RELOAD編
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それは、あまりにも唐突だった。
暗闇の中、まぶたを開けるが何も見えない。
「あんまり遅いから迎えに来たよ、名前さん」
「烏哭、様」
おかしい。
つい先ほどまで、私は八戒たちとともに三蔵を探していたはずなのに。
右も左もわからぬ闇の中、烏哭の姿だけがはっきりと目に映る。
双肩に経文を掛けた、喪服のように漆黒の法衣を身にまとう姿。
目を細めた烏哭の腕が伸びてきて、身体を引き寄せられる。
躊躇なく交わされた口づけに抵抗するも、頭と腰にまわされた腕がそれを許さない。
長い、長い口づけ。
ふいに侵食してくる、熱い舌の感触。
執拗に絡め取られ、いやらしい水音が立つほど吸われる。
大きく息が乱れる中、たまらず烏哭の法衣を強く握りしめる。
「んっ……烏、哭!」
「……はぁ、いいね。やっぱり僕、名前さんじゃないと興奮しないや」
満足するまで貪られて、ぺろりと唇を舐められた後やっと解放される。
上下する胸を押さえて、眉を上げてにらみつけた。
「悟空を殺そうとしたのは……貴方ですね」
「うん。殺しそびれちゃったけどね」
とても軽い口調で、悪びれもせず答える。
私は指先に力を入れて握りしめ、まっすぐ彼を見据えた。
「許しません、烏哭」
「いいよ、許さなくて。じゃあさ、名前さんが僕を殺してくれる?」
首を傾げながら漆黒の瞳で笑みを浮かべる烏哭に、じんわりと涙が込み上げてくる。
出会った頃から、貴方は何一つ変わらない。
「ねぇ、名前さん。光明は自ら死を選んだんだよ」
「なに、を」
「あの光明が、そこらへんの雑魚妖怪に殺されるわけないでしょう?自死したんだ。息子のように寵愛する彼、玄奘三蔵のために。どう?ひどく憎いと思わない?愛する男を死に至らしめた、たった一人の少年が」
烏哭の細い指先が私の頬をなでて、涙をすくい上げる。
剛内様から烏哭への継承も、師匠の死を伴った。
形こそ違うものの、それと同じ事だというのか。
「三、蔵……」
「憎さのあまり会いたくなった?連れてってあげるよ。というか、最初からそのつもりだけど」
背中に腕をまわされて、包み込むように抱きかかえられる。
最後にもう一度だけ唇を落とされて、暗闇の底へと意識を奪われた。
◇
「名前……、名前!」
私の名を呼ぶ声に、顔を上げる。
気が付けば森の中、地面に這いつくばりながら指先に力を入れる、満身創痍の三蔵の姿が目に入った。
その傍らに立つのは、顔を歪めて笑う漆黒の三蔵法師。
「三蔵……!三蔵から離れてください、烏哭!」
「やだなぁ、名前さん。まだ彼の味方するの?さっきも言った通り彼のせいで、光明は死んだんだよ?」
烏哭は言った。
三蔵法師を継承するために、光明様は自ら命を絶った。
それが、もしそれが本当だとしても、光明様のご遺志なら私はそれを受け入れるだけだ。
「あたりまえです……!私が三蔵を憎むだなんて事、死んでもありません!光明様が三蔵を愛していたように、私も三蔵を愛しているのだから」
紫暗の瞳と視線が交わり、私はゆっくりと頷く。
三蔵はまだ烏哭に負けていない。
その強い双眸には、光が灯っているから。
烏哭は頭の後ろに手を置いて、髪の毛をかく仕草をする。
「まったく……名前さんには困ったな。本当、妬けるよ。消したくなっちゃうくらい」
「名前!」
気配も音もなく、一瞬にして私は烏哭の腕の中へと捕われていた。
逃げる事を許さない、力強い拘束。
「それじゃあ、玄奘三蔵。見に行くかい?本当の闇を」
「烏哭!やめて……!」
無天経文がはためき、すべてを呑み込む巨大な暗闇が現れる。
それは、万物を無に葬る力。
攻撃を無にし、空間さえも無にし、そして存在した事実すら無に返す。
そう、いつからかこの場にいたヘイゼルが口にした。
倒れた三蔵へ、じわりじわりと闇が迫り来る。
