RELOAD編
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あれから三日後。
意識のない悟空の目覚めを待ち、私たちは山小屋で過ごしていた。
バケツが転がる音に驚いて、ベッドの傍に伏していた顔を上げる。
「悟空!目が覚めたんだね、よかった……!」
「名前……?全然力が入らねぇんだ、俺……」
「三日間も昏睡状態だったんだから、あたりまえだよ。ほらベッドに戻って」
床に倒れていた悟空を起こして、支えながらそっとベッドへ座らせる。
悟空の視線が、私の腕へとぴたりと止まる。
「名前、その包帯って……」
「悟空!」
「やーっと、目覚めたか。アホ猿」
音を聞きつけて、外にいた八戒と悟浄も安堵の表情を浮かべながらやってきた。
八戒、まだ休んでおいてって言ったのに。
悟空は必死に、何があったのかを思い出そうとしていた。
「誰にやられたのか私たちにも見えなくて……悟空は敵の姿を見た?」
「いや俺も……全然、姿も見えなくて気配もしなくて……てか俺!傷、どうしたんだ!?」
悟浄は目をそらして、あやふやに答える。
悟空には、斉天大聖になった時の記憶がない。
知ればきっと自分のせいだと責めて苦しむだろう。
困惑する悟空は周りを見渡して、ハッとして声を荒げる。
「三蔵はッ!三蔵はどこだよ!」
「……さぁな」
「さぁなって、なんだよそれ!三蔵になんかあったのか!?」
「何もねぇよ、つーか……何もしなかったんだよ!アイツは」
「悟浄……」
悟浄が地面に投げ捨てた煙草を、勢いよく踏み潰す。
悟空が死にかけていた時、たしかに三蔵は一人でどこかに行った。
でもそれは、無我夢中で敵を探すためで。
「ハッ!普段エラそーな事抜かしてるくせに、俺たちに目もくれず消え失せやがって」
「悟浄、そんな言い方は」
「本当の事だろうが」
「って、三蔵置いてきたのか!?」
「悟空、三蔵は私たちの元に来なかったの」
「……え?」
呼んだけど、振り向かなかった。
最後に見たのは、ヘイゼルたちに向かって歩いて行く後ろ姿。
目を伏せて、私は固く手を握りしめる。
三蔵は、自らの意志で私たちの元を離れたのだ。
「ウソだ!おかしいだろ、そんなの!あの三蔵が……名前を置いてどっかに行くはずねぇじゃん!それに、俺を狙った奴だって誰だかわかんねぇんだろ!?三蔵だって、あぶねーじゃんかッ!」
「あのクソ坊主がどうなろうか知るかってんだよ!」
顔をしかめて、一人出て行こうとする悟空。
すぐに八戒が止めるが、勢いよく振り払われる姿を見て私は腕を伸ばす。
「八戒!」
「ッ……すみません」
うめき声を上げる八戒が床に倒れる前に、抱き止めて支える。
背中の包帯からはまだ痛々しいほど、血がにじみ出ている。
悟空の前では平気なフリしているが、本当は当分安静にしてなきゃいけないのに。
「……それ、俺がやった?それに名前の腕も」
「貴方のせいじゃ、ありません……」
「そうだよ、悟空」
「気遣うなよ!頼むからッ!」
叫びにも似た声が響き渡る。
私は八戒をベッドの上に座らせて、うつむく悟空の前にしゃがみ込む。
布を手にして、下着姿一枚だった悟空へ包み込むように肩からかける。
「誰かのせいと、あえて言うのならそれは悟空を襲った敵、張本人です」
「名前……」
「その通りですよ。それにヘイゼルに声をかけた三蔵の行動も、何か考えがあっての事かもしれません」
「八戒、それにみんな。実は私、心当たりがあるんです」
「……どういう事ですか?」
三人の視線が、両手を握りしめ影を落とす私の方へと向く。
悟空が倒れる前、たしかに聞こえたのだ。
烏の、声が。
「烏哭三蔵法師。敵はきっと、彼です」
それは、漆黒の闇のような人。
いつか自分が喰らわれるのを待って笑っている、哀しい人。
◇
砂漠の中を、ジープが砂埃を上げて駆けていく。
空白の助手席が、嫌でも目につく。
「べつにあそこに座ってもいいんだぜ?名前ちゃん」
