RELOAD編
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保護した捕虜の女性たちを八戒、悟空、ヘイゼルが送り届けて、残りの私たちは隣町で宿屋を取って休んでいた。
八戒たちが戻ってきたところ、何やら人だかりが出来ていて様子を伺う。
「流行り病で……先の町まで薬を取りに行く途中なんです。夜になったら急に意識がなくなって……」
ぐったりとした赤ん坊を抱きしめる母親。
「この町にゃそんな施設もないしなぁ」
「ありゃあ、もう手遅れだよ……」
「阿瞞、阿瞞っあああああ……!」
必死に赤ん坊の名前を泣き叫ぶ女性に、私たちは為す術がない。
出来るとすれば、と思い視線がヘイゼルへ向かう。
それは皆も同じだった。
「ご期待には添えへんよ」
「なんでッ!」
「魂切れや。だからさっき言うたやないですか、ジープを止めろって」
「八戒!」
ヘイゼルの胸ぐらをつかみ上げたのは、八戒だった。
悟空に聞けばこちらへ向かう途中、妖怪の子供に遭遇したという。
まさかヘイゼルは、その子の命を奪おうとしたのか。
「貴方という人は……!」
「八戒!落ち着いてください!」
「したら、どなたか身代わりにならはりますか?」
ヘイゼルの鋭い視線は、まっすぐ八戒へ向かっている。
重たい沈黙が流れる。
「……そういう事や」
人間に対してあんなに激怒した八戒を見たのは、初めてかもしれない。
人だかりの中心で泣き崩れる母親を、私はただ見つめる事しか出来なかった。
◇
「八戒、お茶を持ってきましたよ」
「名前、すみません。ありがとうございます」
八戒の部屋に入り、ベッドの脇の机にコップを置く。
うつむき、影を落とした顔。
先ほどのヘイゼルの言動といい、捕虜の女性の件。
心配して見に来たが、やっぱり正解だった。
「八戒、顔色がよくないですよ。横になって休んでください」
「そんな、これくらい平気です」
「食事は私が運んできますから」
「いいえ、僕が自分で、」
「八戒!」
急に立ち上がり、ふらつき倒れそうになる八戒へ手を伸ばす。
その身体を支え切れずに、二人そろってベッドへ倒れ込んだ。
碧緑の瞳に見下ろされる。
「すみません、名前!怪我はありませんか?」
「いえ、大丈夫です。私よりも八戒の方こそ、」
「おばんです。こちらに名前はんがおるとお聞きしまし、て……」
扉を開けてベッドの上にいる私たちを見て、目を丸くするヘイゼル。
こ、これは。
「……なんやぁ!名前はんと眼鏡はん、やっぱりそういう関係どすか。いやいや!えらい失礼しました。あとはごゆっくり〜」
「え、あの!」
訂正する暇もなく、笑顔のヘイゼルが部屋から出ていった。
あの人、絶対に誤解してる。
それはそうと、先ほどからベッドに手をついて動かない八戒を見上げる。
大丈夫だろうか。
「あの、八戒。そろそろ退いてもらえると助かるんですが……」
「……!す、すみません」
あわてて退いた八戒から伸ばされた手を取り、身体を起こす。
ベッドに腰掛けた後、八戒は片手で顔を覆っていた。
「八戒、やっぱり具合が悪いのでは」
「いえ、僕は大丈夫ですので……」
「八戒の大丈夫は、信用できません」
「はは、信用ないですね。僕」
「信頼はしています……でも、余計なお世話かもしれませんが、心配なんです。いつも周りを気にかけてくれるくせに、一人でいろいろと溜め込むクセがあるので」
少し驚いたような八戒と視線が交わる。
それから、ふっとやわらかな笑みをこぼした。
「それは、名前も同じじゃないですか?」
「そんな事ないですよ。私は、いつも自分の事ばかりで」
「こうして、僕の様子を見に来てくれたのに?」
「う……」
「似た者同士ですからね、僕ら」
私は八戒ほどしっかりしてないし、器用でもないけれど。
ふふっと、二人して目を合わせて笑い合う。
「じゃあ八戒、何かあったら呼んでくださいね」
「ええ、ありがとうございます」
少しは元気付けられたかな。
穏やかな表情の八戒に安心して、私は部屋を出た。
◇
月が淡く光る夜。
ひとり宿の廊下を歩き、あたりを見渡す。
先ほどから、悟空の姿がどこにも見当たらない。
紫煙の匂いに誘われるようにたどると、金糸の後ろ髪が見えた。
「三蔵」
「名前か、どうした。こんなところに」
「ちょっと悟空を、」
三蔵の視線の先、窓からガトと手合わせしている悟空の姿を目にする。
ああ、そうか。
三蔵も心配してここから見守ってたんだ。