「想像出来るかな?玄奘三蔵という人間が、初めから存在しなかった世界を。玄奘三蔵のたどった時間、出会った人物、見てきた景色。玄奘三蔵が積み重ねてきた歴史、玄奘三蔵を形造るものすべて」
「や、めろ……」
「さぁ、何から消える?」
「三蔵!」
「三蔵はん!」
私はただ叫ぶ事しか出来ない。
声が重なったヘイゼルたちが、一瞬にして消えた。
「あぁ、消えたのは彼らじゃないよ。キミの方」
この場にいるのは私と烏哭と三蔵だけ。
三蔵の顔が、恐怖へと変貌する。
もがき続けるも光が弱まり、迫る闇に次第に呑まれていく。
「仏に逢えば仏を殺せ、祖に逢えば祖を殺せ、何物にも捕らわれない事……それが真の無一物なら」
「三蔵!」
「その教えを今も唱え続ける君に、すべてを捨てる事ができるかな」
「三蔵……ッ!」
三蔵は消えない。
消させてなんて、させない。
きつく抱き止める烏哭の腕の中から、私は声を張り上げて必死に叫んだ。
「三蔵、光へ!光へ向かって、手を伸ばしてください!」
私に出来るのは、消えそうな三蔵の背中を押す事だけ。
言葉の通り、三蔵の手を伸ばした先にあったのは小さな光。
いや、小さくて大きな……太陽のひかりの手。
「あーあ、誰がブン投げろっつったよ」
「だって、八戒が引っ張り出せって言うからさぁ!」
「だからって首の骨まで折って、どうするんですか」
「み、んな……」
気が付けば、森の中へ戻っていた。
悟浄、悟空、八戒の姿を目にして、目元に涙が浮かぶ。
悟空により闇から抜ける事の出来た三蔵は、八戒の気功により治癒されている。
この状況に驚いたのか、身体にまわる烏哭の腕の力が弱まる。
私は倒れている三蔵へ駆け寄って、頭を抱えるように抱きしめた。
三蔵はかすかにうめき声を出す。
「名前、気を付けてくださいね。三蔵の首の骨、今治療したばかりですから」
「わかって、ます……!三蔵、何も出来なくて、ごめんなさい」
傷だらけの三蔵の頬へと、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちる。
三蔵の胸に置いた手の甲へ、まだ痛むであろう手のひらが重ねられて強く握られた。
目が合うと、三蔵は口の端をつり上げる。
「何も、じゃねぇよ。ずっと呼んでただろ、俺の名を」
「三蔵……」
「それに」
「?」
三蔵が口を閉ざし、何やらさわがしいと思えば後ろで悟浄と悟空のケンカが続いていた。
「……うるせぇ」
「オイ、三蔵!投げたのコイツだからな!俺じゃねぇぞ」
「違う違う!悟浄が受け止めなかったんだって!」
「だから、お前が、」
「うるせぇっつってんだろうが!」
怒号に、森の鳥たちが飛び立つ。
痛みで身体を震わせる三蔵に、まだ首の骨しか治せてないんだからと八戒が冷静に言い放つ。
いつもの光景、いつもの日常。
一瞬でもそれが取り戻せた事に泣きながら笑っていると、横から指先が頬にふれる。
八戒にそっと、涙を拭い取られた。
「遅くなりましたが、無事でよかったです。名前」
「八戒、ごめんなさい。私、簡単に攫われてしまったみたいで」
「僕らの方こそすみません。そばにいたのに守れなくて……貴方が烏哭三蔵法師ですね、お噂はかねがね」
八戒の静かな怒りが、烏哭へ向かう。
烏哭のはためく無天経文が、その双肩へと降り戻った。
虚な漆黒の瞳が私から外れて、三蔵の元へと向かい嘲笑う。
「それにしても残念だねぇ、玄奘ちゃん。みっともないトコ見られたくなかったんでしょ?彼らにも、もちろん名前さんにも」
「そりゃ見ちまうよ」
悟空がまっすぐな目で答える。
「俺のみっともないトコも、コイツらのみっともない所だってさ、たくさん見ちまうよ」
ここまでの旅路、みんなのいろんな顔を見てきた。
見せたい顔も、見せたくない顔も、ぜんぶ。
だって、それはあたりまえ。
「五人で一緒に旅してんだから」
「なるほどね……名前さんもすっかり、三蔵一行ってわけだ」
一陣の風が吹き、髪をなびかせる。
三蔵を中心に私たち五人が、その向こうにいる烏哭と対峙する。