「いいえ、私の特等席はここなので」
そう言って、いつものように悟空と悟浄の間に腰を下ろして笑う。
「八戒、大丈夫ですか?」
「そうだ、つらかったら言えよ。運転代わっから」
「何て事ないですよ、これくらい」
先ほどからずっと黙って元気のない悟空を、悟浄が彼なりに励ます。
こんな時、悟浄の存在がありがたい。
「腹……減ってきたかも」
「おー、そりゃよかったな」
「やべー!マジ、腹減ってきた!」
「あの八戒、聞きたいことがあるんですけど」
「はい?」
「私達、お金って……」
「はい。お気づきの通りほぼ一文無しですね、僕ら」
働かざる者食うべからず。
八戒はともかく、このメンバーで持つのかなバイト。
結果、三日と持たなかった。
炎天下の砂漠の地面へ、倒れ込む四人とジープ。
まずい。
生き倒れとは過去最悪、非常にまずい状況だ。
皆意識が朦朧として、声をかけるも返事は消えていく。
静かになったかと思えば、耳元に足音が聞こえた。
「人間……いや、妖怪?」
「待って、」
「ん?アンタは人間だな」
悟空へ手を伸ばしていた女の子に声をかける。
長く尖った耳、妖怪だ。
「私はどうなってもいいから、だから……三人を助けてあげて、くれませんか」
「……アンタが食糧になってもいいって言うの?」
「はい、みんなが助かるなら……」
「……そう、わかった。こんなところで野垂れ死なれても、こっちが迷惑な話だからね」
女の子の言葉に安堵して、そこでギリギリまで保っていた意識を失った。
◇
「ここは……?」
「女が起きたよ、兄ちゃん」
目が覚めたら砂漠の砂の上ではなく、そこは室内。
しかも調理場らしく、包丁や調理器具がいくつも並べてある。
そういえば私、食糧にされるんだっけ。
三蔵……最後に三蔵に会って、ばかって直接文句言いたかったな。
「それじゃあ、こいつを頼んでもらおうか」
兄と呼ばれた妖怪から手渡されたのは、ナイフ。
「こ、これで自害しろと……?」
「ははッ!いやいや!お前の仕事はこの野菜の皮剥きさ」
「え?」
「働かざる者食うべからずってな」
「あの!」
部屋を出て行こうとする、女の子の妖怪を呼び止める。
「助けてくれてありがとうございました。でも何で、私も」
「べつに、ただ珍しかっただけ。このご時世、妖怪を助けようとする人間なんてさ。まぁ、あそこで少しでも悲鳴を上げてたら、アンタを喰ってただろうけどね。だから、非常食にした」
「ひ、非常食……」
「ん?向こうが騒がしいな。あいつら三人も起きたのか」
そう言って女の子は調理場を出て行く。
約束通り悟空たちも、ちゃんと助けてくれたようだ。
窓の外を見ると、活気のある町で見る人皆、妖怪のようだった。
「あぁ、ここは妖怪の集落さ。何年も昔から皆こうして生きてる。人間にとっちゃ珍しいかもな」
「えぇ、初めて見ました。こんな形での共存の仕方もあるんですね」
「共存?違う、あいつらが俺らを追い出したんだ……!オアシスから!」
お兄さんの顔が一気に険しくなり、その憤る様子に気圧される。
ガチャリと、扉が開かれたと思ったら勢いよく悟空が飛び込んできた。
そのままの勢いで抱きつかれて、思わず倒れそうになる。
「名前!よかった!まだ食われてねぇよな!?」
「ご、悟空?うん、私は大丈夫だけど」
「は〜マジ焦った、どうしようかと思ったわ……」
「無事で、本当に何よりです」
悟浄が大きなため息を吐く中、悟空に正面から抱きつかれて、八戒に手まで握られている。
どういう状況ですか、これは。
「あたしはただ、アンタが口にした言葉をそのまま伝えただけだ。食糧になってもいいから、三人を助けてくれ、って」
私たちを見て、にやりと笑っている。
か、確信犯だこの子。
皆を落ち着かせて、よしよしと悟空の頭をなでた。
「なぁ、兄ちゃんたち。俺ら兄妹の前ではいいとして、この集落で人間のお嬢ちゃん一人にしたらおしまいだぜ。いつ襲われても、誰も文句言えねぇからな」
