RELOAD編
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「うーん、賭けは名前さんの勝ちかな。ご褒美は何がイイ?」
烏哭は私から手を離して、懐から取り出した煙草に火をつける。
その隙を見て、悟空と悟浄が奇襲を仕掛けた。
「切り替え早いって」
「はなっから本命はてめぇだ、黒三蔵!」
解放された私は、よろめき膝をつく八戒の元へ駆け寄る。
「八戒!」
「僕は大丈夫です」
「逃げてばっかいねぇで、ちっとは反撃しろっての!」
「何でも消せるっつったっけ?お手並み見せてみせろよ、エセマジシャン」
「あ、そう。見たい?見学料がちょっとばかり、高くつくかもよ」
烏哭の無天経文が無数にはためき、私はすぐに避けるよう叫ぶ。
「悟空!悟浄!」
山の一部が根こそぎ削られて、そこには巨大な穴しか残っていなかった。
それほど、恐ろしい力なのに。
それでも悟空と悟浄の攻撃が止む事はない。
私は残された片腕で、三蔵を支えるガトへ声をかける。
「ガトさん、代わります」
「すまない」
「アイツら……現状理解できてんのか?」
「理解してますよ、多分。あの強大な力の前には、僕ら虫ケラみたいな物だって。でもまあ、五分の魂って奴ですよ」
「フン、上等だ」
一寸の虫にも五分の魂。
それは誇りであり、矜持だ。
烏哭に立ち向かう悟空と悟浄は、あんなにもたくましく輝いている。
それに比べて、烏哭は。
烏哭が戦う理由は、昔から何ひとつ変わらない。
「三蔵、お願いがあります」
八戒とともに三蔵を支えながら、私はうつむき影を落とす。
震える唇をきつく結んで、ゆっくりと口を開いた。
「烏哭は待っているんです。自分を喰らってくれる存在を……殺してくれる者の存在を」
身勝手な頼みだと自覚している。
でも唯一、果たせたかもしれない光明様は、もうこの世にいないから。
私には、烏哭を殺せないから。
光明様、息子にこんな事を託してごめんなさい。
─名前さん、困った時は─
「烏哭を、助けてあげてください」
日が落ちる。
暗闇が、じわりじわりと侵食してやって来る。
「もう充分楽しんだし、名前さんを連れてそろそろお暇したいんですけど?」
ガトも加わり三人と烏哭の攻防が続くが、いまだ傷一つ付ける事さえ出来ない。
「……飽きた」
無天経文が烏哭を中心に再びはためき、四方八方へと行き交う。
それは、地面に倒れて意識を失っているヘイゼルの元へも向かっていて。
「ヘイゼルさん!」
「ガト!」
風が吹き止んで、ヘイゼルが目を覚ます。
「ガト……!?ガト!しっかりしいや!」
そこには、ヘイゼルを庇って下半身を消されたガトの姿があった。
今すぐに魂が必要やと、つぶやいたヘイゼルが悟空、悟浄、八戒を見て立ち上がる。
手に光を灯して、それを解き放った。
三人ではなく、烏哭に。
「正しい選択だ」
笑みを浮かべる烏哭の言葉に、人知れず眉を落とす。
光を鞭のようにして攻撃するヘイゼルに、悟空が加勢しようとするが八戒に止められる。
これはきっと、ケジメだ。
ヘイゼル自身との、そして烏哭との。
烏哭に飛ばされたヘイゼルが、再び立ち向かおうとした時。
唯一残された左手で、ガトがヘイゼルの腕をつかんだ。
「……放しいや」
「もういい」
「放しなはれッ、命令や!」
「もういいんだ。本来の姿に還るだけだ。俺はもう充分、生かされた」
ガトの左手に、ピシリと亀裂が走る。