ただひとり佇み、孤独だと思っているだろう烏哭に。
暗闇の中、まぶたを開けるが何も見えない。
「あんまり遅いから迎えに来たよ、名前さん」
「烏哭、様」
おかしい。
つい先ほどまで、私は八戒たちとともに三蔵を探していたはずなのに。
右も左もわからぬ闇の中、烏哭の姿だけがはっきりと目に映る。
双肩に経文を掛けた、喪服のように漆黒の法衣を身にまとう姿。
目を細めた烏哭の腕が伸びてきて、身体を引き寄せられる。
躊躇なく交わされた口づけに抵抗するも、頭と腰にまわされた腕がそれを許さない。
長い、長い口づけ。
ふいに侵食してくる、熱い舌の感触。
執拗に絡め取られ、いやらしい水音が立つほど吸われる。
大きく息が乱れる中、たまらず烏哭の法衣を強く握りしめる。
「んっ……烏、哭!」
「……はぁ、いいね。やっぱり僕、名前さんじゃないと興奮しないや」
満足するまで貪られて、ぺろりと唇を舐められた後やっと解放される。
上下する胸を押さえて、眉を上げてにらみつけた。
「悟空を殺そうとしたのは……貴方ですね」
「うん。殺しそびれちゃったけどね」
とても軽い口調で、悪びれもせず答える。
私は指先に力を入れて握りしめ、まっすぐ彼を見据えた。
「許しません、烏哭」
「いいよ、許さなくて。じゃあさ、名前さんが僕を殺してくれる?」
首を傾げながら漆黒の瞳で笑みを浮かべる烏哭に、じんわりと涙が込み上げてくる。
出会った頃から、貴方は何一つ変わらない。
「ねぇ、名前さん。光明は自ら死を選んだんだよ」
「なに、を」
「あの光明が、そこらへんの雑魚妖怪に殺されるわけないでしょう?自死したんだ。息子のように寵愛する彼、玄奘三蔵のために。どう?ひどく憎いと思わない?愛する男を死に至らしめた、たった一人の少年が」
烏哭の細い指先が私の頬をなでて、涙をすくい上げる。
剛内様から烏哭への継承も、師匠の死を伴った。
形こそ違うものの、それと同じ事だというのか。
「三、蔵……」
「憎さのあまり会いたくなった?連れてってあげるよ。というか、最初からそのつもりだけど」
背中に腕をまわされて、包み込むように抱きかかえられる。
最後にもう一度だけ唇を落とされて、暗闇の底へと意識を奪われた。
◇
「名前……、名前!」
私の名を呼ぶ声に、顔を上げる。
気が付けば森の中、地面に這いつくばりながら指先に力を入れる、満身創痍の三蔵の姿が目に入った。
その傍らに立つのは、顔を歪めて笑う漆黒の三蔵法師。
「三蔵……!三蔵から離れてください、烏哭!」
「やだなぁ、名前さん。まだ彼の味方するの?さっきも言った通り彼のせいで、光明は死んだんだよ?」
烏哭は言った。
三蔵法師を継承するために、光明様は自ら命を絶った。
それが、もしそれが本当だとしても、光明様のご遺志なら私はそれを受け入れるだけだ。
「あたりまえです……!私が三蔵を憎むだなんて事、死んでもありません!光明様が三蔵を愛していたように、私も三蔵を愛しているのだから」
紫暗の瞳と視線が交わり、私はゆっくりと頷く。
三蔵はまだ烏哭に負けていない。
その強い双眸には、光が灯っているから。
烏哭は頭の後ろに手を置いて、髪の毛をかく仕草をする。
「まったく……名前さんには困ったな。本当、妬けるよ。消したくなっちゃうくらい」
「名前!」
気配も音もなく、一瞬にして私は烏哭の腕の中へと捕われていた。
逃げる事を許さない、力強い拘束。
「それじゃあ、玄奘三蔵。見に行くかい?本当の闇を」
「烏哭!やめて……!」
無天経文がはためき、すべてを呑み込む巨大な暗闇が現れる。
それは、万物を無に葬る力。
攻撃を無にし、空間さえも無にし、そして存在した事実すら無に返す。
そう、いつからかこの場にいたヘイゼルが口にした。
倒れた三蔵へ、じわりじわりと闇が迫り来る。
「想像出来るかな?玄奘三蔵という人間が、初めから存在しなかった世界を。玄奘三蔵のたどった時間、出会った人物、見てきた景色。玄奘三蔵が積み重ねてきた歴史、玄奘三蔵を形造るものすべて」
