つまらないのですか?」
「そうだね」
淡々と発せられた返答に、眉尻を下げる。
「でも、最近見つけたかもしれない」
「え!」
扉の方へ顔を向けて、湯船のふちをつかむ。
思いがけない言葉に、頬がゆるむのがわかる。
「ほ、本当ですか!?」
「クク……なんで、アンタがそう嬉しそうなの」
「だって、うれしいですよ!」
「何か、教えてほしい?」
「はい!」
「そうだな、当てられたら教えてあげますよ」
む、と眉をひそめて、再びあごの下まで湯船に浸かる。
一体、何だろうか。
健邑くんの大事なもの、今までは見つけられなかった事。
最近、最近と言っていたが……まさか。
「光明様では……!」
「アンタ、いつもそればっかりだね。よっぽど好きなんだ」
「好きですよ、もちろん」
「ハッキリ言うねぇ。この前はあんなに照れてたくせに」
健邑くんの乾いた笑い声が聞こえる。
「ま、惜しい線いってるよ」
何だろう、何だろうと考えているうちに、熱さで頭がぼーっとしてきた。
ちょっと長い事、湯船に浸かりすぎたかもしれない。
健邑くんの声がしたが、どこか遠くから聞こえてくるようで。
湯船から脚を出して視界がぐるりと回ったのを最後に、私は意識を失った。
◇
薄闇の中、目を覚ます。
身体を起こすと、そこは見慣れた自室の布団の上で。
きっちりと着せられた着物に手を当てて、思い出す。
そうだ、たしかお風呂場で気を失って。
ふいに、障子の向こうにうっすらとした人影を見つけ、そっと手をかける。
「だからダメだってば、名前さん。そう簡単に開けたら」
月の隠れた闇夜を背に、健邑くんが目を細めていた。
「健邑くんが介抱してくださったのですか?すみません、ありがとうございます」
「いいよ、半分俺のせいだし。ああ、安心してよ。俺に睡姦の趣味はないから」
言わなくてもいい事を、と少し頬を赤らめる。
「それに、いいもの見せてもらったし。ご馳走様でした」
つつと、健邑くんの指が私の着物に襟に触れて、さらに顔を赤くする。
「事故とはいえ、見苦しいものを……」
「ぷ。クックク……前から思ってたけど、名前さんって女の自覚ある?」
「……私を女だとは思わないでください」
「ああ、男慣れしてないんだっけ」
口の端を上げた健邑くんの指が、私の唇に触れてその輪郭をなぞる。
「光明サマとのキスは、気持ちよかった?」
「なんで……」
見られていた。
今まで散々否定してきた事だし、後ろめたい事には変わりないけれど、ひどく罪悪感に襲われて。
漆黒の冷たい瞳に捕らえられる。
「結局、三蔵法師なんてものも、くだらない劣情にほだされるただのケモノってわけだ」
「!」
とっさに腕をつかんで、こちらを見下ろす健邑くんの顔を見据える。
「光明様の事を悪く言わないでください」
「あ、怒った?べつに、殴ってもいいよ。名前さんになら」
「殴りません。だって、健邑くんも私の大切な人だから」
今の健邑くんになら、わかるはずだ。
だって、大事なものを見つけたと言っていたから。
「……一番じゃ、ないくせに」
つかんでいた手を振り払われる。
その場に立ち上がり、健邑くんは背を向けて障子に手をかける。
「健邑くんの大切なものって、」
障子の閉まる音に、伸ばしていた手を降ろす。
木々のざわめきが聞こえるだけで、その答えはなかった。
近くにいたお弟子さんを見つけて、声をかける。
「あの、お風呂をいただいてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、はい。今、誰も使用してないので大丈夫ですよ」
お礼を言って扉を開けようとしたところ、横から手が伸びてきた。
「お背中でもお流ししましょうか?」
「コラ、健邑!何を言うか!」
「いいじゃないですか、先輩。先輩だって、名前さんの裸見たいくせに」
「健邑!……まったく、すみませんねぇ。コイツ、いつもこんな調子で」
周りにいるお弟子さんたちの笑い声が響き渡る。
なんだか、意外だった。
何をやってもつまらないと言った健邑くんは、一匹狼のタイプかと勝手に思っていたから。
