RELOAD編
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「三蔵一行!貴様らの命と女、経文は俺達が貰い受けるぞ!」
「残念でしたねぇ。あともう少しで何事もなく町に入れたんですけど」
「町に着いてから来られた方が厄介だろ」
「たしかにそうですね」
「腹減った~」
山を二つ分越えた先の事。
久しぶりの町を目の前にして、いつもの刺客に行手を阻まれた。
「お坊さん方!そやつらの相手をする必要はありません!こちらの敷地内にお入り下さい!」
「え、でも……」
四人が交戦していると突如、声がかかる。
そんな事をしたら、妖怪が町の中へ入ってしまうのに。
戸惑う中、早くと催促されて三蔵たちとともに向かうと、驚く事に妖怪の足が止まった。
彼らは捨て台詞を吐いて引き返す。
「危ないところでしたなぁ。しばらくは町を出ん方が良いですよ」
「ありがとうございました。これは一体……」
「この町は聖なる力に守護されておるのですよ」
聖なる力。
まさかこの町に三蔵法師でもいるのだろうか。
敷地内は石畳のきれいな町並みで、人々が笑顔で賑わっていた。
「へえー!でっかい町だー」
「石畳か。そういや山越えた辺りから微妙に景色も変わったな」
「それだけ僕らも遠くへ来たって事ですよ」
「……聖なる力ってのはどういう事だ」
「ええ、この町も以前は妖怪に脅えとりましたがね。数年前、道師の蒼真様がこの町の長になってから、妖怪はこの敷地内に足を踏み入れる事ができなくなりました。長の張った結界が、この町を護っているのですよ」
ふと、気がつく。
それなら悟空、悟浄、八戒の三人はどうしてすんなりとこの町に入れたのだろうか。
「結界?でも俺達この町に入ってもなんともな、みッ!」
思った事は皆同じで、悟浄の足蹴りと三蔵のハリセンにより悟空は口封じされた。
宿屋に案内されて、借りる事の出来た一室で話し合う。
道師の結界により護られている町。
にわかに信じられない話だが、妖怪が途中であきらめたのも事実。
悟空たち三人は妖怪として規格外だから、微弱な結界には引っかからなかったのだろうと三蔵は語る。
「三蔵。ものすごーく今更な事、聞いてもいいですか?」
「……何だ?」
八戒は牛魔王サイドが狙っている、天地開元経文の詳細について聞く。
それは本来ならば、三蔵を継ぐ者にしか知り得ない話。
「天地開元経文は俺が所持する魔天経文、聖天経文の他に有天、無天、恒天の三つが存在する」
無天経文、それは烏哭が剛内様より継いだ経文。
死や虚無を司る無天経文。
確かに、烏哭は繋がる二つの世界の時空を無にして、私を桃源郷へと連れ戻した。
「無天経文は、烏哭様の手にあります」
「烏哭……以前、三蔵が一度会った事があると言っていた三蔵法師ですね」
「……あぁ」
よほど毛嫌いしているのだろう。
三蔵は舌打ちをして眉間のシワを深くする。
「名前、見た事があるか?無天経文の力を」
「……いいえ、話に聞いただけです」
「そうか……実際、俺も他の経文の能力はこの目で確かめた事はねぇ。五つが揃えばどんな事が起こるのか想像も及ばん。だから、三蔵法師は意識的に各地に散って行動しているんだ。不意に五つが揃う事のないように、な」
烏哭、今頃どこで何をしているだろう。
以前カミサマの城で会った時は、你博士と名乗っていた。
烏哭のした事は、今でも許せない。
それでも、もう一度会って話がしたい。
そんな焦がれるよう想いが消える事はなかった。
◇
宿屋を離れて飯屋にたどり着く。
席に着くと、いつものように賑やかな食事が始まった。
「てめコノ、クソ猿っ!マジに一人で全部食いやがった!」
「なんだよっ、最初に横取りしたのてめーの方だろ!?」
「……春巻きぐらい、追加で注文すりゃいいじゃねぇか」