「や、めろ……」
「さぁ、何から消える?」
「三蔵!」
「三蔵はん!」
私はただ叫ぶ事しか出来ない。
声が重なったヘイゼルたちが、一瞬にして消えた。
「あぁ、消えたのは彼らじゃないよ。キミの方」
この場にいるのは私と烏哭と三蔵だけ。
三蔵の顔が、恐怖へと変貌する。
もがき続けるも光が弱まり、迫る闇に次第に呑まれていく。
「仏に逢えば仏を殺せ、祖に逢えば祖を殺せ、何物にも捕らわれない事……それが真の無一物なら」
「三蔵!」
「その教えを今も唱え続ける君に、すべてを捨てる事ができるかな」
「三蔵……ッ!」
三蔵は消えない。
消させてなんて、させない。
きつく抱き止める烏哭の腕の中から、私は声を張り上げて必死に叫んだ。
「三蔵、光へ!光へ向かって、手を伸ばしてください!」
私に出来るのは、消えそうな三蔵の背中を押す事だけ。
言葉の通り、三蔵の手を伸ばした先にあったのは小さな光。
いや、小さくて大きな……太陽のひかりの手。
「あーあ、誰がブン投げろっつったよ」
「だって、八戒が引っ張り出せって言うからさぁ!」
「だからって首の骨まで折って、どうするんですか」
「み、んな……」
気が付けば、森の中へ戻っていた。
悟浄、悟空、八戒の姿を目にして、目元に涙が浮かぶ。
悟空により闇から抜ける事の出来た三蔵は、八戒の気功により治癒されている。
この状況に驚いたのか、身体にまわる烏哭の腕の力が弱まる。
私は倒れている三蔵へ駆け寄って、頭を抱えるように抱きしめた。
三蔵はかすかにうめき声を出す。
「名前、気を付けてくださいね。三蔵の首の骨、今治療したばかりですから」
「わかって、ます……!三蔵、何も出来なくて、ごめんなさい」
傷だらけの三蔵の頬へと、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちる。
三蔵の胸に置いた手の甲へ、まだ痛むであろう手のひらが重ねられて強く握られた。
目が合うと、三蔵は口の端をつり上げる。
「何も、じゃねぇよ。ずっと呼んでただろ、俺の名を」
「三蔵……」
「それに」
「?」
三蔵が口を閉ざし、何やらさわがしいと思えば後ろで悟浄と悟空のケンカが続いていた。
「……うるせぇ」
「オイ、三蔵!投げたのコイツだからな!俺じゃねぇぞ」
「違う違う!悟浄が受け止めなかったんだって!」
「だから、お前が、」
「うるせぇっつってんだろうが!」
怒号に、森の鳥たちが飛び立つ。
痛みで身体を震わせる三蔵に、まだ首の骨しか治せてないんだからと八戒が冷静に言い放つ。
いつもの光景、いつもの日常。
一瞬でもそれが取り戻せた事に泣きながら笑っていると、横から指先が頬にふれる。
八戒にそっと、涙を拭い取られた。
「遅くなりましたが、無事でよかったです。名前」
「八戒、ごめんなさい。私、簡単に攫われてしまったみたいで」
「僕らの方こそすみません。そばにいたのに守れなくて……貴方が烏哭三蔵法師ですね、お噂はかねがね」
八戒の静かな怒りが、烏哭へ向かう。
烏哭のはためく無天経文が、その双肩へと降り戻った。
虚な漆黒の瞳が私から外れて、三蔵の元へと向かい嘲笑う。
「それにしても残念だねぇ、玄奘ちゃん。みっともないトコ見られたくなかったんでしょ?彼らにも、もちろん名前さんにも」
「そりゃ見ちまうよ」
悟空がまっすぐな目で答える。
「俺のみっともないトコも、コイツらのみっともない所だってさ、たくさん見ちまうよ」
ここまでの旅路、みんなのいろんな顔を見てきた。
見せたい顔も、見せたくない顔も、ぜんぶ。
だって、それはあたりまえ。
「五人で一緒に旅してんだから」
「なるほどね……名前さんもすっかり、三蔵一行ってわけだ」
一陣の風が吹き、髪をなびかせる。
三蔵を中心に私たち五人が、その向こうにいる烏哭と対峙する。
ただひとり佇み、孤独だと思っているだろう烏哭に。