RELOAD編
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「え〜マジで?一部屋しか空いてないの?」
「申し訳ありません」
「我慢しましょう、悟空」
「う〜」
「そうですよ。じゃあそれでお願いします」
八戒が宿帳に記帳している間、悟空が宿屋の女性にどこか美味しい店がないかと聞く。
ふと、気がつく。
この女性も黄色い目をしている。
おそらくヘイゼルたちも以前、ここへ訪れたのだろう。
「悟空、飯の話はあとにしろ」
「あぁ、うん」
「ではお部屋にご案内しますね」
借りた部屋で話していると、ノックする音が聞こえた。
「お布団、追加でお持ちしました」
「あぁ、すみません」
「……私の目の色、気になる?」
「あ!?いや、え〜と……」
「すみません、うちの悟空が」
「いいえ、いいんですよ」
あわてる悟空へ、少し前に病気してそれが治る代わりにこうなったと話す女性。
生きていてよかったと、子供たちのためにも頑張らないと。
そう微笑む姿を見て正直、複雑な思いが胸を渦巻く。
それでも、ヘイゼルによって再びもたらされた幸せを誰も咎める事など出来ない。
そう、私は自身を納得させた。
◇
夕日が町を照らす頃。
鮮やかな朱色に色付く川橋の上に佇む二人。
「お前なら、どう思う」
「何がです?」
「いやだから、一度死んだ人間を生き返らせるって事をよォ」
頭をかきながら、悟浄が隣にいる八戒に尋ねる。
それが大事な人を失った直後だったら間違いなく再生を望んだと、八戒は口にする。
そこには、道徳心が入り込む余地などないから。
「でも今は、まぁ僕の場合その後の運が向いてたので」
「名前に出会ったから、か?」
「え?」
「あのな、俺が気付いてないとでも思ってんのかよ」
八戒が目を見張って、顔を横に向ける。
視線だけ動かしたと悟浄と目が合って、八戒は眉尻を下げて笑った。
「バレてましたか」
「で、具体的にはいつからなんだよ」
「……そうですね、はっきりと意識し始めたのは雪山を越えたあたりからですけど……今にして思えば、清一色の件からですかね」
「そりゃずいぶんと前だな。ったく、どいつもこいつも見てらんねぇぜ」
「三蔵の事、僕も笑えませんね」
「やっぱり意識してんのな」
「そりゃしますよ。あの二人の間に入る隙なしってカンジですし」
「それとお前の気持ちは、別モンだろ」
吐き出した白い煙が霧となって、茜色の空へ消える。
「悟浄……」
「ま、お前らがもたもたしてる間に、俺が名前ちゃんを奪っちまうかもしれねぇけどな」
「それだけは許せませんね、僕」
「お前なぁ」
「でもまぁ、確かに……名前には三蔵でも他の誰でもなく、僕の隣にいて、僕だけに笑ってほしい」
八戒は欄干に両肘を付いて、うつむき頭を伏せた。
「彼女と出会ってから、そんな風に思えるようになったんですよ」
川のせせらぎとともに聞こえる、家路に帰る子供たちの声。
煙草片手に悟浄は空を見上げて、まだ見ぬ未来を思い描く。
フッ、と口の端をつり上げて笑った。
「楽しみにしててやるよ。名前ちゃんに似た自慢の愛娘ちゃんをな」
「とかいって、あっさりフラれて僕ら四十あたりまでこのまんまだったらどうしましょうね」
「つーか、なんでその時まで俺がセットなのよ」
◇
先ほど食べた蟹が美味しかったと話しながら、皆で宿の一室へと戻る。
「おや、おかえりやす」
前に立っている三蔵が、黙って部屋の扉を閉めた。
「無視かい!」
「ヘイゼルさんも来てたんですね」
「やっぱりうちを癒してくれるのは名前はんだけやわぁ」
「殺す」
「ホンマ物騒なお人やねぇ」
留守の間、私たちの部屋でくつろいでいたヘイゼルとガト。
やはり彼らも以前、この町に立ち寄ったと話す。
ヘイゼルは無関係かと思っていたと、切り出したのは八戒だった。
「おや、なんでですの?」