「ダメですよ三蔵、甘やかしたら。ね、名前」
「えっと、私はいっぱい食べる悟空が好きなので」
「へへッ!よし、じゃあ三蔵追加で注文しようぜ!」
「却下」
「なっ、さっきはイイって言ったじゃねぇか!?」
「しかし、アレだ……お前らが霞んでみえる程、騒がしい町だなここは」
喧騒を耳に箸を進めるが、たしかにこの町の賑わいは今まで以上のものだった。
八戒が言うに、例の結界のおかげで妖怪に脅かされる事なく完全に外界を遮断して、自給自足の体制を整えているだろうとの事。
「確かにな。こんなデカイ町なのに、宿屋は俺らが取ったあの一軒だけだって言うし?」
ふと、悟空のその言葉に何か引っかかりを覚える。
「あの、ちょっとよろしいですか?三蔵法師様とおっしゃるのは、そちらのお坊様の事でしょうか?」
「人違いだ」
「もう、三蔵ったら」
話によると、この町の長である蒼真道師がぜひ挨拶したいとの事。
平和なのはいい事に間違いないけどこの町、何か妙だ。
「行ってみましょう、三蔵」
「……仕方ねぇな」
「相変わらず名前ちゃんに甘いねぇ、三蔵サマ」
「うるせぇ」
「っし!飯食ったら行くか!」
◇
「桃源郷最高位の僧侶であらせられる三蔵法師様が我が町にお立ち寄りめさるとは、誠に光栄の至りですな。一言頂けましたら、安宿ではなくこの屋敷にお泊まりに願ったものを」
「気遣いは無用だ」
「遠慮深いお方ですな」
彼がこの町を守っている蒼真道師。
二年前、たまたまこの町に立ち寄った彼が呪術を施した事により、町を統括する長を務める事になったそうだ。
「これだけ広い敷地に結界を施すとなると、余程の能力をお持ちとお見受けしますが」
「いや、恐れ入りますな」
私は人知れず眉をひそめる。
ただの憶測かもしれないけれど、三蔵法師ほどの法力も持たないこの人が、この町全土を守護しているとはとても思えなかった。
悟浄が妖力制御装置の事を話すと、人間かそうでないかは一目でわかるから心配ご無用と、笑いながら語る。
やっぱり気づいていないみたい。
「ところで、何日ほど滞在の御予定で?」
「明日の昼までに発つつもりだが」
「それは勿体のない。ここは安全で良い町だ。是非しばらく御逗留頂きたいものですが」
「生憎、先を急ぐ旅でな」
「そうですか……残念ですな。今宵は折良く祭りが催されますので、ごゆるりとお楽しみ下さい」
屋敷を出ると、先ほど言っていた通り盛大な祭りが開催されていて、町は一層と賑わいを見せていた。
私は隣にいる三蔵を見上げる。
「三蔵、やっぱり何か変です」
「あぁ、何か裏があるのは間違いないだろう。ただ現にこの町はこうして平和の均衡を保ち栄えている。あの道師が何を企んでいようが、所詮俺達には関わりのない事だ……って聞いてんのか、てめぇら!」
「あらら……」
気がつくと、悟浄は道行く女性をナンパをしているし、悟空は屋台に夢中ではしゃいでいる。
好き勝手動こうとする二人を見兼ねた八戒が、保護者としてついて行く事になった。
「すみません、名前。三蔵の事、頼めますか?」
「はい!こっちは任せてください」
「俺は一人で留守番も出来ねぇガキか」
宿屋に戻ると言う三蔵について行き、二人で町中を歩く。
祭りというものはいくつになってもワクワクするもので、つい周りをきょろきょろと見渡す。
「……何か欲しいものでもあるのか?」
「え?」
「好きなのを買え」
懐から取り出したのは三仏神のカード。
「ふふっ、三蔵。なんだかお父さんみたいですね」
「……娘を持った覚えはねぇ」
「じゃあお言葉に甘えて。あれだけ買いましょうか」
指差したのは赤いりんご飴の屋台。
がやがやとした賑わいの中、二人して屋台に並ぶ。
「三蔵も食べますよね?」
「……好きにしろ」
はい、と三蔵の分も手渡して、私たちはりんご飴を口にしながら宿屋へ戻った。