脱衣室で着物を脱いで身体を流し、湯気が立つ湯船に浸かる。
はぁ〜と、冷えた身体が芯から温まり息を吐く。
「湯加減はどうですか?」
「け、健邑くん……!?」
「あぁ、大丈夫ですよ。さすがに中まで入りませんから」
健邑くんの声は、扉一枚を挟んだ脱衣室から聞こえる。
そうは言ってもと思い、肩の上からあごの下までしっかりと身を沈める。
「間違えて他の僧侶が入ったら大変でしょう?見張り番、やってあげますよ」
仕方ないから、そう言って健邑くんの腰を下ろす音が聞こえる。
それなら正直、入る前に言ってほしかったな。
「健邑くんは、」
ちゃぽんと、お湯の中から膝頭を出すと水面が揺れる。
「先ほどのように他のお弟子さんたちと笑い合っていても、つまらないのですか?」
「そうだね」
淡々と発せられた返答に、眉尻を下げる。
「でも、最近見つけたかもしれない」
「え!」
扉の方へ顔を向けて、湯船のふちをつかむ。
思いがけない言葉に、頬がゆるむのがわかる。
「ほ、本当ですか!?」
「クク……なんで、アンタがそう嬉しそうなの」
「だって、うれしいですよ!」
「何か、教えてほしい?」
「はい!」
「そうだな、当てられたら教えてあげますよ」
む、と眉をひそめて、再びあごの下まで湯船に浸かる。
一体、何だろうか。
健邑くんの大事なもの、今までは見つけられなかった事。
最近、最近と言っていたが……まさか。
「光明様では……!」
「アンタ、いつもそればっかりだね。よっぽど好きなんだ」
「好きですよ、もちろん」
「ハッキリ言うねぇ。この前はあんなに照れてたくせに」
健邑くんの乾いた笑い声が聞こえる。
「ま、惜しい線いってるよ」
何だろう、何だろうと考えているうちに、熱さで頭がぼーっとしてきた。
ちょっと長い事、湯船に浸かりすぎたかもしれない。
健邑くんの声がしたが、どこか遠くから聞こえてくるようで。
湯船から脚を出して視界がぐるりと回ったのを最後に、私は意識を失った。
◇
薄闇の中、目を覚ます。
身体を起こすと、そこは見慣れた自室の布団の上で。
きっちりと着せられた着物に手を当てて、思い出す。
そうだ、たしかお風呂場で気を失って。
ふいに、障子の向こうにうっすらとした人影を見つけ、そっと手をかける。
「だからダメだってば、名前さん。そう簡単に開けたら」
月の隠れた闇夜を背に、健邑くんが目を細めていた。
「健邑くんが介抱してくださったのですか?すみません、ありがとうございます」
「いいよ、半分俺のせいだし。ああ、安心してよ。俺に睡姦の趣味はないから」
言わなくてもいい事を、と少し頬を赤らめる。
「それに、いいもの見せてもらったし。ご馳走様でした」
つつと、健邑くんの指が私の着物に襟に触れて、さらに顔を赤くする。
「事故とはいえ、見苦しいものを……」
「ぷ。クックク……前から思ってたけど、名前さんって女の自覚ある?」
「……私を女だとは思わないでください」
「ああ、男慣れしてないんだっけ」
口の端を上げた健邑くんの指が、私の唇に触れてその輪郭をなぞる。
「光明サマとのキスは、気持ちよかった?」
「なんで……」
見られていた。
今まで散々否定してきた事だし、後ろめたい事には変わりないけれど、ひどく罪悪感に襲われて。
漆黒の冷たい瞳に捕らえられる。
「結局、三蔵法師なんてものも、くだらない劣情にほだされるただのケモノってわけだ」
「!」
とっさに腕をつかんで、こちらを見下ろす健邑くんの顔を見据える。
「光明様の事を悪く言わないでください」
「あ、怒った?べつに、殴ってもいいよ。名前さんになら」
「殴りません。だって、健邑くんも私の大切な人だから」
今の健邑くんになら、わかるはずだ。
だって、大事なものを見つけたと言っていたから。
「……一番じゃ、ないくせに」
つかんでいた手を振り払われる。
その場に立ち上がり、健邑くんは背を向けて障子に手をかける。
「健邑くんの大切なものって、」
障子の閉まる音に、伸ばしていた手を降ろす。
木々のざわめきが聞こえるだけで、その答えはなかった。