「わかりました。肝に銘じておきます」
外に出歩く時は誰かと一緒で、常に頭からローブをかぶるようにと八戒に強く念を押されて頷いた。
◇
一仕事終えて、網の上にある串刺しの肉を四人で見つめて喉を鳴らす。
じゅうと焼かれるいい音に、美味しそうないい匂い。
だけど、この肉ってまさか。
「なんだ?羊は苦手か?」
「いただきまーす!」
久々のちゃんとした食事。
悟浄なんか美味しくて涙を流していた。
ふと思う。
三蔵も、ちゃんとご飯食べてるかな。
一人で闇雲に突っ走って、無理してないといいんだけど。
ヘイゼルたちと行動を一緒にしてると思うけどケンカ……してるだろうな。
「なぁ、妖怪ったって人間とあんまかわんねーのな」
「まぁ、言われてみればな。紅孩児たちだって案外フツーだぜぇ?」
「アンタたち!紅孩児様の知り合い!?」
妖怪の女の子が、ガバッと悟空の胸ぐらをつかんだ。
彼女によると、紅孩児はアイドルでやさしくて凛々しくて、かなりの男前と妖怪の間でかなりの評判との事。
紅孩児って、そんな風に見られてるんだ。
「あれ?でも前さ、川に流されたあと紅孩児の奴、名前にプロポー……んぐっ」
「?」
「いえ、なんでも」
八戒が悟空の口を手でふさぐ。
私も苦笑いをして誤魔化す。
ファンの子の前で、プロポーズまがいのものをされたなんて、口が裂けても言えなかった。
話は、妖怪の生まれ変わりについて変わる。
私たちが暴走と思っていたものは、生まれ変わり。
ある日突然発作のようなものが起こり、それが落ち着き意識が戻ると、世界がまるで変わっている事に気づく。
それまで一緒に暮らしていた人間たちが、ただの美味そうな肉にしか見えなくなるそうだ。
「アンタたちも次期にわかるさ。妖怪なんだから。早く本当の姿になれるといいな」
どくりと胸がざわつく。
悟空、八戒、悟浄の本当の姿。
その時が来ても今と変わらず、こうして彼らの隣に立って笑っている事が出来るだろうか。
なんて、そんなのはあまりに楽観的すぎるけど。
でも、そう願わずにはいられなかった。
意識のない悟空の目覚めを待ち、私たちは山小屋で過ごしていた。
バケツが転がる音に驚いて、ベッドの傍に伏していた顔を上げる。
「悟空!目が覚めたんだね、よかった……!」
「名前……?全然力が入らねぇんだ、俺……」
「三日間も昏睡状態だったんだから、あたりまえだよ。ほらベッドに戻って」
床に倒れていた悟空を起こして、支えながらそっとベッドへ座らせる。
悟空の視線が、私の腕へとぴたりと止まる。
「名前、その包帯って……」
「悟空!」
「やーっと、目覚めたか。アホ猿」
音を聞きつけて、外にいた八戒と悟浄も安堵の表情を浮かべながらやってきた。
八戒、まだ休んでおいてって言ったのに。
悟空は必死に、何があったのかを思い出そうとしていた。
「誰にやられたのか私たちにも見えなくて……悟空は敵の姿を見た?」
「いや俺も……全然、姿も見えなくて気配もしなくて……てか俺!傷、どうしたんだ!?」
悟浄は目をそらして、あやふやに答える。
悟空には、斉天大聖になった時の記憶がない。
知ればきっと自分のせいだと責めて苦しむだろう。
困惑する悟空は周りを見渡して、ハッとして声を荒げる。
「三蔵はッ!三蔵はどこだよ!」
「……さぁな」
「さぁなって、なんだよそれ!三蔵になんかあったのか!?」
「何もねぇよ、つーか……何もしなかったんだよ!アイツは」
「悟浄……」
悟浄が地面に投げ捨てた煙草を、勢いよく踏み潰す。
悟空が死にかけていた時、たしかに三蔵は一人でどこかに行った。
でもそれは、無我夢中で敵を探すためで。
「ハッ!普段エラそーな事抜かしてるくせに、俺たちに目もくれず消え失せやがって」
「悟浄、そんな言い方は」
「本当の事だろうが」
「って、三蔵置いてきたのか!?」
「悟空、三蔵は私たちの元に来なかったの」
「……え?」
呼んだけど、振り向かなかった。
最後に見たのは、ヘイゼルたちに向かって歩いて行く後ろ姿。