◇
「遅いですね、八戒たち」
「久しぶりの町で遊び呆けてるんだろ」
夜も更けた頃。
宿屋の窓から、落ち着き始めた町の様子を眺める。
「失礼します。三蔵様、ちょっとよろしいですか?」
ノック音とともに、町の男性が部屋を訪れた。
「何の用だ、こんな時間に」
「それがその、お連れの御三人が急に町中で倒れられまして、どうしたものかと……」
「倒れた……みんなが?」
驚きとともに疑心が胸を渦巻く。
宿を出て三蔵と二人、案内されて歩みを進めたその先にいたのは。
「御足労をわずらわせて恐縮です」
「どういう事だ」
蒼真道師がそこにいた。
突如、背後から誰かに羽交い締めされて身動きが取れなくなる。
「離して、ください!」
「三蔵法師様。この町の為に、御協力いただけますか」
「アンタの為に、の間違いじゃねえか?」
「……それこそが延いては町の為になる」
「とっとと名前を離せ。殺すぞ」
「三蔵!」
三蔵の足元の床が抜けて、重力に逆らえず落ちていく。
私は拘束されたまま、ただ叫ぶ事しか出来なかった。
静かになった空間で、歯を噛みしめながらつぶやく。
「妖怪と、手を組んでいたのですね。この町を訪れた人間を生贄に差し出せば、その代わり手は出さないという約束を」
「御理解が早くて助かります」
「ふざけないでください……!」
早く、三蔵を早く助け出さなければ。
「悟空たちは……みんなをどうしたのですか!」
「心配なさらずとも、貴方もすぐ後を追う事になりましょう」
私は捕らえている男の腕に歯を立てて噛み付く。
ひるんでいる隙に部屋を出て、全力で走り屋敷を抜けようとする。
少しして門前で立ち尽くしている、悟空たち三人の後ろ姿が見えた。
「みんな!」
「名前!よかった、無事だったんだな!?」
「三蔵は?」
「それが、一人どこかに落とされてしまって」
よく見ると、屋敷の外には大勢の町の人たちが行手を阻んでいた。
手には武器を持って、私たちをここから逃すまいとしている。
「貴方がたはすべて知っていたのですか、道師が妖怪と通じていた事も」
「感謝しておりますよ道師様。どんな形であれ、この町に平和をもたらして下さった」
「そんな、バカな……いや」
驚いたのは、道師も同じだった。
道師含めて、この町の人間全員が自分たちの平和の為だけに他人を犠牲にしてきた。
考えを改める気もないと言う。
「確かに貴方がたの言い分もよくわかります。しかし、守るべき物をもつのは貴方達だけではない」
「こちとら、他人の為に死んでやるつもりは微塵もねぇぜ?」
「……アンタらがそのつもりなら本気でやるかんな。もう人間だからとか妖怪だからとか、そんなん関係ねぇよ」
その時、一発の銃声が轟いた。
町の人達の群衆の奥。
銃口を天に向け、血まみれで、今にも倒れそうな三蔵の姿にどくりと心臓が鳴った。
「三蔵!」
一歩一歩、這いずるように私たちの元へ歩みを進める三蔵。
私も一秒でも早く、三蔵の元へ向かうため駆け出す。
「……退け」
「退いてください!」
戸惑う町の人たちが、一人ひとりと道を開けていく。
「ど、どうした!早く捕まえんか!今こそ奴を差し出せば、まだ間に合うかもしれん!……なぜ誰も動かんのだ!?」
手を伸ばして、私は倒れる寸前の三蔵を抱き止める。
痛々しいその身体を、ぎゅっと力を入れて抱きしめた。
心音とともに、たしかに感じるぬくもり。
「やっぱり違ったな、あの頃とは」
「まさか、生きて戻る筈が……」
道師の声に、三蔵が傷だらけの顔をゆっくりと上げる。
「生き延びるさ、胸張って生きる為に」
「何故だ……人はそこまで強くない」
「そうかもな……だが、これが俺達の選んだ道だ」
「三蔵、それ以上しゃべると体に障ります。行きましょう」
「あぁ」