「この町では、僕らを妖怪だと言って襲ってきませんから」
「ほぉ、そらよかったですなぁ」
「ああいう卑怯な手段は、今後も控えていただけると助かりますねぇ」
「なんの話かようわからんなぁ」
「理解力に欠けていらっしゃるようなら結構です」
「なんや、ごっつい独り言やなぁ。びっくりするわぁ」
「まぁまぁ、二人とも」
私はヘイゼルと八戒をなだめる。
表情こそ笑顔だが、まるで吹雪が吹き荒んでいるようだ。
その雰囲気に、悟空と悟浄も顔を青くしていた。
「それはともかく、なぜ西に戻ってきた」
「そら名前はんのお顔が見とうなったからや」
「あァ?」
「おや、なんで三蔵はんが怒りますん?」
「ヘイゼルさん、真面目に話してください」
「まぁ、それは半分冗談として。実はちょっと、探してる妖怪がおるんや」
どうやら凶悪な妖怪が西にいると聞いて、引き返してきたらしい。
一切手を貸さないからご勝手にどうぞと、悟浄が払い除けるように手を振る。
「ひどい物言いやなぁ、ほんま。せや名前はん」
「はい」
「この町の人らが、えらい豪華な宿を用意してくれはったんや。さっきいただいたご馳走様もすごかったわぁ。うちらと一緒に来いひん?」
「結構です」
「は、八戒……」
そう言って私とヘイゼルの間に割り込んだのは、これまた笑顔の八戒だった。
この二人、本当に相性最悪なんだな。
「こっちもあいにく豪華蟹料理で満腹なんだよ」
「そーだそーだ!なぁ名前!すっげぇ美味かったもんな、上海蟹!」
「ええ、おいしかったですね」
「フッ……蟹は、タラバや」
パタンッと扉が閉まる音が響く。
なぜか勝ち誇った顔で、ヘイゼルたちは帰っていった。
「なんだ!あいつ!」
「なんで俺たちが負けたみたいな空気になってんだよ」
「いますよね、ああいう嫌味な転校生」
「ふふ、たしかに」
八戒は委員長タイプだなと、呑気にそんな事を思って宿で休む事にした。
◇
『一度は思った事ありまへんの?
この人が生き返ったらどんなにか、て』
頭の中で、ヘイゼルの言葉がこだまする。
「光明様」
月のない夜空を見上げる。
それは皆一度、誰しもが思い願う事だろう。
漂う紫煙の匂いに気が付いて、その場で振り返る。
「ここにいたのか」
「三蔵」
外壁を背もたれに、私の隣で再び煙草を吸い始める。
薄闇の中、今日は虫の音も聞こえないほど静かだ。
「名前、お前は望むか」
「……光明様の生き返りを、ですか?」
「あぁ」
煙を吐き出す息遣いを耳に、ゆっくりとまぶたを閉じる。
「望みません。だって、光明様に怒られちゃいますから」
幼い三蔵をかばって、その身で守った光明様。
その行為を踏みにじるような事は絶対にしたくない。
それに。
「あの日、独りだった私の前に現れたのが光明様だった。助けてくださったのが、光明様でよかった。愛し愛されて、光明様の世界に私がいた。それだけでいいんです。私にはもったいないほど、本当に幸せでした。だから、もういいんです」
もう二度と返って来ないとしても。
微笑みながら、こぼれ落ちる雫が頬を伝う。
スッと三蔵の腕が伸びたと思えば、指先で涙を拭われ、ぬくもりに包まれる。
頭から包み込むように、しっかりと抱きしめられていた。
「俺は今でも、自身を悔いています……生き残るべきは俺ではなく、お師匠様だったのではないかと」
「三蔵……」
思いもしない言葉に、胸がしめつけられる。
三蔵の背中に回した腕をそっと、なでるように動かす。
「そんな事言わないでください。光明様と三蔵、どちらかが欠けてもその傷は変わりません。貴方がまだこの世界にいて、本当によかった」
私を抱きしめる腕の力が、一層強くなった。
自分の目の前で、光明様を失った三蔵。
生涯、その胸の傷が癒える事はないだろう。
ふいに、耳元でつんざくような烏の鳴き声が聞こえた。
そんな気がして、勢いよく顔を上げて振り返った。