目を伏せて、私は固く手を握りしめる。
三蔵は、自らの意志で私たちの元を離れたのだ。
「ウソだ!おかしいだろ、そんなの!あの三蔵が……名前を置いてどっかに行くはずねぇじゃん!それに、俺を狙った奴だって誰だかわかんねぇんだろ!?三蔵だって、あぶねーじゃんかッ!」
「あのクソ坊主がどうなろうか知るかってんだよ!」
顔をしかめて、一人出て行こうとする悟空。
すぐに八戒が止めるが、勢いよく振り払われる姿を見て私は腕を伸ばす。
「八戒!」
「ッ……すみません」
うめき声を上げる八戒が床に倒れる前に、抱き止めて支える。
背中の包帯からはまだ痛々しいほど、血がにじみ出ている。
悟空の前では平気なフリしているが、本当は当分安静にしてなきゃいけないのに。
「……それ、俺がやった?それに名前の腕も」
「貴方のせいじゃ、ありません……」
「そうだよ、悟空」
「気遣うなよ!頼むからッ!」
叫びにも似た声が響き渡る。
私は八戒をベッドの上に座らせて、うつむく悟空の前にしゃがみ込む。
布を手にして、下着姿一枚だった悟空へ包み込むように肩からかける。
「誰かのせいと、あえて言うのならそれは悟空を襲った敵、張本人です」
「名前……」
「その通りですよ。それにヘイゼルに声をかけた三蔵の行動も、何か考えがあっての事かもしれません」
「八戒、それにみんな。実は私、心当たりがあるんです」
「……どういう事ですか?」
三人の視線が、両手を握りしめ影を落とす私の方へと向く。
悟空が倒れる前、たしかに聞こえたのだ。
烏の、声が。
「烏哭三蔵法師。敵はきっと、彼です」
それは、漆黒の闇のような人。
いつか自分が喰らわれるのを待って笑っている、哀しい人。
◇
砂漠の中を、ジープが砂埃を上げて駆けていく。
空白の助手席が、嫌でも目につく。
「べつにあそこに座ってもいいんだぜ?名前ちゃん」
「いいえ、私の特等席はここなので」
そう言って、いつものように悟空と悟浄の間に腰を下ろして笑う。
「八戒、大丈夫ですか?」
「そうだ、つらかったら言えよ。運転代わっから」
「何て事ないですよ、これくらい」
先ほどからずっと黙って元気のない悟空を、悟浄が彼なりに励ます。
こんな時、悟浄の存在がありがたい。
「腹……減ってきたかも」
「おー、そりゃよかったな」
「やべー!マジ、腹減ってきた!」
「あの八戒、聞きたいことがあるんですけど」
「はい?」
「私達、お金って……」
「はい。お気づきの通りほぼ一文無しですね、僕ら」
働かざる者食うべからず。
八戒はともかく、このメンバーで持つのかなバイト。
結果、三日と持たなかった。
炎天下の砂漠の地面へ、倒れ込む四人とジープ。
まずい。
生き倒れとは過去最悪、非常にまずい状況だ。
皆意識が朦朧として、声をかけるも返事は消えていく。
静かになったかと思えば、耳元に足音が聞こえた。
「人間……いや、妖怪?」
「待って、」
「ん?アンタは人間だな」
悟空へ手を伸ばしていた女の子に声をかける。
長く尖った耳、妖怪だ。
「私はどうなってもいいから、だから……三人を助けてあげて、くれませんか」
「……アンタが食糧になってもいいって言うの?」
「はい、みんなが助かるなら……」
「……そう、わかった。こんなところで野垂れ死なれても、こっちが迷惑な話だからね」
女の子の言葉に安堵して、そこでギリギリまで保っていた意識を失った。
◇
「ここは……?」
「女が起きたよ、兄ちゃん」
目が覚めたら砂漠の砂の上ではなく、そこは室内。
しかも調理場らしく、包丁や調理器具がいくつも並べてある。
そういえば私、食糧にされるんだっけ。
三蔵……最後に三蔵に会って、ばかって直接文句言いたかったな。
「それじゃあ、こいつを頼んでもらおうか」
兄と呼ばれた妖怪から手渡されたのは、ナイフ。
「こ、これで自害しろと……?」
「ははッ!いやいや!お前の仕事はこの野菜の皮剥きさ」
「え?」