三蔵の反対の肩を、悟空が腕をまわし支えて歩き出す。
群衆に見つめられる中、私達はこの偽りの平和の町を後にした。
「残念でしたねぇ。あともう少しで何事もなく町に入れたんですけど」
「町に着いてから来られた方が厄介だろ」
「たしかにそうですね」
「腹減った~」
山を二つ分越えた先の事。
久しぶりの町を目の前にして、いつもの刺客に行手を阻まれた。
「お坊さん方!そやつらの相手をする必要はありません!こちらの敷地内にお入り下さい!」
「え、でも……」
四人が交戦していると突如、声がかかる。
そんな事をしたら、妖怪が町の中へ入ってしまうのに。
戸惑う中、早くと催促されて三蔵たちとともに向かうと、驚く事に妖怪の足が止まった。
彼らは捨て台詞を吐いて引き返す。
「危ないところでしたなぁ。しばらくは町を出ん方が良いですよ」
「ありがとうございました。これは一体……」
「この町は聖なる力に守護されておるのですよ」
聖なる力。
まさかこの町に三蔵法師でもいるのだろうか。
敷地内は石畳のきれいな町並みで、人々が笑顔で賑わっていた。
「へえー!でっかい町だー」
「石畳か。そういや山越えた辺りから微妙に景色も変わったな」
「それだけ僕らも遠くへ来たって事ですよ」
「……聖なる力ってのはどういう事だ」
「ええ、この町も以前は妖怪に脅えとりましたがね。数年前、道師の蒼真様がこの町の長になってから、妖怪はこの敷地内に足を踏み入れる事ができなくなりました。長の張った結界が、この町を護っているのですよ」
ふと、気がつく。
それなら悟空、悟浄、八戒の三人はどうしてすんなりとこの町に入れたのだろうか。
「結界?でも俺達この町に入ってもなんともな、みッ!」
思った事は皆同じで、悟浄の足蹴りと三蔵のハリセンにより悟空は口封じされた。
宿屋に案内されて、借りる事の出来た一室で話し合う。
道師の結界により護られている町。
にわかに信じられない話だが、妖怪が途中であきらめたのも事実。
悟空たち三人は妖怪として規格外だから、微弱な結界には引っかからなかったのだろうと三蔵は語る。
「三蔵。ものすごーく今更な事、聞いてもいいですか?」
「……何だ?」
八戒は牛魔王サイドが狙っている、天地開元経文の詳細について聞く。
それは本来ならば、三蔵を継ぐ者にしか知り得ない話。
「天地開元経文は俺が所持する魔天経文、聖天経文の他に有天、無天、恒天の三つが存在する」
無天経文、それは烏哭が剛内様より継いだ経文。
死や虚無を司る無天経文。
確かに、烏哭は繋がる二つの世界の時空を無にして、私を桃源郷へと連れ戻した。
「無天経文は、烏哭様の手にあります」
「烏哭……以前、三蔵が一度会った事があると言っていた三蔵法師ですね」
「……あぁ」
よほど毛嫌いしているのだろう。
三蔵は舌打ちをして眉間のシワを深くする。
「名前、見た事があるか?無天経文の力を」
「……いいえ、話に聞いただけです」
「そうか……実際、俺も他の経文の能力はこの目で確かめた事はねぇ。五つが揃えばどんな事が起こるのか想像も及ばん。だから、三蔵法師は意識的に各地に散って行動しているんだ。不意に五つが揃う事のないように、な」
烏哭、今頃どこで何をしているだろう。
以前カミサマの城で会った時は、你博士と名乗っていた。
烏哭のした事は、今でも許せない。
それでも、もう一度会って話がしたい。
そんな焦がれるよう想いが消える事はなかった。
◇
宿屋を離れて飯屋にたどり着く。
席に着くと、いつものように賑やかな食事が始まった。
「てめコノ、クソ猿っ!マジに一人で全部食いやがった!」
「なんだよっ、最初に横取りしたのてめーの方だろ!?」
「……春巻きぐらい、追加で注文すりゃいいじゃねぇか」
「ダメですよ三蔵、甘やかしたら。ね、名前」
「えっと、私はいっぱい食べる悟空が好きなので」