「どうかしたか」
「三蔵、今……」
「あ、二人ともここにいた」
パタパタと、足音を立てて駆けてきた悟空に気付いて、どちらからともなく身体を離す。
なんだかひどく不安そうな顔だ。
話を聞くと、死んだ人間を生き返らせるのはどうなのかと、ずっと考えていたと言う。
考える事は、皆同じみたいだ。
「俺なら、どう思うのかなって。三蔵とか名前とか、もしみんながいなくなったら……やっぱ生き返らせようとするのかな」
「勝手に殺すな。余計なお世話だ」
「へへ、やっぱそっか」
「私は、いいかな」
「え?」
「四人と離れるのは悲しいしすごく悔しいけど、もし終わりが来たらそこでみんなとお別れです」
「名前……」
しょんぼりと、肩を落とした悟空の頭をなでる。
悲しいとか、悔しいとかきっとそんな簡単な言葉では済まない。
成仏できないで、もしかしたら幽霊になるかもしれない。
でも、それでいいんだ。
「そう簡単に殺させるかよ」
はっきり告げる三蔵に、ありがとうと眉尻を下げて微笑む。
「悟空、お前だったらどうしたい」
「え?」
「名前が言ったように、自分自身が命を落としたとして、生き返らせてほしいと思うか」
「ん〜……っと、俺はいいや!うん、名前と同じで、そん時はいいや!だからとりあえず、死なないようにする!」
「そうだね」
笑顔で言い切った悟空に、私もうなずく。
三蔵は口の端を上げて、煙草の火を消した。
「じゃあ、それでいいじゃねぇか。生きてりゃ誰もがいずれ死ぬ。あたりまえの事だ。だがそれは今じゃねえ。ただそう信じて、生きるだけだ」
「うん。生きるのってさ、なんかすげぇ……」
「腹が減る?」
「すげぇ!名前、よくわかったな!」
「いつも言ってる事だろ」
穏やかな空気が流れて、三人で笑い合う。
夜中なのに今から食べに行こうと、元気に誘う悟空に笑って手を伸ばす。
「ほら悟空。もう遅いし部屋に、」
戻ろう。
そう言おうとしたはずなのに。
頭に響いたのは、何かが引き裂かれる音。
頬を伝う生暖かい雫。
目の前で大量の血が流れて、真っ赤な悟空が倒れた。
「申し訳ありません」
「我慢しましょう、悟空」
「う〜」
「そうですよ。じゃあそれでお願いします」
八戒が宿帳に記帳している間、悟空が宿屋の女性にどこか美味しい店がないかと聞く。
ふと、気がつく。
この女性も黄色い目をしている。
おそらくヘイゼルたちも以前、ここへ訪れたのだろう。
「悟空、飯の話はあとにしろ」
「あぁ、うん」
「ではお部屋にご案内しますね」
借りた部屋で話していると、ノックする音が聞こえた。
「お布団、追加でお持ちしました」
「あぁ、すみません」
「……私の目の色、気になる?」
「あ!?いや、え〜と……」
「すみません、うちの悟空が」
「いいえ、いいんですよ」
あわてる悟空へ、少し前に病気してそれが治る代わりにこうなったと話す女性。
生きていてよかったと、子供たちのためにも頑張らないと。
そう微笑む姿を見て正直、複雑な思いが胸を渦巻く。
それでも、ヘイゼルによって再びもたらされた幸せを誰も咎める事など出来ない。
そう、私は自身を納得させた。
◇
夕日が町を照らす頃。
鮮やかな朱色に色付く川橋の上に佇む二人。
「お前なら、どう思う」
「何がです?」
「いやだから、一度死んだ人間を生き返らせるって事をよォ」
頭をかきながら、悟浄が隣にいる八戒に尋ねる。
それが大事な人を失った直後だったら間違いなく再生を望んだと、八戒は口にする。
そこには、道徳心が入り込む余地などないから。
「でも今は、まぁ僕の場合その後の運が向いてたので」
「名前に出会ったから、か?」
「え?」
「あのな、俺が気付いてないとでも思ってんのかよ」
八戒が目を見張って、顔を横に向ける。
視線だけ動かしたと悟浄と目が合って、八戒は眉尻を下げて笑った。
「バレてましたか」