「働かざる者食うべからずってな」
「あの!」
部屋を出て行こうとする、女の子の妖怪を呼び止める。
「助けてくれてありがとうございました。でも何で、私も」
「べつに、ただ珍しかっただけ。このご時世、妖怪を助けようとする人間なんてさ。まぁ、あそこで少しでも悲鳴を上げてたら、アンタを喰ってただろうけどね。だから、非常食にした」
「ひ、非常食……」
「ん?向こうが騒がしいな。あいつら三人も起きたのか」
そう言って女の子は調理場を出て行く。
約束通り悟空たちも、ちゃんと助けてくれたようだ。
窓の外を見ると、活気のある町で見る人皆、妖怪のようだった。
「あぁ、ここは妖怪の集落さ。何年も昔から皆こうして生きてる。人間にとっちゃ珍しいかもな」
「えぇ、初めて見ました。こんな形での共存の仕方もあるんですね」
「共存?違う、あいつらが俺らを追い出したんだ……!オアシスから!」
お兄さんの顔が一気に険しくなり、その憤る様子に気圧される。
ガチャリと、扉が開かれたと思ったら勢いよく悟空が飛び込んできた。
そのままの勢いで抱きつかれて、思わず倒れそうになる。
「名前!よかった!まだ食われてねぇよな!?」
「ご、悟空?うん、私は大丈夫だけど」
「は〜マジ焦った、どうしようかと思ったわ……」
「無事で、本当に何よりです」
悟浄が大きなため息を吐く中、悟空に正面から抱きつかれて、八戒に手まで握られている。
どういう状況ですか、これは。
「あたしはただ、アンタが口にした言葉をそのまま伝えただけだ。食糧になってもいいから、三人を助けてくれ、って」
私たちを見て、にやりと笑っている。
か、確信犯だこの子。
皆を落ち着かせて、よしよしと悟空の頭をなでた。
「なぁ、兄ちゃんたち。俺ら兄妹の前ではいいとして、この集落で人間のお嬢ちゃん一人にしたらおしまいだぜ。いつ襲われても、誰も文句言えねぇからな」
「わかりました。肝に銘じておきます」
外に出歩く時は誰かと一緒で、常に頭からローブをかぶるようにと八戒に強く念を押されて頷いた。
◇
一仕事終えて、網の上にある串刺しの肉を四人で見つめて喉を鳴らす。
じゅうと焼かれるいい音に、美味しそうないい匂い。
だけど、この肉ってまさか。
「なんだ?羊は苦手か?」
「いただきまーす!」
久々のちゃんとした食事。
悟浄なんか美味しくて涙を流していた。
ふと思う。
三蔵も、ちゃんとご飯食べてるかな。
一人で闇雲に突っ走って、無理してないといいんだけど。
ヘイゼルたちと行動を一緒にしてると思うけどケンカ……してるだろうな。
「なぁ、妖怪ったって人間とあんまかわんねーのな」
「まぁ、言われてみればな。紅孩児たちだって案外フツーだぜぇ?」
「アンタたち!紅孩児様の知り合い!?」
妖怪の女の子が、ガバッと悟空の胸ぐらをつかんだ。
彼女によると、紅孩児はアイドルでやさしくて凛々しくて、かなりの男前と妖怪の間でかなりの評判との事。
紅孩児って、そんな風に見られてるんだ。
「あれ?でも前さ、川に流されたあと紅孩児の奴、名前にプロポー……んぐっ」
「?」
「いえ、なんでも」
八戒が悟空の口を手でふさぐ。
私も苦笑いをして誤魔化す。
ファンの子の前で、プロポーズまがいのものをされたなんて、口が裂けても言えなかった。
話は、妖怪の生まれ変わりについて変わる。
私たちが暴走と思っていたものは、生まれ変わり。
ある日突然発作のようなものが起こり、それが落ち着き意識が戻ると、世界がまるで変わっている事に気づく。
それまで一緒に暮らしていた人間たちが、ただの美味そうな肉にしか見えなくなるそうだ。
「アンタたちも次期にわかるさ。妖怪なんだから。早く本当の姿になれるといいな」
どくりと胸がざわつく。
悟空、八戒、悟浄の本当の姿。
その時が来ても今と変わらず、こうして彼らの隣に立って笑っている事が出来るだろうか。
なんて、そんなのはあまりに楽観的すぎるけど。
でも、そう願わずにはいられなかった。