「へへッ!よし、じゃあ三蔵追加で注文しようぜ!」
「却下」
「なっ、さっきはイイって言ったじゃねぇか!?」
「しかし、アレだ……お前らが霞んでみえる程、騒がしい町だなここは」
喧騒を耳に箸を進めるが、たしかにこの町の賑わいは今まで以上のものだった。
八戒が言うに、例の結界のおかげで妖怪に脅かされる事なく完全に外界を遮断して、自給自足の体制を整えているだろうとの事。
「確かにな。こんなデカイ町なのに、宿屋は俺らが取ったあの一軒だけだって言うし?」
ふと、悟空のその言葉に何か引っかかりを覚える。
「あの、ちょっとよろしいですか?三蔵法師様とおっしゃるのは、そちらのお坊様の事でしょうか?」
「人違いだ」
「もう、三蔵ったら」
話によると、この町の長である蒼真道師がぜひ挨拶したいとの事。
平和なのはいい事に間違いないけどこの町、何か妙だ。
「行ってみましょう、三蔵」
「……仕方ねぇな」
「相変わらず名前ちゃんに甘いねぇ、三蔵サマ」
「うるせぇ」
「っし!飯食ったら行くか!」
◇
「桃源郷最高位の僧侶であらせられる三蔵法師様が我が町にお立ち寄りめさるとは、誠に光栄の至りですな。一言頂けましたら、安宿ではなくこの屋敷にお泊まりに願ったものを」
「気遣いは無用だ」
「遠慮深いお方ですな」
彼がこの町を守っている蒼真道師。
二年前、たまたまこの町に立ち寄った彼が呪術を施した事により、町を統括する長を務める事になったそうだ。
「これだけ広い敷地に結界を施すとなると、余程の能力をお持ちとお見受けしますが」
「いや、恐れ入りますな」
私は人知れず眉をひそめる。
ただの憶測かもしれないけれど、三蔵法師ほどの法力も持たないこの人が、この町全土を守護しているとはとても思えなかった。
悟浄が妖力制御装置の事を話すと、人間かそうでないかは一目でわかるから心配ご無用と、笑いながら語る。
やっぱり気づいていないみたい。
「ところで、何日ほど滞在の御予定で?」
「明日の昼までに発つつもりだが」
「それは勿体のない。ここは安全で良い町だ。是非しばらく御逗留頂きたいものですが」
「生憎、先を急ぐ旅でな」
「そうですか……残念ですな。今宵は折良く祭りが催されますので、ごゆるりとお楽しみ下さい」
屋敷を出ると、先ほど言っていた通り盛大な祭りが開催されていて、町は一層と賑わいを見せていた。
私は隣にいる三蔵を見上げる。
「三蔵、やっぱり何か変です」
「あぁ、何か裏があるのは間違いないだろう。ただ現にこの町はこうして平和の均衡を保ち栄えている。あの道師が何を企んでいようが、所詮俺達には関わりのない事だ……って聞いてんのか、てめぇら!」
「あらら……」
気がつくと、悟浄は道行く女性をナンパをしているし、悟空は屋台に夢中ではしゃいでいる。
好き勝手動こうとする二人を見兼ねた八戒が、保護者としてついて行く事になった。
「すみません、名前。三蔵の事、頼めますか?」
「はい!こっちは任せてください」
「俺は一人で留守番も出来ねぇガキか」
宿屋に戻ると言う三蔵について行き、二人で町中を歩く。
祭りというものはいくつになってもワクワクするもので、つい周りをきょろきょろと見渡す。
「……何か欲しいものでもあるのか?」
「え?」
「好きなのを買え」
懐から取り出したのは三仏神のカード。
「ふふっ、三蔵。なんだかお父さんみたいですね」
「……娘を持った覚えはねぇ」
「じゃあお言葉に甘えて。あれだけ買いましょうか」
指差したのは赤いりんご飴の屋台。
がやがやとした賑わいの中、二人して屋台に並ぶ。
「三蔵も食べますよね?」
「……好きにしろ」
はい、と三蔵の分も手渡して、私たちはりんご飴を口にしながら宿屋へ戻った。
◇
「遅いですね、八戒たち」
「久しぶりの町で遊び呆けてるんだろ」