「で、具体的にはいつからなんだよ」
「……そうですね、はっきりと意識し始めたのは雪山を越えたあたりからですけど……今にして思えば、清一色の件からですかね」
「そりゃずいぶんと前だな。ったく、どいつもこいつも見てらんねぇぜ」
「三蔵の事、僕も笑えませんね」
「やっぱり意識してんのな」
「そりゃしますよ。あの二人の間に入る隙なしってカンジですし」
「それとお前の気持ちは、別モンだろ」
吐き出した白い煙が霧となって、茜色の空へ消える。
「悟浄……」
「ま、お前らがもたもたしてる間に、俺が名前ちゃんを奪っちまうかもしれねぇけどな」
「それだけは許せませんね、僕」
「お前なぁ」
「でもまぁ、確かに……名前には三蔵でも他の誰でもなく、僕の隣にいて、僕だけに笑ってほしい」
八戒は欄干に両肘を付いて、うつむき頭を伏せた。
「彼女と出会ってから、そんな風に思えるようになったんですよ」
川のせせらぎとともに聞こえる、家路に帰る子供たちの声。
煙草片手に悟浄は空を見上げて、まだ見ぬ未来を思い描く。
フッ、と口の端をつり上げて笑った。
「楽しみにしててやるよ。名前ちゃんに似た自慢の愛娘ちゃんをな」
「とかいって、あっさりフラれて僕ら四十あたりまでこのまんまだったらどうしましょうね」
「つーか、なんでその時まで俺がセットなのよ」
◇
先ほど食べた蟹が美味しかったと話しながら、皆で宿の一室へと戻る。
「おや、おかえりやす」
前に立っている三蔵が、黙って部屋の扉を閉めた。
「無視かい!」
「ヘイゼルさんも来てたんですね」
「やっぱりうちを癒してくれるのは名前はんだけやわぁ」
「殺す」
「ホンマ物騒なお人やねぇ」
留守の間、私たちの部屋でくつろいでいたヘイゼルとガト。
やはり彼らも以前、この町に立ち寄ったと話す。
ヘイゼルは無関係かと思っていたと、切り出したのは八戒だった。
「おや、なんでですの?」
「この町では、僕らを妖怪だと言って襲ってきませんから」
「ほぉ、そらよかったですなぁ」
「ああいう卑怯な手段は、今後も控えていただけると助かりますねぇ」
「なんの話かようわからんなぁ」
「理解力に欠けていらっしゃるようなら結構です」
「なんや、ごっつい独り言やなぁ。びっくりするわぁ」
「まぁまぁ、二人とも」
私はヘイゼルと八戒をなだめる。
表情こそ笑顔だが、まるで吹雪が吹き荒んでいるようだ。
その雰囲気に、悟空と悟浄も顔を青くしていた。
「それはともかく、なぜ西に戻ってきた」
「そら名前はんのお顔が見とうなったからや」
「あァ?」
「おや、なんで三蔵はんが怒りますん?」
「ヘイゼルさん、真面目に話してください」
「まぁ、それは半分冗談として。実はちょっと、探してる妖怪がおるんや」
どうやら凶悪な妖怪が西にいると聞いて、引き返してきたらしい。
一切手を貸さないからご勝手にどうぞと、悟浄が払い除けるように手を振る。
「ひどい物言いやなぁ、ほんま。せや名前はん」
「はい」
「この町の人らが、えらい豪華な宿を用意してくれはったんや。さっきいただいたご馳走様もすごかったわぁ。うちらと一緒に来いひん?」
「結構です」
「は、八戒……」
そう言って私とヘイゼルの間に割り込んだのは、これまた笑顔の八戒だった。
この二人、本当に相性最悪なんだな。
「こっちもあいにく豪華蟹料理で満腹なんだよ」
「そーだそーだ!なぁ名前!すっげぇ美味かったもんな、上海蟹!」
「ええ、おいしかったですね」
「フッ……蟹は、タラバや」
パタンッと扉が閉まる音が響く。
なぜか勝ち誇った顔で、ヘイゼルたちは帰っていった。
「なんだ!あいつ!」
「なんで俺たちが負けたみたいな空気になってんだよ」
「いますよね、ああいう嫌味な転校生」
「ふふ、たしかに」
八戒は委員長タイプだなと、呑気にそんな事を思って宿で休む事にした。
◇
『一度は思った事ありまへんの?