「償いはとっくに果たしている……お前はもう、俺から解放されていいんだ」
「そんなん、そんなんもう、どうでもええ…!死んだらあかんっ命令や……!」
「……命令なら、こうだろう。生きなはれ」
ゆっくり、ゆっくりとその身体にヒビが広がっていき、崩れて砂と化して消える。
ヘイゼルの悲痛なうめき声と、悟空の絶叫がこだまする。
悟浄が烏哭に飛びかかり、悟空が如意棒を振り下ろすが二人はぶつかり、烏哭は木の上にいた。
「満足したァ?いやぁ、ちょっと長居しちゃった。続きは今度ね」
「烏哭さん」
「ん?」
「お忘れ物です」
満月を背に浮かぶヘイゼルが、烏哭へ鋭い羽を突きつける。
しかし、無天経文によりそれも叶わず、力をなくしたヘイゼルは崖から森の中へ落ちていく。
「ヘイゼルさん!」
木の上から烏哭が降りてきたかと思えば、一瞬にして視界が変わる。
すぐ近くから烏哭に見下ろされ、私は腕の中で横抱きにされていた。
漆黒の瞳と視線が絡み合う。
「お待たせ、名前さん。さて、もう忘れ物はないかな?」
「……そうですね」
その瞬間。
聞こえたのは鈍い、銃声。
頬へこぼれ落ちる、生温かい血飛沫。
私を抱きかかえる烏哭の腕から、力が抜けた。
「餞別だ、クソガラス」
地面へ落ちた私の目に映ったのは、飛ばされた勢いを押し殺して膝をつき、押さえた目元から鮮血を流す烏哭の姿。
心臓がどくりと音を立てて、唇が大きく震えた。
「烏哭……!」
「なるほど、このドサクサに紛れて治癒してたって訳か」
「こめかみを狙ったが、ギリギリで避けやがった……」
「烏哭、様!」
理性なんてそこにはなかった。
自ら、三蔵に頼んだ事なのに。
気が付けば、私は必死で烏哭の元へ駆け寄っていた。
しゃがみ込んで、血塗れの烏哭の頬へ指先を伸ばす。
「……ダメじゃない名前さん。アンタはもう、三蔵一行なんだから」
とめどなく涙があふれて、頬から地面へこぼれ落ちる。
急所を外したが、銃弾は当たった。
烏哭にはもう、何も見えていない。
「泣いちゃって。ウサギちゃんは昔から変わらないなぁ」
「変わりません。どこに居ても、何年経っても、私にとって烏哭は、大切な人だから」
「光明よりも?」
大切な人に、優劣なんてない。
光明様も、三蔵も、八戒たちみんなだって。
血塗れの手が私の手に重なり、包み込むように握りしめる。
「呪いだよ。僕にとっては名前さんの存在は……ねぇ、名前さん。光明よりも先に僕がアンタを見つけ出して、愛してるって伝えてたら……何かが変わったのかな」
瞳を揺らして、烏哭の身体を思いっきり抱きしめた。
烏哭がした事は、今でも許せない。
それでも、変わらなかった。
光明様と一緒に過ごしたあの輝かしい日々の中で、独り寂しそうに笑う貴方。
烏哭、貴方を想う心だけは、今も昔もずっと。
ひどく憎んで、ひどく愛した。
頭を抱え込むように抱きしめると、背中に硬い腕がまわされて烏哭は笑い声を上げる。
「でもいいんだ、名前さん。賭けはまだ続いているから。それに、イイもの貰っちゃった」
烏哭がふいに、人差し指と親指を立てる。
まるで銃のように、三蔵たち四人を法力で撃ち抜いた。
うめき声を上げて倒れる皆へ顔を向けると、そっと後ろ髪をなでられる。
手と手が触れ合い、指先を絡ませて烏哭がつぶやいた。
「またね、名前さん。愉しみにしてるよ……次の、夜を」
最後に触れるだけのひどくやさしい口づけを残して、烏は飛び立った。