夜も更けた頃。
宿屋の窓から、落ち着き始めた町の様子を眺める。
「失礼します。三蔵様、ちょっとよろしいですか?」
ノック音とともに、町の男性が部屋を訪れた。
「何の用だ、こんな時間に」
「それがその、お連れの御三人が急に町中で倒れられまして、どうしたものかと……」
「倒れた……みんなが?」
驚きとともに疑心が胸を渦巻く。
宿を出て三蔵と二人、案内されて歩みを進めたその先にいたのは。
「御足労をわずらわせて恐縮です」
「どういう事だ」
蒼真道師がそこにいた。
突如、背後から誰かに羽交い締めされて身動きが取れなくなる。
「離して、ください!」
「三蔵法師様。この町の為に、御協力いただけますか」
「アンタの為に、の間違いじゃねえか?」
「……それこそが延いては町の為になる」
「とっとと名前を離せ。殺すぞ」
「三蔵!」
三蔵の足元の床が抜けて、重力に逆らえず落ちていく。
私は拘束されたまま、ただ叫ぶ事しか出来なかった。
静かになった空間で、歯を噛みしめながらつぶやく。
「妖怪と、手を組んでいたのですね。この町を訪れた人間を生贄に差し出せば、その代わり手は出さないという約束を」
「御理解が早くて助かります」
「ふざけないでください……!」
早く、三蔵を早く助け出さなければ。
「悟空たちは……みんなをどうしたのですか!」
「心配なさらずとも、貴方もすぐ後を追う事になりましょう」
私は捕らえている男の腕に歯を立てて噛み付く。
ひるんでいる隙に部屋を出て、全力で走り屋敷を抜けようとする。
少しして門前で立ち尽くしている、悟空たち三人の後ろ姿が見えた。
「みんな!」
「名前!よかった、無事だったんだな!?」
「三蔵は?」
「それが、一人どこかに落とされてしまって」
よく見ると、屋敷の外には大勢の町の人たちが行手を阻んでいた。
手には武器を持って、私たちをここから逃すまいとしている。
「貴方がたはすべて知っていたのですか、道師が妖怪と通じていた事も」
「感謝しておりますよ道師様。どんな形であれ、この町に平和をもたらして下さった」
「そんな、バカな……いや」
驚いたのは、道師も同じだった。
道師含めて、この町の人間全員が自分たちの平和の為だけに他人を犠牲にしてきた。
考えを改める気もないと言う。
「確かに貴方がたの言い分もよくわかります。しかし、守るべき物をもつのは貴方達だけではない」
「こちとら、他人の為に死んでやるつもりは微塵もねぇぜ?」
「……アンタらがそのつもりなら本気でやるかんな。もう人間だからとか妖怪だからとか、そんなん関係ねぇよ」
その時、一発の銃声が轟いた。
町の人達の群衆の奥。
銃口を天に向け、血まみれで、今にも倒れそうな三蔵の姿にどくりと心臓が鳴った。
「三蔵!」
一歩一歩、這いずるように私たちの元へ歩みを進める三蔵。
私も一秒でも早く、三蔵の元へ向かうため駆け出す。
「……退け」
「退いてください!」
戸惑う町の人たちが、一人ひとりと道を開けていく。
「ど、どうした!早く捕まえんか!今こそ奴を差し出せば、まだ間に合うかもしれん!……なぜ誰も動かんのだ!?」
手を伸ばして、私は倒れる寸前の三蔵を抱き止める。
痛々しいその身体を、ぎゅっと力を入れて抱きしめた。
心音とともに、たしかに感じるぬくもり。
「やっぱり違ったな、あの頃とは」
「まさか、生きて戻る筈が……」
道師の声に、三蔵が傷だらけの顔をゆっくりと上げる。
「生き延びるさ、胸張って生きる為に」
「何故だ……人はそこまで強くない」
「そうかもな……だが、これが俺達の選んだ道だ」
「三蔵、それ以上しゃべると体に障ります。行きましょう」
「あぁ」
三蔵の反対の肩を、悟空が腕をまわし支えて歩き出す。
群衆に見つめられる中、私達はこの偽りの平和の町を後にした。