「ふふっ。いえ、なんでもないです」
「そうか」
「三蔵」
「なんだ」
「今日は、月がよく見えますね」
「……あぁ」
三蔵の隣で、きれいな月夜を見上げる。
少しひんやりとした風に、虫の音。
さらりと指先で髪をなでる感触に驚き、顔を向ける。
「三蔵?」
「……名前、貴方はまだ、」
「あら、お二方。こないなところで何してはりますの?」
スッと、触れていた手が離れていく。
三蔵が何か言い終わる前に、廊下の影から笑みを浮かべたヘイゼルが現れた。
「いわゆる逢引、どすか?いややわぁ、名前はん。昼間、眼鏡はんともイチャついとったくせに」
「誤解です」
少しムッとして返事をしてみても、ヘイゼルは笑みを崩さない。
「失せろ」
「はは、えらいご機嫌ななめやねぇ。お二人の邪魔して悪う思いますが、ちょっと用があるんや」
「……何の用だ」
「うちと手ぇ組んでくれはりますか」
「断る」
即答だった。
それでも、ヘイゼルは食い下がる。
「名前はんとあの御三方とは、一緒に旅してはるやないですか」
「名前は別として、あの三人はただの腐れ縁だ。それなりに使える時もある」
「あ、やっぱり名前はんは特別なんや。なんやまぁ、お熱い事で」
「貴様の本当の目的はなんだ?」
茶化すヘイゼルに構わず、三蔵は強い視線で射抜く。
月明かりの下、笑顔の消えたヘイゼルは夜空を見上げた。
「……お月さんは、どこで見てもおんなし顔してはるんやねぇ。三蔵はん。あんたにも、お師匠はんがいてはりますのやろ?」
ヘイゼルは、自分にも師匠がいたと話し始める。
孤児だったヘイゼルを息子のように育ててくれた師匠。
その師匠は子供の頃、モンスター即ち妖怪に殺されてしまったという。
幼いヘイゼルをかばって。
似ている。
その境遇は光明様と三蔵、二人の関係とそっくりだった。
ヘイゼルは三蔵と組んで、妖怪のいない世界を造りたいと語った。
「……興味ねぇよ。行くぞ、名前」
ヘイゼルに背を向ける三蔵に、私も歩き出す。
「三蔵はん!名前はん!あんたたちは人間、ですやろ」
「それに、何の価値がある」
ヘイゼルは全ての妖怪を憎み怨んでいるが、三蔵は違う。
そして、私も。
「ヘイゼルさん。貴方はもう少し知った方がいいかもしれません。この桃源郷にいる妖怪を」
もうとっくに気づいているであろう。
私たちのすぐそばにいる、彼らを。
八戒たちが戻ってきたところ、何やら人だかりが出来ていて様子を伺う。
「流行り病で……先の町まで薬を取りに行く途中なんです。夜になったら急に意識がなくなって……」
ぐったりとした赤ん坊を抱きしめる母親。
「この町にゃそんな施設もないしなぁ」
「ありゃあ、もう手遅れだよ……」
「阿瞞、阿瞞っあああああ……!」
必死に赤ん坊の名前を泣き叫ぶ女性に、私たちは為す術がない。
出来るとすれば、と思い視線がヘイゼルへ向かう。
それは皆も同じだった。
「ご期待には添えへんよ」
「なんでッ!」
「魂切れや。だからさっき言うたやないですか、ジープを止めろって」
「八戒!」
ヘイゼルの胸ぐらをつかみ上げたのは、八戒だった。
悟空に聞けばこちらへ向かう途中、妖怪の子供に遭遇したという。
まさかヘイゼルは、その子の命を奪おうとしたのか。
「貴方という人は……!」
「八戒!落ち着いてください!」
「したら、どなたか身代わりにならはりますか?」
ヘイゼルの鋭い視線は、まっすぐ八戒へ向かっている。
重たい沈黙が流れる。
「……そういう事や」
人間に対してあんなに激怒した八戒を見たのは、初めてかもしれない。
人だかりの中心で泣き崩れる母親を、私はただ見つめる事しか出来なかった。
◇
「八戒、お茶を持ってきましたよ」
「名前、すみません。ありがとうございます」
八戒の部屋に入り、ベッドの脇の机にコップを置く。
うつむき、影を落とした顔。
先ほどのヘイゼルの言動といい、捕虜の女性の件。
心配して見に来たが、やっぱり正解だった。
「八戒、顔色がよくないですよ。横になって休んでください」
「そんな、これくらい平気です」
「食事は私が運んできますから」
「いいえ、僕が自分で、」
「八戒!」
急に立ち上がり、ふらつき倒れそうになる八戒へ手を伸ばす。
その身体を支え切れずに、二人そろってベッドへ倒れ込んだ。
碧緑の瞳に見下ろされる。
「すみません、名前!怪我はありませんか?」
「いえ、大丈夫です。私よりも八戒の方こそ、」
「おばんです。こちらに名前はんがおるとお聞きしまし、て……」