大きくて丸い、満月のひかりの下。
黒い羽根だけを舞い残して。
烏哭は私から手を離して、懐から取り出した煙草に火をつける。
その隙を見て、悟空と悟浄が奇襲を仕掛けた。
「切り替え早いって」
「はなっから本命はてめぇだ、黒三蔵!」
解放された私は、よろめき膝をつく八戒の元へ駆け寄る。
「八戒!」
「僕は大丈夫です」
「逃げてばっかいねぇで、ちっとは反撃しろっての!」
「何でも消せるっつったっけ?お手並み見せてみせろよ、エセマジシャン」
「あ、そう。見たい?見学料がちょっとばかり、高くつくかもよ」
烏哭の無天経文が無数にはためき、私はすぐに避けるよう叫ぶ。
「悟空!悟浄!」
山の一部が根こそぎ削られて、そこには巨大な穴しか残っていなかった。
それほど、恐ろしい力なのに。
それでも悟空と悟浄の攻撃が止む事はない。
私は残された片腕で、三蔵を支えるガトへ声をかける。
「ガトさん、代わります」
「すまない」
「アイツら……現状理解できてんのか?」
「理解してますよ、多分。あの強大な力の前には、僕ら虫ケラみたいな物だって。でもまあ、五分の魂って奴ですよ」
「フン、上等だ」
一寸の虫にも五分の魂。
それは誇りであり、矜持だ。
烏哭に立ち向かう悟空と悟浄は、あんなにもたくましく輝いている。
それに比べて、烏哭は。
烏哭が戦う理由は、昔から何ひとつ変わらない。
「三蔵、お願いがあります」
八戒とともに三蔵を支えながら、私はうつむき影を落とす。
震える唇をきつく結んで、ゆっくりと口を開いた。
「烏哭は待っているんです。自分を喰らってくれる存在を……殺してくれる者の存在を」
身勝手な頼みだと自覚している。
でも唯一、果たせたかもしれない光明様は、もうこの世にいないから。
私には、烏哭を殺せないから。
光明様、息子にこんな事を託してごめんなさい。
─名前さん、困った時は─
「烏哭を、助けてあげてください」
日が落ちる。
暗闇が、じわりじわりと侵食してやって来る。
「もう充分楽しんだし、名前さんを連れてそろそろお暇したいんですけど?」
ガトも加わり三人と烏哭の攻防が続くが、いまだ傷一つ付ける事さえ出来ない。
「……飽きた」
無天経文が烏哭を中心に再びはためき、四方八方へと行き交う。
それは、地面に倒れて意識を失っているヘイゼルの元へも向かっていて。
「ヘイゼルさん!」
「ガト!」
風が吹き止んで、ヘイゼルが目を覚ます。
「ガト……!?ガト!しっかりしいや!」
そこには、ヘイゼルを庇って下半身を消されたガトの姿があった。
今すぐに魂が必要やと、つぶやいたヘイゼルが悟空、悟浄、八戒を見て立ち上がる。
手に光を灯して、それを解き放った。
三人ではなく、烏哭に。
「正しい選択だ」
笑みを浮かべる烏哭の言葉に、人知れず眉を落とす。
光を鞭のようにして攻撃するヘイゼルに、悟空が加勢しようとするが八戒に止められる。
これはきっと、ケジメだ。
ヘイゼル自身との、そして烏哭との。
烏哭に飛ばされたヘイゼルが、再び立ち向かおうとした時。
唯一残された左手で、ガトがヘイゼルの腕をつかんだ。
「……放しいや」
「もういい」
「放しなはれッ、命令や!」
「もういいんだ。本来の姿に還るだけだ。俺はもう充分、生かされた」
ガトの左手に、ピシリと亀裂が走る。
「償いはとっくに果たしている……お前はもう、俺から解放されていいんだ」