この人が生き返ったらどんなにか、て』
頭の中で、ヘイゼルの言葉がこだまする。
「光明様」
月のない夜空を見上げる。
それは皆一度、誰しもが思い願う事だろう。
漂う紫煙の匂いに気が付いて、その場で振り返る。
「ここにいたのか」
「三蔵」
外壁を背もたれに、私の隣で再び煙草を吸い始める。
薄闇の中、今日は虫の音も聞こえないほど静かだ。
「名前、お前は望むか」
「……光明様の生き返りを、ですか?」
「あぁ」
煙を吐き出す息遣いを耳に、ゆっくりとまぶたを閉じる。
「望みません。だって、光明様に怒られちゃいますから」
幼い三蔵をかばって、その身で守った光明様。
その行為を踏みにじるような事は絶対にしたくない。
それに。
「あの日、独りだった私の前に現れたのが光明様だった。助けてくださったのが、光明様でよかった。愛し愛されて、光明様の世界に私がいた。それだけでいいんです。私にはもったいないほど、本当に幸せでした。だから、もういいんです」
もう二度と返って来ないとしても。
微笑みながら、こぼれ落ちる雫が頬を伝う。
スッと三蔵の腕が伸びたと思えば、指先で涙を拭われ、ぬくもりに包まれる。
頭から包み込むように、しっかりと抱きしめられていた。
「俺は今でも、自身を悔いています……生き残るべきは俺ではなく、お師匠様だったのではないかと」
「三蔵……」
思いもしない言葉に、胸がしめつけられる。
三蔵の背中に回した腕をそっと、なでるように動かす。
「そんな事言わないでください。光明様と三蔵、どちらかが欠けてもその傷は変わりません。貴方がまだこの世界にいて、本当によかった」
私を抱きしめる腕の力が、一層強くなった。
自分の目の前で、光明様を失った三蔵。
生涯、その胸の傷が癒える事はないだろう。
ふいに、耳元でつんざくような烏の鳴き声が聞こえた。
そんな気がして、勢いよく顔を上げて振り返った。
「どうかしたか」
「三蔵、今……」
「あ、二人ともここにいた」
パタパタと、足音を立てて駆けてきた悟空に気付いて、どちらからともなく身体を離す。
なんだかひどく不安そうな顔だ。
話を聞くと、死んだ人間を生き返らせるのはどうなのかと、ずっと考えていたと言う。
考える事は、皆同じみたいだ。
「俺なら、どう思うのかなって。三蔵とか名前とか、もしみんながいなくなったら……やっぱ生き返らせようとするのかな」
「勝手に殺すな。余計なお世話だ」
「へへ、やっぱそっか」
「私は、いいかな」
「え?」
「四人と離れるのは悲しいしすごく悔しいけど、もし終わりが来たらそこでみんなとお別れです」
「名前……」
しょんぼりと、肩を落とした悟空の頭をなでる。
悲しいとか、悔しいとかきっとそんな簡単な言葉では済まない。
成仏できないで、もしかしたら幽霊になるかもしれない。
でも、それでいいんだ。
「そう簡単に殺させるかよ」
はっきり告げる三蔵に、ありがとうと眉尻を下げて微笑む。
「悟空、お前だったらどうしたい」
「え?」
「名前が言ったように、自分自身が命を落としたとして、生き返らせてほしいと思うか」
「ん〜……っと、俺はいいや!うん、名前と同じで、そん時はいいや!だからとりあえず、死なないようにする!」
「そうだね」
笑顔で言い切った悟空に、私もうなずく。
三蔵は口の端を上げて、煙草の火を消した。
「じゃあ、それでいいじゃねぇか。生きてりゃ誰もがいずれ死ぬ。あたりまえの事だ。だがそれは今じゃねえ。ただそう信じて、生きるだけだ」
「うん。生きるのってさ、なんかすげぇ……」
「腹が減る?」
「すげぇ!名前、よくわかったな!」
「いつも言ってる事だろ」
穏やかな空気が流れて、三人で笑い合う。
夜中なのに今から食べに行こうと、元気に誘う悟空に笑って手を伸ばす。
「ほら悟空。もう遅いし部屋に、」
戻ろう。
そう言おうとしたはずなのに。
頭に響いたのは、何かが引き裂かれる音。
頬を伝う生暖かい雫。
目の前で大量の血が流れて、真っ赤な悟空が倒れた。