扉を開けてベッドの上にいる私たちを見て、目を丸くするヘイゼル。
こ、これは。
「……なんやぁ!名前はんと眼鏡はん、やっぱりそういう関係どすか。いやいや!えらい失礼しました。あとはごゆっくり〜」
「え、あの!」
訂正する暇もなく、笑顔のヘイゼルが部屋から出ていった。
あの人、絶対に誤解してる。
それはそうと、先ほどからベッドに手をついて動かない八戒を見上げる。
大丈夫だろうか。
「あの、八戒。そろそろ退いてもらえると助かるんですが……」
「……!す、すみません」
あわてて退いた八戒から伸ばされた手を取り、身体を起こす。
ベッドに腰掛けた後、八戒は片手で顔を覆っていた。
「八戒、やっぱり具合が悪いのでは」
「いえ、僕は大丈夫ですので……」
「八戒の大丈夫は、信用できません」
「はは、信用ないですね。僕」
「信頼はしています……でも、余計なお世話かもしれませんが、心配なんです。いつも周りを気にかけてくれるくせに、一人でいろいろと溜め込むクセがあるので」
少し驚いたような八戒と視線が交わる。
それから、ふっとやわらかな笑みをこぼした。
「それは、名前も同じじゃないですか?」
「そんな事ないですよ。私は、いつも自分の事ばかりで」
「こうして、僕の様子を見に来てくれたのに?」
「う……」
「似た者同士ですからね、僕ら」
私は八戒ほどしっかりしてないし、器用でもないけれど。
ふふっと、二人して目を合わせて笑い合う。
「じゃあ八戒、何かあったら呼んでくださいね」
「ええ、ありがとうございます」
少しは元気付けられたかな。
穏やかな表情の八戒に安心して、私は部屋を出た。
◇
月が淡く光る夜。
ひとり宿の廊下を歩き、あたりを見渡す。
先ほどから、悟空の姿がどこにも見当たらない。
紫煙の匂いに誘われるようにたどると、金糸の後ろ髪が見えた。
「三蔵」
「名前か、どうした。こんなところに」
「ちょっと悟空を、」
三蔵の視線の先、窓からガトと手合わせしている悟空の姿を目にする。
ああ、そうか。
三蔵も心配してここから見守ってたんだ。
「ふふっ。いえ、なんでもないです」
「そうか」
「三蔵」
「なんだ」
「今日は、月がよく見えますね」
「……あぁ」
三蔵の隣で、きれいな月夜を見上げる。
少しひんやりとした風に、虫の音。
さらりと指先で髪をなでる感触に驚き、顔を向ける。
「三蔵?」
「……名前、貴方はまだ、」
「あら、お二方。こないなところで何してはりますの?」
スッと、触れていた手が離れていく。
三蔵が何か言い終わる前に、廊下の影から笑みを浮かべたヘイゼルが現れた。
「いわゆる逢引、どすか?いややわぁ、名前はん。昼間、眼鏡はんともイチャついとったくせに」
「誤解です」
少しムッとして返事をしてみても、ヘイゼルは笑みを崩さない。
「失せろ」
「はは、えらいご機嫌ななめやねぇ。お二人の邪魔して悪う思いますが、ちょっと用があるんや」
「……何の用だ」
「うちと手ぇ組んでくれはりますか」
「断る」
即答だった。
それでも、ヘイゼルは食い下がる。
「名前はんとあの御三方とは、一緒に旅してはるやないですか」
「名前は別として、あの三人はただの腐れ縁だ。それなりに使える時もある」
「あ、やっぱり名前はんは特別なんや。なんやまぁ、お熱い事で」
「貴様の本当の目的はなんだ?」
茶化すヘイゼルに構わず、三蔵は強い視線で射抜く。
月明かりの下、笑顔の消えたヘイゼルは夜空を見上げた。
「……お月さんは、どこで見てもおんなし顔してはるんやねぇ。三蔵はん。あんたにも、お師匠はんがいてはりますのやろ?」
ヘイゼルは、自分にも師匠がいたと話し始める。
孤児だったヘイゼルを息子のように育ててくれた師匠。
その師匠は子供の頃、モンスター即ち妖怪に殺されてしまったという。
幼いヘイゼルをかばって。
似ている。
その境遇は光明様と三蔵、二人の関係とそっくりだった。
ヘイゼルは三蔵と組んで、妖怪のいない世界を造りたいと語った。
「……興味ねぇよ。行くぞ、名前」
ヘイゼルに背を向ける三蔵に、私も歩き出す。
「三蔵はん!名前はん!あんたたちは人間、ですやろ」
「それに、何の価値がある」
ヘイゼルは全ての妖怪を憎み怨んでいるが、三蔵は違う。
そして、私も。
「ヘイゼルさん。貴方はもう少し知った方がいいかもしれません。この桃源郷にいる妖怪を」
もうとっくに気づいているであろう。
私たちのすぐそばにいる、彼らを。