「そんなん、そんなんもう、どうでもええ…!死んだらあかんっ命令や……!」
「……命令なら、こうだろう。生きなはれ」
ゆっくり、ゆっくりとその身体にヒビが広がっていき、崩れて砂と化して消える。
ヘイゼルの悲痛なうめき声と、悟空の絶叫がこだまする。
悟浄が烏哭に飛びかかり、悟空が如意棒を振り下ろすが二人はぶつかり、烏哭は木の上にいた。
「満足したァ?いやぁ、ちょっと長居しちゃった。続きは今度ね」
「烏哭さん」
「ん?」
「お忘れ物です」
満月を背に浮かぶヘイゼルが、烏哭へ鋭い羽を突きつける。
しかし、無天経文によりそれも叶わず、力をなくしたヘイゼルは崖から森の中へ落ちていく。
「ヘイゼルさん!」
木の上から烏哭が降りてきたかと思えば、一瞬にして視界が変わる。
すぐ近くから烏哭に見下ろされ、私は腕の中で横抱きにされていた。
漆黒の瞳と視線が絡み合う。
「お待たせ、名前さん。さて、もう忘れ物はないかな?」
「……そうですね」
その瞬間。
聞こえたのは鈍い、銃声。
頬へこぼれ落ちる、生温かい血飛沫。
私を抱きかかえる烏哭の腕から、力が抜けた。
「餞別だ、クソガラス」
地面へ落ちた私の目に映ったのは、飛ばされた勢いを押し殺して膝をつき、押さえた目元から鮮血を流す烏哭の姿。
心臓がどくりと音を立てて、唇が大きく震えた。
「烏哭……!」
「なるほど、このドサクサに紛れて治癒してたって訳か」
「こめかみを狙ったが、ギリギリで避けやがった……」
「烏哭、様!」
理性なんてそこにはなかった。
自ら、三蔵に頼んだ事なのに。
気が付けば、私は必死で烏哭の元へ駆け寄っていた。
しゃがみ込んで、血塗れの烏哭の頬へ指先を伸ばす。
「……ダメじゃない名前さん。アンタはもう、三蔵一行なんだから」
とめどなく涙があふれて、頬から地面へこぼれ落ちる。
急所を外したが、銃弾は当たった。
烏哭にはもう、何も見えていない。
「泣いちゃって。ウサギちゃんは昔から変わらないなぁ」
「変わりません。どこに居ても、何年経っても、私にとって烏哭は、大切な人だから」
「光明よりも?」
大切な人に、優劣なんてない。
光明様も、三蔵も、八戒たちみんなだって。
血塗れの手が私の手に重なり、包み込むように握りしめる。
「呪いだよ。僕にとっては名前さんの存在は……ねぇ、名前さん。光明よりも先に僕がアンタを見つけ出して、愛してるって伝えてたら……何かが変わったのかな」
瞳を揺らして、烏哭の身体を思いっきり抱きしめた。
烏哭がした事は、今でも許せない。
それでも、変わらなかった。
光明様と一緒に過ごしたあの輝かしい日々の中で、独り寂しそうに笑う貴方。
烏哭、貴方を想う心だけは、今も昔もずっと。
ひどく憎んで、ひどく愛した。
頭を抱え込むように抱きしめると、背中に硬い腕がまわされて烏哭は笑い声を上げる。
「でもいいんだ、名前さん。賭けはまだ続いているから。それに、イイもの貰っちゃった」
烏哭がふいに、人差し指と親指を立てる。
まるで銃のように、三蔵たち四人を法力で撃ち抜いた。
うめき声を上げて倒れる皆へ顔を向けると、そっと後ろ髪をなでられる。
手と手が触れ合い、指先を絡ませて烏哭がつぶやいた。
「またね、名前さん。愉しみにしてるよ……次の、夜を」
最後に触れるだけのひどくやさしい口づけを残して、烏は飛び立った。
大きくて丸い、満月のひかりの下。
黒い羽根だけを舞い残して。